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離婚裁判百選⑨悪意の遺棄を原因に慰謝料400万円

0 はじめに

広がりを見せる悪意の遺棄の歴史をたどりました。

悪意の遺棄は、実は、比較的高額な慰謝料を認容する例もあります。不貞行為と合わせ認定する裁判例ですが、400万円の慰謝料を認めた裁判例をご紹介いたします。

1 裁判例の検討

 名古屋高裁において平成21年5月28日に出された交際裁判例は、悪意の遺棄を認めています。

六 当審における妻の主張
  (1) 本件婚姻関係の破綻原因
   ア 本件婚姻関係は、以下のとおり、夫の不貞及び悪意の遺棄によって破綻しているから、夫との離婚と、慰謝料六〇〇万円及び本件別居の日である平成一六年三月二〇日以降の遅延損害金の支払を求める。
 (ア) 本件夫婦は、平成一五年春までは、ごく普通の夫婦だったが、夫は、同年五月頃から挙動が怪しくなり始め、名古屋市内や名神高速道路一宮インター周辺のラブホテルで不貞行為をするようになり、同年九月以降、その割引券やカード等が夫の持ち物から見つかった。
 夫は、同年九月頃から無断外泊を始め、妻と真摯に話し合おうとせず、同年一一月一四、一五日には、京都に不倫旅行に出かけ、同年一二月頃以降、「俺の中では心の整理着いているし、もう終わってしまってる。」「今更何を言われても心は変わらない。無駄です。」等と、一方的に離婚を求めるメールを送ってきた。
 (イ) 妻は、上記のとおりラブホテルの割引券等を見つけて大変驚いたが、本件婚姻関係を解消するつもりはなく、当初は夫を追及せず、近郊や京都、奈良等に家族で旅行する等の生活を続けていた。
 しかし、妻は、夫の上記態度に、やむなく平成一六年三月一日に調停を申し立てたが、夫は、居所を隠したまま、同月二〇日、一方的に本件マンションを出て別居をしてしまった(以下「本件別居」といい、本件婚姻の開始から本件別居までの期間を「本件同居期間」という。)。
 (ウ) 本件婚姻関係は、以上のような夫の不貞行為と悪意の遺棄によって破綻している。‥(中略)‥

一方的な別居とをもって悪意の遺棄であると主張しています。

2 裁判所の判断

第当裁判所は、①妻と夫の離婚請求は、結論的にいずれも理由があって‥(中略)‥③妻の損害賠償請求は、夫に対し、慰謝料四〇〇万円及びこれに対する本件別居の日である平成一六年三月二〇日から支払済まで民法所定年五分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由があり‥(中略)‥
 一 本件婚姻関係の経緯
 ‥(中略)‥夫は、平成一五年(下記(6)まで、同年中の日付は単に月日のみで表示する。)五月一〇日、一一日に、同僚と下呂温泉に旅行に行ったが、その頃から挙動がおかしくなり、六月頃以降、休日前日になると夜間に出掛けて、翌日帰宅するとか、深夜になって、急に帰宅できないと妻に連絡するとか、自宅でも携帯電話を手放さず、通話等は家の外に出て行なう等の行動を取るようになった。
 実際には、夫は、氏名不詳の相手と、名古屋市内や名神高速道路一宮インター周辺のマイン、ステラ、サントロペ、サザンリゾート、ツインタワーアメリカ、ロンドン等のラブホテル(名称は当時のもの)で不貞行為を繰り返しており、夫の行動を不審に思った妻が夫の持ち物を確かめたところ、九月頃以降、複数回にわたり、夫の財布の中等から、かなりの量のラブホテルの割引券や利用カード、あるいはホテルの名前入りのライター等が発見された。‥(中略)‥
 更に、夫は、一二月頃以降、要旨、「回りくどい言い方しても仕方ないから、ストレートに言うけど、俺の中では心の整理着いているし、もう終わってしまってる。」「俺の性格からもう何をやっても無理。……おまえ達がいないとホッとする。……離婚しよ。……メールでこんなの卑怯なのは承知の上。罵倒されても軽蔑されても本望です。」「俺にとっては考えに考えた上での結論。今更何を言われても心は変わらない。無駄です。……俺は家をでる。慰謝料養育費は月一〇万円。Aが大学出るまで一五年間。今の収入がある間は保証する。学資保険もAのために継続。貯金はおまえ達の名義のものはすべて差し上げます。……マンション売った差額の借金はすべて俺が今後で払う。」等々と、離婚を求めるメールを、一方的に妻に送りつけた‥(中略)‥
 二 本件婚姻関係の破綻原因、及び妻の損害賠償請求の当否

  (1) 前記一認定の事実によれば、夫は、遅くとも平成一五年六月頃以降、氏名不詳の相手と不貞関係にあって、本件婚姻関係は、もっぱらこれによって破綻しており、将来にわたり容易に回復し難い状態にあると認められる。また、夫は、正当な理由なく本件別居を行なったものであって、これは、妻に対する悪意の遺棄に当たるというのが相当である‥(中略)‥
  (2) そして、上記(1)の本件不貞行為及び悪意の遺棄は、妻に対する不法行為に当たるところ、夫のこれら行為によって妻が離婚を余儀なくされたことや、本件婚姻関係の継続期間、妻の年齢等を考慮すれば、妻の被った精神的損害に対する慰謝料は、四〇〇万円と認めるのが相当である。
 結局、夫は、上記同額及びこれに対する本件別居の日である平成一六年三月二〇日から支払済まで民法所定年五分の割合の遅延損害金の支払義務があることとなる。

3 若干の検討

400万円の慰謝料を認める論拠として裁判所は、『妻が離婚を余儀なくされたことや、本件婚姻関係の継続期間、妻の年齢等を考慮すれば、』と述べています。

不貞行為の期間等も問題とすることなく、不貞行為と悪意の遺棄があったことを前提とし、妻の被った精神的損害に対する慰謝料は、四〇〇万円と認定しています。悪意の遺棄、が成立する判断は同居義務違反など、本来の用語法?とはかなり異なる意味で用いられていることが理解できます。


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