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ブックデザインで狂った実験をする。/BEE STAFF COMPANY 〜3



企業の活動を写真集としてまとめて毎年一冊デザインする仕事を、6年間に渡り手がけていたことがあります。

制作にあたってクライアントからのオリエンは、「この写真集を手にする人は全世界で3000人」「この写真集は毎年関係者が見る」「デザインは任せる」「ブランドは損ねないこと」「とにかく毎年、見る人が楽しみにするような格好いいものを」というものでした。

普段のポスター制作や新聞広告制作などの仕事であれば、そんな自由には作らせてもらえる機会にはなかなか恵まれません。デザイナーにとっては最高の条件下での仕事だと思えるこの機会に、せっかくなので様々な実験をする仕事にしようと考えたことを覚えています。


写真集づくりの中で何を実験しようと思ったのか。


それは印刷において様々な特殊加工を試すことと、毎年のように生まれる新製品の用紙を使うこと。つまり、視覚だけで訴求するのではなく、触覚での訴求についてもできるだけ追求すること。


この仕事の自分の中での約束事として決めました。


自分の中での約束事=仕事の中に自分なりの楽しみを見つけること。それは俺の仕事のスタイルの中で大切にしていることです。

本の構成とデザインを進めていく中で、ケース、表紙・本文の用紙や特殊加工をどうするか、メッセージをより効果的に伝えるためにはどのような仕様にすればいいのかを考えることは、とても悩ましいことと同時にとても楽しいことでもあります。

もちろんそれはコストやスケジュールに影響することなので、実現するまでの間に、印刷会社だけでなくクライアントの担当者へ「なぜこの加工が必要なのか」「なぜこの紙でなくてはならないのか」を提案したことは言うまでもありません。

そんなアートディレクターの「まじでそこまでやるの?」というような要望を実現するために予算をかけてくれたクライアント、無理難題に様々な場面で苦労してくれた印刷会社と、寝不足を強いていたであろう弊社の当時のデザイナーたちにはとても感謝しています。


03写真集ケース
03写真集表紙
04写真集1
04写真集2
04写真集2*
04写真集4


アルミ蒸着の紙を使ったり、特色をふんだんに使ったり、箔押し空押し、バーコ印刷、シルク印刷、ペット素材の紙でスケルトンを表現したり、日本で誰もまだ使ったことのない最新の紙を使ったり...etc 

特殊なことを散々詰め込んだ贅沢で狂ってるこの一冊の本は、色校正も毎回工場まで出向き出張校正するハードな仕事でしたが、いま思えば、6年間でさまざまな実験をやり、印刷加工の知見を貯める仕事になりました。それは確実にデザイナーとしての血肉になったと思います。


普通のものを創るのは別にいつでもできる。でも、狂ったものは自分が創ろうとしなければ創れない。

「狂ったこと」をやれる機会にそれをやってみると大きな反響があるということは、これまでの広告制作、主にマス媒体の広告制作をやってきた自分にとっては肌でわかっていたことです。

広告ではなく写真集という手に取るものだからこそ、そこに驚きを作ることができれば、普通じゃないものを創ることができれば必ずきっと反響があるはず。

その目論見通り、世界各地のそれを手に取った関係者からは、驚きや感動のコメントがクライアントに寄せられたとのこと。もちろん当時はまだSNSもない時代。


反響があれば当然好循環が生まれる。


結果として何が起きたかというと、クライアントは「やった甲斐があった。来年もそれを超える驚きを頼みますよ!」となり、印刷会社は普段できないようなことをやり遂げた達成感と充実感からか、初めはディレクションに対してものすごく及び腰だったとは思えないくらいに「今年はどうしますか?なにやりますか?」と楽しみにしてくれるように。

最高の共犯関係。こうなると制作仕事は必ずうまくいく。


05写真集ケース
05写真集表紙
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半立体のシールだけのページがあったり、切り取れる大判のポスターを畳んで製本したり、DVDを付けたり、毎年いろんなことをこの仕事で試しました。それも「喜んでもらうため」「驚いてもらうため」そして「制作者が楽しむため」。制作者が楽しそうな仕事は、ものを通じて人に伝わるんです。

「こんなもんかな」で創ったものは「こんなもん」にしかならない。それはデザインだけでなく絵も写真も文章も同じでしょう。

普通じゃないもの、狂ったものを生み出すためには、プロフェッショナルの仕事を信じること。プロフェッショナルとしての知見とプライドを互いに持ち寄り、許される限り妥協せず創ること。狂ったものが生み出す熱量を信じること。その大切さをあらためて学んだ仕事でした。


そんでね、


その時の経験がね、15年以上経ったいまになってもね、こんな場面で生きてくるわけですよ。

「寅ちゃんはなに考えてるの?」という、2021年11月に発売になった写真集のような哲学書のような狂った本のデザインに。



twitterから生まれたコンテンツを、twitterで集ったプロフェッショナルたちが創ったこの本がどれだけ狂ってるかは、下の記事をご覧ください。



ちなみにこの本のデザインについては、12/29に大阪で行われる刊行記念イベントで話すかもしれませんので、ここでは話しません。

俺がこの本のアートディレクションはどう考えていたのか、この仕事で決めた自分との約束事はなんだったのか、興味があれば是非この本を買っていただき、イベントに参加してください。俺も行けたら行きますし、話すかもしれません。



最後に、「寅ちゃんはなに考えてるの?」は、こちらから購入できます。


普通に狂ってる通常版はこちら。


さらに狂ってる200冊限定の特装版はこちら。(抽選販売となります。お早めに!)


というわけで、狂った本のデザインも、普通の本のデザインも、会社案内やコンセプトブック、パンフレットなどのページ物を作る予定があれば、お気軽にご相談ください。基本的に、楽しそうなら引き受けます。

あそぶかねのために使います