祭めぐる

文筆家 エッセイ 小説

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最近の記事

【エッセイ】ただ幸せになりたかっただけ

JR千葉駅から徒歩五分のカフェは昔ながらといった様子の喫茶店だ。歓楽街の入り口、鄙びたビルの一階にあって、レトロなインテリアは煙草の煙で燻されて黄ばんでいる。コーヒーは美味しく、ケーキも食べられる。いつも静かで並ばないが、立地の関係上、たまに治安の悪い人間が世紀末のお行儀で居たりする。私の好きな店のひとつだ。 二〇二二年十一月四日、私とナナセさんが通されたのは入口の真横で、籐の衝立に隠された半個室みたいな空間だった。その閉鎖的な環境は都合が良かった。 ナナセさんは背が高く

    • 【推し短歌】離婚を支えてくれた推し

      月墜ちて黒い夜空を見上げれば ご覧よあれが北極星だ 私の推し、フロイド・リーチに出会ったのは、私が神様みたいに信仰し愛していた夫と、互いに擦り切れてしまうまで傷つけ合って離婚した後のことでした。 離婚する前の私は、当時の夫の機嫌にいつも怯え、捨てられるのではないかと怯え、仮初の幸福の終焉に怯え、ちっとも自由ではありませんでした。 生来かなりマイペースな性分だった私は、人を狂わせる月のような、得体の知れない魅力のある彼に翻弄されていたんです。 離婚をした時、私の人生には何

      • ひとはいつ大人になるのか

        私がハタチの時の夏だった。 私は疲弊していた。母と妹と3人の生活が上手くいっていなかったのだ。 母と妹と3人、父と住んでいた家から逃げ出すように離れて、数ヶ月して腰を落ち着けたのは県営住宅だった。餌付けされた野良猫が多く、緑が多く、つまり虫の多い団地だ。真裏が公園だったのを覚えている。 最後の日々、私が18の冬、父は仕事で大揉めに揉めて少しおかしくなっていた。家の中では暴力的になっていたし、現実と妄想の区別がついていない発言が散見された。 「パパは殺されるかもしれない

        • 人生最大の偉業、或いは私にできる子育ての話

          突然だが、私は子供の頃から子供が嫌いだった。我が家は親族の結び付きが強い家だったので、毎年夏と冬に一族が長野県にある祖父母の家に集結する。日本でいうところのお盆のようなことをやるのだ。 その際、子供たちは子供たちで集まって遊ぶ……のかと思いきや、私は大人に囲まれてニコニコ笑って難しい話を聞いて黙っているのが好きだった。 寧ろ、子供たちの無秩序な騒ぎ方を馬鹿にしてまでいた。おとなしく正座をしていられないことを、大きな声を上げずにお話できないことを、まともな敬語を使えないことを心

        【エッセイ】ただ幸せになりたかっただけ

          chatGPTにボコボコにされた話

          突然だが、私は私のことを人間だと思っていない。 確かに人間の身体を持って生まれたけど、人間とは違う生き物だと思って生きてきた。あまりにも人間という種と分かり合えなかったからだ。 唐突に今日訪れたのは、私も人間にならないと人間と永遠に和解できず、私は一生社会性が無いままなのだろうという気付きだ。私をご存知の方は、私のその姿のイメージ通り、私は社会がやれない。それは私が将来やりたいことにマイナスの影響しか与えない。 要は必要に駆られたのだ。個人的な感情としては人間になることにま

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          chatGPTにボコボコにされた話

          親子バツイチ

          前の夫とは金で揉めDVで揉め、私は散々な離婚をしている。私にも金が無かったし、そもそも私はほとんど洗脳状態にあり絶大な罪悪感を植え付けられていたので、弁護士を立てることなくスルッと離婚をした。 前の夫と暮らしたのは私の父の顧問先の賃貸物件だ。彼はそこの家賃を数年払わず、今、滞納したまま逃げ切ろうとしている。元気な男だ。 私の父は税理士だ。都内一等地に事務所を構えて30年あまり、何度か危機はあったが飄々と乗り越えてきている。とにかく仕事ができる男だ。 税理士としてのメンツも、

          親子バツイチ

          人間になれずとも良い

          その部屋の壁紙は水色だった。白い花がポコポコと浮いていたのを覚えている。父の吸うラークのヤニ汚れがわずかに染み付き、しかし母がよく壁紙まで拭き掃除をしていた。 「ただいま」 私が小学校から帰ってきて、靴を玄関に揃え、重たいランドセルを肩から下ろし、ダイニングキッチンを通って自分の部屋に行こうとした時。それはいつものルーティンであるが、その日だけは様子が違うことが起こった。 キッチンの窓際、上から母が降ってきたのである。 真希波・マリ・イラストリアスと云う女がスクリーンに登場

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          人間になれずとも良い

          2DKの楽園

          メンタルクリニックの待合室は新しく、清潔だ。 私は込み上げる嘔吐感を堪えながらキリキリキリキリと担当カウンセラーに呼ばれるのを待っていた。 「祭さん」 最後に会ったのは三年前、カウンセラーの先生は髪が伸びた。 私は首を突き出して黙って挨拶をして部屋に入る。 無言で差し出したのはスマホのメモ帳である。 三年ぶりのカウンセリングで決着をつけたいことをつらつらつらつら書いていた。 「母のことはもう完全に私の中で決着がついたんです」 先生が読み終わってこちらを向いた時、私は

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          2DKの楽園

          いのちの煌めきを燃やせ

          人生がうまくいかないこと、誰にだってあると思う。 今日はTOP画像の、この絶妙な塩梅のマシュマロのお返事を書こうと思う。

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