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離婚裁判百選⑬番外編 不倫をすると首になるのか?それでいいのか。

実は何度か、不倫裁判百選において扱ってきたテーマです。

不倫をすると、配偶者からの慰謝料請求をもって解決されるのが通常ですが、事象を細かくみていくと、それだけではない問題になってしまう現象が多いと指摘できるのです。

1 不倫相手の問題

石嵜 信憲編『懲戒処分の基本と実務』(中央経済社、2019年)67頁は、『社内における不倫、社外でも同僚の配偶者、取引先の関係者等企業と関連性を有する人物との間の不倫となれば、企業秩序を乱すおそれがあるといえ,懲戒の対象になり得ると考えます。』との指摘しつつも、『当該不倫を行った従業員に対し懲戒処分を実施できるか否か,またどの程度の懲戒処分とすべきかは,当該不倫行為が企業秩序や企業の社会的評価に及ぼした悪影響の内容・程度次第ですが,その判断の際に1 つポイントとなるのが,その不倫が社内での問題なのか,取引先等社外を巻き込んだ問題なのかという点です。』とも述べています。取引先等社外を巻き込んだ問題なのか、というのは、一つの基準としてはわかりやすいといえます。

2 一つの疑問と試論

しかし、実は、不貞行為を原因とする配偶者ではない交際者(不貞相手)に対する慰謝料請求は、制限方向、すなわち請求をみとめるべきでないという立場が有力化していることは何度も指摘してきました。

石嵜 信憲編『懲戒処分の基本と実務』(中央経済社、2019年)71頁は、『取引先関係者との不倫の場合には,自社の企業秩序のみならず取引先の企業秩序も乱しかねません。企業の社会的信用を毀損し,取引先からの信頼をも失いかねない重大な非違行為といえますから,懲戒解雇は難しくとも,事案によっては契約の存続を前提とした懲戒(ないし普通解雇)とすることは理論上十分に考え得ると思います。‥(中略)‥裁判所も,妻子ある自動車教習所のスクールバス運転手が女性教習生と不倫関係となり懲戒解雇された事案において,懲戒解雇は著しく苛酷であることから社会的相当性を欠き無効としましたが,仮免許検定,実技卒業検定等の試験の公正に疑惑を生じさせるなど信用を失墜させた行為(不倫行為)は,教習所の「社会的評価の低下,企業秩序の混乱及び取引上の損失をもたらした」として,企業内の非行として評価すべき旨判示しました(豊橋総合自動車学校事件=名古屋地判昭56.7.10労判370-42)。なお,裁判例の中には,生徒の母親と不倫関係となったことを理由とする妻子ある教職員への懲戒解雇を有効とした事例もありますが,この事例は生徒のほとんどが韓国籍であり,韓国においては儒教的な性的倫理感が強いということを背景にした判断であって特殊事情の存する事案であったと評価すべきです(学校法人白頭学院事件=大阪地判平9.8.29労判725-40)。

3 それでよいのか‥

 不倫相手が取引先であれば、たしかに、企業全体の信用にかかわりうる問題であると整理して、解雇などのサンクションを与えることには一定の合理性があるように思われます。しかし、解雇をされた従業員は、賃金を得る途を失い、財産分与等が難しく、また、配偶者からの慰謝料請求をされる地位に陥ります。しかし、すでに指摘しているように、不倫相手からの慰謝料請求ができない、ないし制限される、との方向になれば慰謝料回収の道を実質的に閉じてしまうことになるのです(いわば会社を解雇された自分の配偶者からしか財産分与や慰謝料など代償を求めることができない)。このように考えていくと、不倫慰謝料請求を、制限していく方向一択で議論することは被害者のためにならず、かつ、加害者を過度に利することになりかねないのではないか。

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