宇宙連合より指令を受け、サイトウ星人たちの乗ったロケットは宇宙の旅を続けている。今回、連合から指定された調査対象は、この太陽系の惑星たち。窓の外を見ると真っ赤に燃える太陽を中心に、いくつかの惑星が規律正しく公転している。
「隊長、あの青い惑星が地球でしょうか。美しいですよ」
「うむ、あの青さは水だろうか。とすれば、我々が探している高度な文明を持つ生物がいる可能性が高いぞ」
かくして調査は開始された。サイトウ星人たちは、ゆっくりと地球に近づいていく。もし仮に、この星に知能を有する文明があったとして、彼らに我々の存在を発見されてはならない。部外者には攻撃を行うのが文明の常だからだ。こちらが何をしていようとおかまいなく、レーザーで打ち落とされる可能性がある。万全の注意を払って調査は進められた。
ロケットは、地球からある程度の距離を保ち停止。天体望遠鏡を何倍にもした大きさの光学機器がロケットの横っ腹から現れて、観察は始まった。調査に適した土地はないかと、隊員がレンズを振り回す。
「む、隊長。あの島なんてどうでしょうか。土地が小さいわりに、何やら生物らしき動きをするものがうじゃうじゃ密集しています。データが取りやすいかと」
「どれだ。ふむ、いいじゃないか。この島で調査を開始しよう」
それからサイトウ星人たちは、島の観察を続けた。絶対に我々の存在を気づかれてはいけない。ゆえに、調査する時間帯は、動きが最も活発になる時間帯に短く行う決まりになっている。
観察を続けると、その生物らしきもの達は、活動を停止するタイミングがほぼ同じであることが判明し、そのあと活動を再開する時間帯も同じであることが分かってきた。これは、睡眠と覚醒という活動に違いない。その間を彼らは1日と呼ぶ。高度な文明を形成した生物のお決まりのパターンだ。
彼らが最も俊敏になるのは、覚醒したあとからの1時間ほどであることも分かってきた。しかしながら、不思議な動きをしている。そのほかの要素においては、生物である可能性がきわめて高いのだが、その一点の疑念が決断を遠ざけた。
「隊長、なんだか変です。奇妙な動きがあります」
「どうした?何か気づいたか」
「今日の彼らの動きを、昨日の同時刻の行動と照らし合わせているのですが、ほとんどズレがないのですよ。ほら、あの個体とか見てください。昨日と全く同じ道の端っこを歩いて、全く同じ信号機で立ち止まってる」
「機械的というわけか」
「意思をもった動物がここまで精密に動けるでしょうか。なんだかロボットのように見えてきましたよ」
「まだ昨日と今日の二日間のデータしかない。それで判断するのは早計だ。ギリギリまで観察してみよう」
そして、五日間の調査が終了した。これ以上時間をかけると、もし本当に高度な文明ならば気づかれ始める。改めて隊員たちは、隊長に結果を報告した。
「調査報告。やはりロボットの類いと見て間違いなさそうです。動きは全く狂いません。表情の変化もなく、感情の揺れも見られない。そのようにプログラミングされているとしか思えません」
「そうか、確かに生物ではなさそうだな。よし、大丈夫だ。退散するとしよう」
サイトウ星人たちは、地球から離れることを決めた。彼らを乗せたロケットは、宇宙の海の中に消えて行く。
「隊長。これで太陽系の惑星は全て調査しました。結局、どの星にも際立った文明はなかったですね。良かったです」
「そうだな。太陽系にたいした生物はいないことがわかった。太陽の破滅が間近に迫ったいま、せめて文明高き生物だけでも救わなねばならない。それが宇宙連合の方針だからな」
「しかし隊長。ひとつだけ質問が。地球にいた大量のロボット、本当は生物だったという可能性もあるのではないでしょうか」
「いや、その点は問題ない。もし生物だったとしても、あれは高度な文明ではないからだ。真に高度な文明とは、余裕がなければならない。仕事は効率よくほどほどに済ませ、遊びに時間を使うのだよ。あのロボットたちは、別の惑星から送り込まれたのだろうな。あんな状態は高度な文明とかではなく、大きな工場といったほうがしっくりくる」
「確かにそうですね。あんな働き方いやだな。もし、あれが生物だったとしたら社会のレベルが低すぎますね」
「地球は、太陽系の中でも特に美しい惑星だったから心配であったが、これで一安心だ。帰って報告が終わったら、みなで一杯やろう」
隊長の言葉に隊員たちは盛り上がった。だが真っ直ぐ帰る必要はない。せっかくこんなところまできたのだから、いくつかの星に立ち寄って、観光しながら帰ればいい。彼らの上官だって、遠方に出張を指示した時点でそんな寄り道は折り込み済みである。
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