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離婚裁判百選⑪婚姻費用について考える

婚姻費用は、婚姻生活中の生活費を請求する権利として確立しています。婚姻費用の未払い等が続き、一方的に別居生活を開始すると、悪意の遺棄が成立する可能性が高いことは既に検討してきました。

では、婚姻費用は、どのようなプロセスを経て請求ができるようになるのか。悪意の遺棄の被害に遭うと、生活費が支払われない。生活費が支払われないと、場合によっては生死をさまようことにならないか。すぐに生活費をもらえるようになるのか?最高裁によると実は、NOなのです。

1 はじめに

婚姻費用の分担金について、最高裁は、令和2年1月23日民集74巻1号1頁において、民法760条に基づく婚姻費用分担請求権は、夫婦の協議のほか、家事事件手続法別表第2の2の項所定の婚姻費用の分担に関する処分についての家庭裁判所の審判により、具体的な分担額が形成決定されるものであり(最決(大)昭和40年6月30日民集19巻4号1114号)、当事者が婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの婚姻費用についての実体法上の権利は存続しているので、離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を形成決定することもできる、ということは、「当事者が婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の請求をすることができる場合であっても異なるものではない。したがって、婚姻費用分担請求審判の申立て後に当事者が離婚したとしても、これにより婚姻費用分担請求権が消滅する者とはいえない。」

と判示しています。要は、婚姻費用分担請求権は、婚姻関係にあるものどおしの協議からはじまり、協議が整わないのであれば調停、これも整わないのであれば審判移行、その後裁判を受けることが承認されている権利であると指摘しています。

2 悪意の遺棄と婚姻費用

 しかし、この最高裁判例には、悪意の遺棄によって別居が成立した場合、どう婚姻費用の協議を行えばいいのか。協議をしたくてもできない場合、調停審判裁判の途にすすまなければならないとも指摘していると言えます。

 悪意の遺棄=『同居・生活費の負担をしない』ことをいうのであれば、調停、審判、裁判への途に進まなければならない、協議をしたくてもできないのであれば、調停審判裁判の途しかない、ということを意味しているとも理解されます。実際の悪意の遺棄の現場、婚姻費用分担請求の現場では、あまりにも手続として重すぎないか。

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