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イギリス南海岸のリゾート地ブライトン(初めての海外一人旅でイギリスを縦断した-6)

こんにちは。ゲンキです。
今回は旅行記「初めての海外一人旅でイギリスを縦断した」の第6回、ブライトン弾丸観光編をお届けします。

~旅の概要~

鉄道が好きな僕は、鉄道の祖国であるイギリスを旅することにした。「果て」の景色を求めて本土最北端の駅「サーソー(Thurso)」から本土最南端の駅「ペンザンス(Penzance)」を目指す旅である。遠く離れた異国の地で、僕は一体何に出会うのだろうか。(2023年3月実施)

第5回はロンドンからブライトンまで爆速で行って帰ってくる様子をお届けします。それでは本編をお楽しみください!

↓第1回をまだ読んでいない方はこちらからどうぞ。



14:35 Westminster

ここはビッグベンの足元、ロンドン中心部のウェストミンスター。さっきまで世界遺産のウェストミンスター寺院を見学していたが、今から急いでロンドン・ヴィクトリア駅に向かう。ブライトンへ向かう急行列車の出発まであとたったの20分しかない。

昨日今日とロンドンの名所をいろいろ巡り、今夜20時からはいよいよ夜行列車「カレドニアン・スリーパー」に乗り込んで北の国スコットランドを目指す。
そのために今夜から使用するのは外国人向けの鉄道フリーパス「ブリットレイルパス(Britrail Pass)」。僕のパス(連続8日間スタンダードクラスで25840円)は今日の午前0時から既に有効になっており、せっかく乗り放題なんだから夜までにパッとどこか寄りたいな…と思った。そして選んだ行き先が南海岸のリゾート地・ブライトン(Brighton)だ。

©OpenStreetMap contributors

ブライトンはロンドンから約80キロ南にある海沿いの街。夏になると国中から海水浴客が訪れる大人気のリゾート地であり、ロンドンから電車で1時間とアクセスもかなり良い。
今までにも何度か書いたように今回のイギリス旅は京都アニメーション作品「映画けいおん!」にインスピレーションを受けているのだが、そのエンディング映像に登場する海辺の風景はこのブライトンが舞台なのだという。そのことを昨日ネットで初めて知り、ついでに海も見たくなったので急遽予定をねじ込むことにした。


14:49 London Victoria Station 

ヴィクトリア駅(東側)

発車10分前、ヴィクトリア駅に到着。さすがロンドン屈指の大ターミナルなだけあって、駅舎も大規模で開放的だ。他の旅行客に混じって発車標でホーム番号を確認すると、これから乗る列車は西側の13番ホームから出るらしい。すぐにそちらへ向かう。

ヴィクトリア駅(西側)
上にカフェがある
13番・14番ホームの専用改札
ブリットレイルパス(Britrail Pass)

スマホの画面にパスのQRコードを表示して改札の読み取り機にタッチ。するとなぜかゲートが開かず弾かれてしまった。あれ?合ってるよな?ともう一度タッチしてみるもまた弾かれる。
その後数回タッチしても通れなかったので近くにいた駅員さんに「あの、通れないんですけど…」と話しかけると「ああ、いいよ」とすぐに通してくれた。まだ利用初日だから機械の連携が上手くいってなかったんだろうか。

これから乗る列車は14時59分発のブライトン行きガトウィックエクスプレス(Gatwick Express)。ロンドン南部の主要空港であるガトウィック空港とロンドンをノンストップで結ぶ、赤色がトレードマークの急行列車だ。「赤色の空港アクセス電車」という点では日本の成田エクスプレスや京急電鉄にそっくり。ガトウィックエクスプレスは日曜を除いて全ての列車がブライトンへ直通している。

側面の「GX」ロゴがかっこいい

ドアは押しボタン式で、開閉ボタンをガチッと押すと2枚の扉が外にスライドして開いた。車内には鮮やかな赤色の座席が整然と並び、ところどころ大きなテーブル付きの4人席があるのがヨーロッパらしい。2人掛けの座席はセクションごとに前向きや後ろ向きに固定配置されており、背面テーブルはあるもののリクライニング機能は付いていないようだ(イギリスの列車の座席は全般的に向き固定・リクライニングなし)。

車内の様子

空き気味の車内を奥の方へ移動していくと空いている4人席を見つけたのでそこに座った。リクライニングはしないが座面と背もたれが体にフィットするので座り心地はそこそこ良い。肘掛けとコンセントもあるので十分快適。

テーブルがあると便利

かなり遅くなったがようやく昼ご飯の時間だ。さっきスーパーで買ったミールディールのセットを机に並べて、炭酸ジュースの蓋を回すとプシュッと弾ける音とオレンジの甘い匂いがした。さっそくサンドイッチをかじる。美味い。

Tangoオレンジ・チキンサラダサンド・Dairy Milk buttonsチョコ。セットで3.5ポンド


14時59分、時間通りにヴィクトリア駅を発車。薄暗い駅のホームを出ると眩しい午後の光が大きな窓から飛び込んできた。ロンドンのビル群の間をゆっくりと加速していく。

テムズ川
東京のようにずっと市街地ではなく、割とすぐに緑の多い地帯に出る

ガトウィックエクスプレスの最高速度は時速160キロ。あっという間に市街地を抜け、郊外の住宅地をかすめて南へと疾走する。

通路を挟んで反対側のテーブル席に座っているおじさんはビジネスマン風で、電話口に何やら仕事の連絡をしているようだった。何と言っているかはわからなかったが、まあまあな声量で忙しく「いやその件は〇〇なんだけど…」といった感じの会話をしている。日本では特急や新幹線であっても「通話はデッキで」と案内されるが、イギリスでは特にそういうものはないらしい。

ガトウィック空港駅

15時半、出発から30分でガトウィック空港駅に到着。ガトウィック空港は日本でいう羽田空港のような所なので、この列車からもぞろぞろと乗客が降りて行った。1分ほど停車して再び走り出す。

そこそこ空いてて車内は静か
このチョコ死ぬほど甘い(僕は好き)
車内スケッチ

ロンドンを出発してまもなく1時間が経つ頃、列車が減速してブライトン到着のアナウンスがかかった。急いで片付けて降車の準備をする。


15:57 Brighton Station

ブライトン駅

列車は遅れることなく終点のブライトン駅に到着。鉄骨に支えられた大屋根の天窓の向こうには青い空が見え、日の光に照らされた真っ赤な車体が対比して鮮やかに映える。

改札口

改札機にパスのQRコードをタッチするも案の定通れなかった。駅員さんにスマホの画面を見せて改札から出してもらう。

緩やかにカーブする大屋根が美しい
ブライトン駅の駅舎
地図(©OpenStreetMap contributors)

早速駅前通りのクイーンズ・ロードを歩いて海の方へ向かう。ロンドンへの帰りの列車は17時9分発なので、残念ながらたったの1時間しか滞在できない。海までは少し距離があるので、そこまでの往復で街並みを眺めることはできそうだ。

地図ではわからなかったが、駅から海岸にかけてずっと長い下り坂になっている。その道に沿ってたくさんの店が並び、駅前通りは坂を上り下りする人々とバスや車の往来で賑わっていた。

このあたりは全体的に起伏が激しいようだ


ついに海が見えた。伸びた影に覆われ始めた下り坂の足元、建物の目隠しが途切れるその隙間に少しだけ水面が見えている。近そうに見えるがなかなか近づかない。坂を下る足がいくらか速くなった。

一瞬「天下一品」かと思った。中華料理屋さんは結構多い
右の塔はブライトン・クロックタワー
駅から徒歩15分、いよいよ坂の終わりが見えてきた


坂の一番下にあるT字の交差点。道の反対側に「Way to beach(Subway to the beachだったかもしれない)」と書かれた地下道の入り口があり、そこをくぐって海岸に出られるようだ。

どこの歩道もたくさんの人が歩いている


地下道から出ると、少し霞んだ明るい青空が頭上に広がった。さっきまで歩いてきた道路の地面は建物2階分高い場所にあり、その段差にカフェやショップがすっぽり収まって並んでいる。歩道沿いのテーブル席で寛ぐ人たち、犬の散歩やランニングをする人たちのシルエットが逆光で黒く浮かぶ。

この上がさっきまで歩いていた道路

もうすぐそこに海があった。砂利の上を歩いて波の音がする方へ進む。


イギリス海峡・ブライトンビーチ

16時半手前、日没にさしかかった太陽の光は若干黄色くなっている。空の色は水平線近くから砂色や硝子色、そして深い青色へと、無限の色彩の変化を経て仄かなグラデーションを作り出す。遥かな水平線はどこまでも続いているように見えるが、この150km先にはフランスの陸地があるのだそうだ。

沖には風力発電の海上風車が並んでいる

海は僕にとって「果て」の象徴のように思える。行けるところまで行こうとした結果海に行き着くことが多いからだろうか。しかし陸地は終わっても海はまだ遠くへ続いている。「果て」ではあるけれど本当の「果て」ではないような、自分にとって「果て」とはどこなのか、海を見るといつもそんなことを考える。

大きな波が轟々と音を立てて順々に浜にぶつかっては白い泡が線を引く。ブライトンの海岸は黄色や茶色の丸い石粒が集まってできていて、足を踏み出すごとに少し沈み込んでジャッジャッと数珠のように鳴る。波の手が石粒をさらっていくのか、水際から5メートルくらいは下向きに弧を描いて急斜面になっていた。


海を向いて左側、東の方を見ると大きな桟橋が海の方へ突き出している。あれはブライトン・ピア(Brighton Pier)といい、カフェやフードコート、ゲームセンター、そして先端には遊園地がある。100年以上前から営業している老舗かつ今でも人気のアミューズメントスポットだ。

ブライトン・ピア

あそこにもぜひ行ってみたかったが、今日は時間が無いのでここから眺めるだけ。僕のことだからいつかまたここに来るだろうし、その時はあの遊園地にも行くことにしよう。

ここから見てもわかるレトロな雰囲気

波打ち際からブライトン・ピアを眺めると、映画けいおんのエンディングに出てきた映像とほぼ同じアングルになる。ネットで見つけた考察記事によると、エンディングでブライトンの浜辺やここから近いセブンシスターズの崖が描かれているのは映画「さらば青春の光」へのオマージュらしい。残念ながら僕は「さらば青春の光」を見たことがなかったので、解説記事を読みながら「へえーそうなのか…」とただただ表現の作り込みやそこに込められたメッセージに圧倒されるばかりだった。映画にあまり触れてこなかった人生だったことが悔やまれる。


突然雲の影があたり一面を暗くする
再び太陽が出てきた

太陽が雲に隠れたり出てきたりを繰り返し、その巨大な影が長い海岸線をまばらに横切っていく。太陽の真下あたりには何かの骨組みのような構造物が海上に物憂げに佇んでおり、それが何かの廃墟であることは一目瞭然だった。

あとで調べてみるとその骨組みは1866年に開業したウェスト・ピア(西桟橋)の残骸であるとわかった。もともとはブライトン・ピアのようにコンサートホールなどを備えたアミューズメント施設だったものの、1975年の閉鎖からだんだんと崩壊し始め、2003年には火事で大部分が焼け落ちてしまったらしい。今残っている部分も波や嵐で少しずつ削られているそうなのであまり長くは残らないだろう。この廃墟も近くに行って見てみたかったがスケジュールが厳しいので諦める。やっぱりロンドン&周辺観光用にプラス1日設けておくべきだった。

これが建てられた頃日本は江戸時代。イギリスがいかに早くから近代化していたかがわかる

浜辺には多くの人が集まってのんびりしている。海水浴シーズンでもない3月に、しかも地元の人たちでビーチが賑わうのは、日本ではなかなか見られない光景ではないだろうか。それだけブライトンの人々にとっては海が身近な存在なのだろう。

ボールを投げてもらって遊ぶワンコ
1秒後、極寒が彼を襲った
こっちはあったかそう
おしゃべりする二人


いろいろ写真を撮り、最後に10分だけ海岸に腰を下ろしてスケッチした。急な訪問だったので、今日はこの海岸に来れたことだけでも満足だ。しかしあまりにも名残惜しく、そろそろ駅に戻らねば…と何度も思いながら夕日と海を見ていた。ここならきっと美しいサンセットが望めたに違いない。実に惜しい。綺麗な海だった。


17時手前になってようやく駅に戻り始めた。地下道から道路へ上がり、海を背にして長い坂を上っていく。刻一刻と帰りの電車の出発時間が近づいている。

海が遠ざかっていく

まだ駅は見えていないのに発車まで残り5分となり、いよいよ焦って走り始めた。ブライトンからロンドンまでの列車は1時間に2本のみ。僕はこれから夜行列車に乗る前に一度ホテルに戻って荷物を回収しなければならないので、できる限りここでの乗り遅れは避けたいのだ。やはり慣れない土地での移動には余裕を持っておくべきである。まあ今言っても説得力ないけど。

発車2分前、なんとか駅に到着。改札へ一目散に駆け込んでパスのQRコードをタッチ!!…したが相変わらずゲートは開いてくれない。何度もタッチしてみるがゲートは開かないまま。近くの駅員さんに話しかけようとするも彼は別の乗客に対応している。発車まであと1分。
本当にヤバいと思った僕はその駅員さんにすかさず「通ってもいいですか!?」と話しかけた。「いいよ」と改札を開けてもらい、なんとか無事に帰りのガトウィックエクスプレスに乗り込んだ。いやー危なかった。というか逆にいつも通りか。(僕はよく寝坊したり時間を見誤ったりして頻繁に駅までダッシュしている。)

(乗り遅れそうとか言っときながらちゃんと写真撮ってるあたり、まだ余裕を感じる)

車両を移動して席を探しているうちに列車が動き始め、どんどんブライトンの街から離れていく。進行方向右側、前向きの座席を見つけ、そこに座って息切れを抑える。1時間の滞在はあっという間だった。

一応観光ルートを紹介。駅から海まで行って帰っただけ(©OpenStreetMap contributors)



17時半頃になると東側の雲も橙色に染まり始めた。進行左側、西の空はすっかり夕焼けだ。だんだん青が濃くなってきた丘陵地帯の森や牧場、住宅街を駆け抜けて首都ロンドンを目指す。

夕焼けの光が眩しい

途中で車内改札があり、車掌さんの手元の端末にスマホのパス画面をかざした。すると普通に読み込めたっぽく「Thank you!」と言われた。なんで改札機だけ反応しなかったのか気になる。

遠くの雲がピンク色に照らされる


18時を回ってロンドンの市街地に入る頃には薄暗くなって街明かりが車窓を流れるようになった。だんだんと高いビルや線路の数が増え、他の列車と並走しながらヴィクトリア駅に向けてラストスパートをかける。

近代的なビルが多くなると都会らしさが増す
まもなく到着


18:11 London Victoria Station

15時に出発してから3時間と少しぶりにロンドン・ヴィクトリア駅に戻ってきた。かなり弾丸行程だったが、それでもブライトンの美しい海を眺められてよかった。駅の出口は列車の先頭付近にあるのでしばらくホームを歩いていく。もうお決まりのように改札機が反応しなかったので駅員さんに話して出してもらった。

西側コンコース
ヴィクトリア駅(西側)

さっきは急いでいて見られなかったヴィクトリア駅の駅舎。ドーヴァー・カンタベリー方面の列車が発着する東(左)側と、ガトウィック空港・ブライトン方面の列車が発着する西(右)側では駅舎の建築様式が異なっている。石造りと赤レンガ造り、別々に造られた二つの建物が今では一つの駅として使われているのが面白い。

ヴィクトリア駅(東側)

駅の写真を撮っていたらメガネのお兄さんに「ねえ君、コーチステーションどこか知らない?」と道を尋ねられた。コーチステーションというのはヴィクトリア駅の近くにあるイギリス最大のバスターミナル「ヴィクトリア・コーチステーション(Victoria Coach Station)」のこと。東京の「バスタ新宿」のような感じだろう。信用して話しかけてくれたのは嬉しかったが、「僕日本から来たのでわかんなくて…」と説明したら彼は「大丈夫、ありがとう!」と言って去っていった。(ちなみにコーチステーションは駅の南西側のちょっと離れた場所にあるのでわかりづらい。)


さて、イギリスに来て2日目の夜になった。これからいよいよ鉄道で「イギリス縦断」を始める。今さっき南海岸のブライトンに行ったばかりだが、信じられないことに明日の今頃にはもうイギリスの鉄道最北端・スコットランドのサーソー(Thurso)にいる予定だ。ロンドンからサーソーまでは直線距離でも800km以上離れており、実際の移動距離は1000kmを超える。この旅で一番の大移動、まさにイギリスを縦断するような行程だ。

既に夜行列車の出発まで2時間を切っている。急いでホテルまで荷物を取りに行こう。今日はまだまだこれからがお楽しみだ。

つづく



ということで、イギリス旅行記第6回は以上になります。

先日「銀河鉄道の夜」を初めて読み、ラストが予想外すぎてビックリしました。あとなぜかカムパネルラは女の子だと思っていたので「男だったの!?」と一人で勝手に衝撃を受けていました。それはともかく、見たこともない天の川の景色がキラキラと浮かんでくるような巧みな情景描写や、特に「悲しさ」の感情表現が豊かでとても面白かったです。今は川端康成の「雪国」を読んでいます。

さて次回はお待ちかね、夜行列車「カレドニアン・スリーパー」編をお届けします。ロンドンからスコットランドの都市インヴァネスへ、イギリス最長距離の夜行列車に乗車しました。あらかじめ言っておきますが、最高でした。どうぞご期待ください。
それでは今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!


↓第7回はこちら


【参考】
映画けいおんのエンディング映像について非常に深い考察をしている記事です。ブライトン・ピアについての話で参考にさせていただきました。ご興味があればぜひこちらも読んでみてください。


(当記事で使用した地図画像は、OpenStreetMapより引用しております)

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