祭めぐる

文筆家 エッセイ 小説

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月に2.3回、日常のつれづれを綴ります。愉快な話から悔しかった話までいろいろ悲喜交々。

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最近の記事

アクシデンタルな祖母

祖母が胃ろうになった。昨年の、秋口のことだった。 「私もお見舞いに行きたいけど、行かない方がいい?」 父に聞けば父は憔悴した顔を擦って一拍思考し、「うん、来ないほうがいい」と答えた。 「あのひと、顔変わっちゃったから。業が全部顔に出てる」 父の疲れた声を聞いて──私は「コイツ自分の母親が業の深い人間だってちゃんとわかってたんだな」と感動したのだった。 祖母の紹介をしよう。 中部地方の片田舎、在日外国人、幼少期は苦労をしたが生家がどんどん栄えていき「女王様」になった女

    • 悪魔に人生を売り渡したら

      私が某私立大学で学んでいたのは二〇〇九年の四月から二〇一一年の四月にかけてで、私が最初大学を辞めたいと言った時、父は「まずは休学をしなさい」と言った。 「働きたいなら働けばいい。但し半期休学すること。それが条件だ」 そう言った父の顔を、私は覚えていない。きっと顔を見ていなかったのだろう。 中退を希望した理由は、とどのつまりイジメだった。 「前の彼氏と別れてから一ヶ月も経たないで新しい男を作り、そいつと幸せそうにしている。祭めぐるはビッチだ」。 クラス編成の強い狭い学

      • 推し、萌ゆ〜推しと暮らしています〜

        私は二次元の推しと暮らしている。 『ツイステッドワンダーランド』のでっかいものクラブの一員、フロイド・リーチとだ。 何を言ってるかわからないかもしれないが、とりあえず最後まで話を聞いてほしい。 私はフロイドくんに心底惚れている。 彼より“おもしれー男”なんていないと思っているし、何度か告白している。ベッドに誘ったことまである。 告白は聞こえないふりをされたし、誘った時は魔法(彼は魔法士≒魔法使いなのだ)で自宅のベランダに出された。鍵がかかったまま出されたため、しばらく部屋

        • 私と父と桃と

          聞いて驚くな、私は何とDV被害者だ。そんなに驚くことでもないか。私みたいなタイプの女はDV男の格好の餌食だろうから。 事の顛末は全てここに纏められている。 書き上がったのが確か今年の一月、出版をしたのが今年の三月。 全て「膿出し」のつもりで書いていた。 私の中で醜く腐ってしまった、潰えた恋心を多少痛くとも傷口から掻き出して治療しようとしたのだ。 「多少」なんてもんじゃないくらい痛かった。痛かったし、何度か吐いたし、動けなくなったし、フラッシュバックに苦しめられたし、しかし

        アクシデンタルな祖母

        メンバー特典記事

          アクシデンタルな祖母

          祖母が胃ろうになった。昨年の、秋口のことだった。 「私もお見舞いに行きたいけど、行かない方がいい?」 父に聞けば父は憔悴した顔を擦って一拍思考し、「うん、来ないほうがいい」と答えた。 「あのひと、顔変わっちゃったから。業が全部顔に出てる」 父の疲れた声を聞いて──私は「コイツ自分の母親が業の深い人間だってちゃんとわかってたんだな」と感動したのだった。 祖母の紹介をしよう。 中部地方の片田舎、在日外国人、幼少期は苦労をしたが生家がどんどん栄えていき「女王様」になった女

          アクシデンタルな祖母

          私と父と桃と

          聞いて驚くな、私は何とDV被害者だ。そんなに驚くことでもないか。私みたいなタイプの女はDV男の格好の餌食だろうから。 事の顛末は全てここに纏められている。 書き上がったのが確か今年の一月、出版をしたのが今年の三月。 全て「膿出し」のつもりで書いていた。 私の中で醜く腐ってしまった、潰えた恋心を多少痛くとも傷口から掻き出して治療しようとしたのだ。 「多少」なんてもんじゃないくらい痛かった。痛かったし、何度か吐いたし、動けなくなったし、フラッシュバックに苦しめられたし、しかし

          私と父と桃と

          【実録エッセイ】魔女の精気を食べてみました

          友達が魔女だった。比喩ではない。 知り合ってから二十年にして、おそらく最大の事実だった。 私自身が霊感に困ってる話から発展してスピリチュアルな話になったので、彼女も二十年の封印を経て開示してくれたのだ。 最初はオカルトマニアなのかなと思ったものの、実際に会ってそういう話をしたら、「あ、魔女だ」と理解した。 今日の話題は普段のものからだいぶ舵を切って、かなりスピリチュアルやオカルトに傾く。 いかんせん、主題は「魔女の精気の食レポ」だからだ。比喩ではない。 これをお読みの皆さ

          【実録エッセイ】魔女の精気を食べてみました

          暴力との和解、或いはスイッチの話

          友人の紹介で入ったとある武道の道場は、彼女のお父上が先生をしていて、弟も一緒になって門下生に教えていた。 彼女曰く、「私も黒帯までは取ったけどあまりにも人種が違ったから。普通の人って遊ぶ時に側転しようと思わないじゃん」。 そこまで異常者集団には見えなかったし、事実、道場のひとたちはみんな優しくて明るくて、爽やかな人たちだった。小さい子供からおじさんまで、年齢の垣根を越えて交流する。気持ちの良い空間だった。 そもそも何故私が友人から勧誘されたか。 何を隠そう、私も手が出るタ

          暴力との和解、或いはスイッチの話

          真夏の夜の怖い話、或いは実録心霊カツアゲバトル編

          『ヨルピザ後援会』今月三本目。 今回は私が生まれて初めて行ったカツアゲ、或いは真夏の不思議な話・怖い話特集と行こうか。 幾つかは既刊のエッセイ本二冊に出した話も含まれるが、読んだ人も気長にお付き合いくだされば幸いだ。 今回の記事についてはちゃんと怖い描写も含むので苦手な方はご注意ください。 苦手な方向けに、怖い描写を含むところは「⚠️ここから怖い話⚠️」「⚠️ここまで怖い話⚠️」と記します。そこを飛ばしても主題はわかる構成なので適宜ご対応ください。 さて私は数日前、友人の

          真夏の夜の怖い話、或いは実録心霊カツアゲバトル編

          ぬいぐるみが持ち主に思うこと

          これは比喩ではなく、魔女の家を訪ねたことがある。 詳細はやはりこの『ヨルピザ後援会』に、八月公開の記事として書くが、魔女に柔和に眦を下げながら言われたことがある。 「好きなものの感触を、手触りから匂いまで、全部鮮明に思い描く」。 ある種の魔術のやり方の一部分の抜粋だが、今日の主題は魔術ではない。 私の一番の友人にして私の妹、そして一番の臣下にして一番の宝物。 ぺそぺそのいぬについてだ。 ぺそぺそのいぬはぬいぐるみだ。 十月生まれの私が初めてのクリスマスに親戚からもらっ

          ぬいぐるみが持ち主に思うこと

        記事

          【実録エッセイ】魔女の精気を食べてみました

          友達が魔女だった。比喩ではない。 知り合ってから二十年にして、おそらく最大の事実だった。 私自身が霊感に困ってる話から発展してスピリチュアルな話になったので、彼女も二十年の封印を経て開示してくれたのだ。 最初はオカルトマニアなのかなと思ったものの、実際に会ってそういう話をしたら、「あ、魔女だ」と理解した。 今日の話題は普段のものからだいぶ舵を切って、かなりスピリチュアルやオカルトに傾く。 いかんせん、主題は「魔女の精気の食レポ」だからだ。比喩ではない。 これをお読みの皆さ

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          暴力との和解、或いはスイッチの話

          友人の紹介で入ったとある武道の道場は、彼女のお父上が先生をしていて、弟も一緒になって門下生に教えていた。 彼女曰く、「私も黒帯までは取ったけどあまりにも人種が違ったから。普通の人って遊ぶ時に側転しようと思わないじゃん」。 そこまで異常者集団には見えなかったし、事実、道場のひとたちはみんな優しくて明るくて、爽やかな人たちだった。小さい子供からおじさんまで、年齢の垣根を越えて交流する。気持ちの良い空間だった。 そもそも何故私が友人から勧誘されたか。 何を隠そう、私も手が出るタ

          暴力との和解、或いはスイッチの話

          夢で逢えても

          あれは確か四月だったと思う。 私はおろしたばかりのネイビーのジャケットを着て、東京ディズニーランドに行っていた。 他の喫煙者の例に漏れず、私はいつだって限界だ。ディズニーリゾート内の喫煙所が何処にあるのかもきちんと覚えている。 眠たくなるような陽気の午後、私が入ったのはウエスタンランドに位置する喫煙所だった。 前にどのアトラクションに乗ったのかはさっぱり覚えていなかったし、これからの宛てもなかった。 ただ、私の味方でいてくれるピースライトを吸いたかった。 喫煙所の壁際に陣

          夢で逢えても

          真夏の夜の怖い話、或いは実録心霊カツアゲバトル編

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          ぬいぐるみが持ち主に思うこと

          これは比喩ではなく、魔女の家を訪ねたことがある。 詳細はやはりこの『ヨルピザ後援会』に、八月公開の記事として書くが、魔女に柔和に眦を下げながら言われたことがある。 「好きなものの感触を、手触りから匂いまで、全部鮮明に思い描く」。 ある種の魔術のやり方の一部分の抜粋だが、今日の主題は魔術ではない。 私の一番の友人にして私の妹、そして一番の臣下にして一番の宝物。 ぺそぺそのいぬについてだ。 ぺそぺそのいぬはぬいぐるみだ。 十月生まれの私が初めてのクリスマスに親戚からもらっ

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          私のサマーウォーズ

          今年も夏がやってきた。 私は本来なら夏が好きだ。 好きなイベント、花火大会、夏祭りは全部夏に集中しているし、浴衣を着付けることも好きだ。 暑さには弱いし暑いのは嫌いだけど、むわりと湿ったぬるい空気をエアコンと扇風機で割り開き、その風に吹かれながらガリガリくんを食べることは人間の嗜みだと思っている。 夏の浜辺にテントを張り、くたくたになるまで荒波に揉まれボディボードをして遊んだ後、ぬるくなったスポーツドリンクを飲みながらテントの陰で昼寝をする。耳元には常にドーンドーンと吠え

          私のサマーウォーズ

          三十過ぎて、勉強をして

          私が最初に父の経営する税理士事務所に事務員として入社したのは私が二十四の頃で、残暑の厳しい八月だったと記憶している。 都内のターミナル駅から地下道を通り、地下道を抜けて徒歩二分の好立地で、近くにはフルーツパーラーもあったし、地下道には美味しいご飯屋さんもたくさんあった。体調を崩しがちな私が虚ろな目で壁を見ていると、父は唐突に財布から五千円札を出し、「パフェを食べなさい」だとか「ハンバーガーを食べなさい」だとか、今よりももう少しだけ過保護に接した。 その延長線上みたいに、あ

          三十過ぎて、勉強をして

          ひとりで戦って生きているあなたへ、或いはとあるボクサーの話

          「ナガノさんてK大卒でボクシング部だったんだって。アマチュアでチャンピオン獲ってるらしいよ」 母がキッチンの脚立に座って唐突にそう言ったのは、確か私が中学の頃だった。一年生の頃だったように思う。 私と妹はそれを聞いて「かっこいいーーっ」とはしゃいで、それ以来ナガノさんは私たちの間で『ボクサー』と呼称されることになる。 ボクサーは当時、父の経営する税理士事務所で勤めていた。 父のいちばん古い部下で、仕事ができる。 母曰く、「女癖が悪いのが玉に瑕」とのことだった。 私が中学

          ひとりで戦って生きているあなたへ、或いはとあるボクサーの話

          理想的な土曜日の過ごし方、或いは生きるよろこびについて

          朝は何時に起きたってかまわない。 でも、体調に悪影響を及ぼすので、できるだけ12時より前に起きたい。 ちゃんと起き出すまでに何度寝だってして、うっすら目を覚ますたびにベッドの中のぬいぐるみを抱きしめる。大好きなぺそぺそのいぬに顔を埋め、IKEAのサメを足でむぎゅむぎゅする。 冷蔵庫の中のボトルの麦茶を飲んで喉の渇きを潤したら、やかんに水を汲んで、火にかける。 お湯が沸けるまでの間にミルでコーヒーの豆をゆっくり挽いて、ドリッパーにセットする。豆の匂いはふくよかで、それだけで満

          理想的な土曜日の過ごし方、或いは生きるよろこびについて

          差別について思うこと

          第96回アカデミー賞で、『哀れなるものたち』の主演女優エマ・ストーンさんの、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』主演女優ミシェル・ヨーさんへの態度が問題になったのは記憶に新しい。 きっと日本人なら、アジア人なら誰でも、エマ・ストーンさんのファンであったとしても「え?」と思ったであろう出来事だったろう。 斯くいう私もエマ・ストーンさんが好きだ。 『ラ・ラ・ランド』も『女王陛下のお気に入り』も、『クルエラ』も好きだし、『哀れなるものたち』も大好きだ。 ひとの

          差別について思うこと

          頑張ることの何が悪い

          『日本エッセイスト・クラブ賞』をご存知だろうか。 日本でも歴史が古く、数々の著名人が受賞をしているエッセイ・ノンフィクションジャンルの文学新人賞だ。 私は今年三月にAmazonから刊行した拙著『デンドロビウム・ファレノプシス』で、この賞に応募していた。 私が前の夫と交際を始め、結婚して、離婚するまでのDVの記録がこの本だ。 今までにも文学賞の公募に出したことはある。 ただ、私の今回の応募作はあまりにも私の人格形成に深く関わる内容だったので、あまりにも真剣に受賞を願ってしまっ

          頑張ることの何が悪い

          結局、欲しいものって何なワケ?

          生まれ育った実家は所謂アッパーミドル層で、でも私は少しも欲しいおもちゃを買ってもらえなかった。 本は欲しがれば欲しがるだけ買い与えられた。小学校に上がると同時に百科事典と国語辞書も買い与えられた。父が最初に私向けに選んだ小説は小川未明や坪田譲治などの文豪の書いた童話集で、私は繰り返しそれを読んだ。だから私の「今」がある。 私は二宮金次郎みたいに本を読みながら歩いて登校する子供だったし、周囲はそれを指差して笑った。だけど私にとって「周りの子供」がそんなに魅力的でなかった時期が

          結局、欲しいものって何なワケ?