その日、朱音は空を飛んだ 2┃武田綾乃
「お疲れさまです」
グラウンドに設置されたプレハブは、運動部の部室用に作られたものだった。サッカー部の部室に入るなり、ジャージ姿の一年生がこちらに頭を下げてくる。
それに手を振って応じながら、二人はロッカーに荷物を押し込んだ。室内の中央に並んだベンチでは、三年生たちが楽しげにゲームをしている。壁に貼られた日程表には基礎練習のメニューが書かれているが、それを律儀に守っている部員なんて一人もいない。ウチの弱小サッカー部に、本気で部活に取り組んでいる奴なんていやしなかった。