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詩 大切なものたち 記憶の中で

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形象化と現実は、少しズレていて、本当の出来事より印象に残ったりします。
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2023年5月の記事一覧

詩)バスの窓に映るもの

詩)バスの窓に映るもの

海沿いの路線バス
客は僕一人
なぜだか今日に限って妙にひんやりする
「ああ あれか」と思った
案の定、弟が座っていた
死んだ弟だ
二人で並んで座る

バスはいつもよりスピードをあげた
弟は窓の方を向いて黙っていた
いつもはおしゃべりな弟
向かいの窓には弟の顔が写っていた
何か言いたいような もう なにも言いたくないような
僕は窓をみつめていた
弟は僕をみなかった
僕は横を向けなかった
バスは急に

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エッセー 父親のひとこと

エッセー 父親のひとこと

娘からラインが来た。夫が4月から静岡に単身赴任になるという報告。妻はすぐ「そうなの!大変じゃん」「静岡のどのへん?」とメールを返す。こんな時、父親は娘になんと言えばいいんだろう?何か気の利いた言葉で励ますべきか?父親と娘。僕は社会人の娘に社会人として言葉をかけるのが、うまくない。もっと素直に妻のように「大変だね」と言えばいいものを、しばらくしてから「単身赴任の期間とかはあるのか」みたいなメールを返

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詩)千円札

詩)千円札

バイトの入金日は明日で
財布のお金は乏しくて
いつもは380円のフランク定食
フランクフルト2本と目玉焼き 丼飯と豚汁。
今日は辞めとこう
次の日に千円札1枚 残して置きたくて
下宿に戻ればみかんがある
昨日買った少し酸っぱいSサイズ

橙色の灯りをくぐり
腹を空かせて
カツカツと大股で
夜道を早足で歩いた
それこそ何もない男の部屋に
戻るために
急ぐ必要など何もないのに
ぶつぶつと何かいいながら

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