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弁護士ばんぷうの離婚裁判百選

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#悪意

離婚裁判百選⑭番外編江戸時代の離婚Ⅱ

離婚裁判百選⑭番外編江戸時代の離婚Ⅱ

江戸時代の離婚は、離縁と呼ばれていました。三行半と呼ばれた離縁状を渡す必要があったことはご紹介しました(実は武士の場合には、両家の当主から双方熟談の上離縁となった届け出があればよかったそうです)。熟談、とは今でいう協議離婚が必要で、夫からの離縁状のような一方的な離婚は認められていなかったようです。庶民の場合には、離縁状が原則必要でした。

『縁切寺』は、全国に二か所しかなかった(鎌倉と群馬県太田市

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離婚裁判百選⑬番外編 不倫をすると首になるのか?それでいいのか。

離婚裁判百選⑬番外編 不倫をすると首になるのか?それでいいのか。

実は何度か、不倫裁判百選において扱ってきたテーマです。

不倫をすると、配偶者からの慰謝料請求をもって解決されるのが通常ですが、事象を細かくみていくと、それだけではない問題になってしまう現象が多いと指摘できるのです。

1 不倫相手の問題石嵜 信憲編『懲戒処分の基本と実務』(中央経済社、2019年)67頁は、『社内における不倫、社外でも同僚の配偶者、取引先の関係者等企業と関連性を有する人物との間の

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離婚裁判百選⑫不倫をすると婚姻費用は制限されるのか?

離婚裁判百選⑫不倫をすると婚姻費用は制限されるのか?

答えはNOです。不倫をしても婚姻費用分担請求ができる余地は十分あります。そもそも婚姻費用は、夫婦間における生活費の負担をどう分配するのか、の問題でした。

1 不貞行為と婚姻費用? 不貞行為に及んでしまった他方配偶者からの婚姻費用分担請求は、制限されるのか。実は、専ら又は主として権利者のみに存する場合には、権利者からの婚姻費用分担請求は信義則に反しあるいは権利濫用として許されず、権利者が現に監護し

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離婚裁判百選⑪婚姻費用について考える

離婚裁判百選⑪婚姻費用について考える

婚姻費用は、婚姻生活中の生活費を請求する権利として確立しています。婚姻費用の未払い等が続き、一方的に別居生活を開始すると、悪意の遺棄が成立する可能性が高いことは既に検討してきました。

では、婚姻費用は、どのようなプロセスを経て請求ができるようになるのか。悪意の遺棄の被害に遭うと、生活費が支払われない。生活費が支払われないと、場合によっては生死をさまようことにならないか。すぐに生活費をもらえるよう

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離婚裁判百選⑩番外編江戸時代の離婚

離婚裁判百選⑩番外編江戸時代の離婚

「悪意の遺棄」は、実は戦後に離婚原因の一つとして数えられてきたものでした。

その前はどうだったのか。江戸時代の『離縁』について遡ってみます。

1 離縁と三行半離婚は、離縁と呼ばれていたようです。離縁は、現代では養子縁組を解消する際に用いる用語です。武士が離婚をする場合には「双方熟談」をすれば足りましたが、平民がする場合には、夫から妻への「離縁状」なるものを交付することが必要とされました。

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離婚裁判百選⑨悪意の遺棄を原因に慰謝料400万円

離婚裁判百選⑨悪意の遺棄を原因に慰謝料400万円

0 はじめに広がりを見せる悪意の遺棄の歴史をたどりました。

悪意の遺棄は、実は、比較的高額な慰謝料を認容する例もあります。不貞行為と合わせ認定する裁判例ですが、400万円の慰謝料を認めた裁判例をご紹介いたします。

1 裁判例の検討 名古屋高裁において平成21年5月28日に出された交際裁判例は、悪意の遺棄を認めています。

六 当審における妻の主張
  (1) 本件婚姻関係の破綻原因
   ア 

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離婚裁判百選⑧悪意の遺棄を遡る

離婚裁判百選⑧悪意の遺棄を遡る

0 はじめに悪意の遺棄の歴史的を振り返っています。

実は、戦後民法を改正するにあたって「家」の廃止など、根本的な改正を迫られている状況下で、最終案直前になって尊属に関する2つの事由が落とされ,それに代わって,悪意の遺棄と,強度で回復の見込みのない精神病が加えられたと指摘されていました。もう少し掘り下げてみます。

1 「直系尊属からの虐待」? 実は直系尊属からの虐待が適法に離婚をする原因となるこ

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離婚裁判百選⑦悪意の遺棄の歴史?

離婚裁判百選⑦悪意の遺棄の歴史?

悪意の遺棄、とは、民法770条に定められています。ある指摘では、古典的な離婚原因であると指摘されていますが、日本の民法が制定された段階で明確に定められていたものではないようです。

島津一郎ほか編「新版注釈民法(22)親族(2) 離婚 -- 763条~771条」366頁以下(2008,有斐閣,岩志和一郎執筆)によると,民法770条の原型は,明治民法の改正を諮問された大正期の臨時法制審議会によってま

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離婚裁判百選⑥悪意の遺棄をもう少し突き詰める

離婚裁判百選⑥悪意の遺棄をもう少し突き詰める

0 はじめに悪意の遺棄について検討し続けています。

ここでも指摘されていますが,悪意の遺棄,の判断のある意味前段階である,同居・協力・扶助義務とは,どんな内実を伴うものでしょうか?

1 ある実務本による指摘岩井俊「人事訴訟の要件事実と手続 訴訟類型別にみる当事者適格から請求原因・抗弁まで」160頁以下(日本加除出版,2017年)は,以下のように指摘します。

イ 同居・協力・扶助の義務夫婦は同

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離婚裁判百選⑤悪意の遺棄の慰謝料?

離婚裁判百選⑤悪意の遺棄の慰謝料?

悪意の遺棄について掘り下げ続けています。

④は,悪意の遺棄が成立すると,不法行為が成立する,慰謝料が成立することを指摘した裁判例でした。この判断は確立されているものなのでしょうか?

1 裁判例の検討 東京地方裁判所において平成21年 4月27日に出された裁判例は,やはり悪意の遺棄に該当することを承認し,300万円の支払いを認めています。
 

事案の概要 本件は,原告が,被告に対し,被告の不貞

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離婚裁判百選①悪意の遺棄とは

離婚裁判百選①悪意の遺棄とは

0 はじめに 突然ですが、離婚裁判を百個分析することにします。記念すべき第1回は悪意の遺棄です。悪意で遺棄をした、(言い方は悪いですが)姥捨て山においてきたような文言が離婚事由になることは割と有名です。記念すべき第1回は、不貞行為や暴力行為などのあからさまなものではなく、悪意の遺棄、を探ってみます。

1 裁判例の検討 東京地方裁判所において平成29年 9月29日に出された裁判例は、妻であった原告

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