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短編小説 萬田氏の密かな楽しみ2  糞餓鬼(1002字) 

長年勤めた会社を定年延長65歳で退職した萬田氏は、やっと気づいた。
何もやる事が無いのだ、今日も明日も、やる事は無い。正確には自分にノルマを課す課題が無いのである。
またその因が自身に在るのは百も承知している。
萬田氏は図書館の屋上で眩しい青空を眺めながら、考える。
ロシアとウクライナの戦争か、
十代の頃、サークルゲームをギターで弾きながら反戦を叫んでいた。
反戦を否定するもの等いない。
当時のお気楽な自分は、恐らく左翼のプロパガンダにやられていたのだろう。と思いながら、驚いた。
萬田氏の最大の悩みはロシアとウクライナの戦争なのである。
萬田氏自身、何時から世界を俯瞰する立場になったのだ。
と笑ってしまった。

その夜、萬田氏はウクライナの難民、戦争の事を出来るだけ考えて、眠りにつきました。
夢の中で、霧の中から出て来るであろう糞餓鬼を神社の鳥居の横の茂みでで、立ちションをしたりしながら萬田氏は待ちました。
茂みから出ると、右足が重いのに気づき見ると野糞を踏んでいました。
ぷーんと匂う、便臭の霧の中から糞餓鬼が現れました。
萬田氏は、待ってましたと戦争の状況、困り果てる世界の指導者の状況、難民、戦死者、理不尽な戦争について糞餓鬼に捲し立てました。
萬田氏は最後に
糞餓鬼には、どうにも成らないだろうけど、話しを聞いてくれてありがとう。少し気が楽になったよ、
と話しました。
話を聞いた糞餓鬼の体は見る見る大きくなり便臭が強くなりそれが悪臭に成る頃、ぼつりと、
行ってくる。
と言って消えました。

数分後、戦況会議の行われているクレムリン大統領執務室に突然、
糞餓鬼は現れました。
驚く重鎮の前で糞餓鬼はテーブルに仁王立ちになって、一言も話さずお尻から吹き出す便を所かまわず投げつけます。
大統領警護隊は糞餓鬼に拳銃、機関銃を発砲しますが、影の様な存在の糞餓鬼には通用しません。
執務室は便臭と便で大混乱です。
便まみれの大統領を捕まえた糞餓鬼は、大統領の顔面に尻を向けて
ぷー、と放屁をしました。
後で分る事ですが、これは平和ガスと呼ばれるもので、糞餓鬼の新兵器だったのです。
一発放屁した瞬間、糞餓鬼は消えて、いなくなってしまいました。
何故か執務室には笑いが溢れていました。

翌朝、
萬田氏は、スマホのニュース速報に眼をこすります。
そこには、
ウクライナ、ロシア戦争終結。
の文字が躍っていました。
萬田氏の密かな楽しみは、世界平和に貢献したのです。

おわり。
























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