教室の隅にいる女が、不良と恋愛しちゃった話。2┃秋吉ユイ
佐山ケイジは、さまざまな面で男前だった。
「いい加減にしろ佐山!! いつも寝てばかりで、まともに授業受ける気がないのか!」
授業中、先生に注意されれば、
「うるせぇ!!」
(エエッ! 怒鳴った!)
「文句があんならかかってこい!!」
説教をする教師に対して、とりあえず「かかってこい」。
(どんだけ飢えてるの……! 男前だ!!)
友達がいないため、昼食はいつも1人でとっていた痛い子シノ。お昼は誰もいない図書室や階段で食べることが多かった。
「ここで食べてんのか」
ある日、マイダーリン佐山が現れた。1人で食べている私のもとで、さりげなくお弁当を広げ、ごく自然に食べる。
(佐山……一緒にごはん食べてくれるんだ……。しかも私が惨めな思いをしないよう、なにも言わずに食べてくれるなんて……なんて優しい……っっ)
「つか……」
箸(はし)をおいて佐山が一言。
「友達どうした? いないの?」
明らかに友達がいない人に対して、「友達どうした?」って聞くんじゃねぇー! めっちゃ惨めだわボケェエエエ──ッ!
あの告白事件以降、私たちは連日、すさまじい勢いでからかわれていた。
「朝倉さんと佐山はラブラブだねぇ!」
「ラブラブじゃねーよ、そんなもんとは程遠いわ!」
「どこまでいった?」
「渋谷だよ、渋谷。渋谷まで遊びに行きました」
「もうヤった!?」
「うるせーな!」
しかし、あまりにからかわれすぎて、私は鬱(うつ)っぽくなりかけていた。
「ああ、明日もからかわれる……鬱……もうやだ……無理……」
と落ち込み、思わず呟いた。
その翌日からピタリとからかわれなくなったのだ。
当時は「ワーイ! からかうの飽きてくれたのかなー!?」と思ったけれど、実は佐山が裏で手を回してくれていたのだった。私が真相を知るのは数ヶ月後のことだけど……。
(男前ー。超男前ー! キュンキュンときめきノンストップー!)
顔は美形ではないけれど、適度に整っていて体格もいいし、身長も高い。スポーツ万能。成績は最低だったけど、社交性もあり、明るいし面白い……ぶっちゃけ、佐山ケイジはモテた。
対するオープンに告白された彼女(私)は、
「元からテンション低い子だったけど、3年になってからすっごく暗くなった」
「つか、友達いるの? ごはん1人で食べてない?」
「……朝倉さん?……ああ、クラスの隅にいる子かな(笑)」
「あの子さぁー、佐山くんとしか喋ってないよね?(笑)」
こんなんだから、「釣り合ってない、本当に釣り合ってない」って思いが自分自身にもあり……。
なんかね、ちょっと反感買っちゃったんじゃないかなー、って。佐山を好きな女子の反感を買っちゃったんじゃないかなー? って薄々は感じてた。
もうすぐ夏休みが始まろうというとき、
「あれ?」
私の机の上には、毎日ゴミが置いてあった。
「なんだこれ」
朝早くに学校に来る、紛(まご)うことなき優等生シノの机の上には、紛うことなきゴミが置いてあった。
ゴミというか、食べかけのコンビニ弁当、菓子パンとかお菓子の袋などいろいろ。
最初は、「放課後、私の席で喋っていた人たちが、食べ残してったのかな。ゴミの捨て忘れかな」って本気で思っていた。
私、ちょっとポジティブすぎたかなー、根暗の分際でポジティブすぎたかなー、って。
ゴミが自分の机の上に、故意にばら撒(ま)かれているとは、思いもよらなかった。
「朝倉!」
机の上にゴミが置かれるようになって1週間も過ぎた頃、佐山にびっくりするくらいデカイ声で呼び止められた。
「ええええ。声でかァァァ」
「イジメられてんのか!?」
「エッ! なんの話!?」
「や、クラスの奴が……朝倉の机にゴミ撒いてる奴らがいたって言ってたから」
(マジで)
「うそぉ……、あれだよ。ゴミの片付け忘れじゃない……?」
「そうなの?」
(いや、ずっとゴミを片付け忘れるってありえない気がしなくもないな……)
「だと思うんだけど……」
そう言いながら、私自身でもわかっていた。だって、現に「ゴミが撒かれているのを見た」クラスメイトがいるのだ。
(……イジメ? なんで? 私、なにかした?)
……確かにクラスでは浮いてたけど、最近は佐山を通して結構クラスメイトとも喋るようになったし……。
「朝倉さん」
私の疑問は、この後すぐに明らかになった。
授業の合間にある休憩時間に、ゴミ撒き疑惑の当事者たちに呼び出されたのだ。
もうね、アレだから。ビビるから。
呼び出してきた女子の数は、3人とか5人ではなく、11人だから。お前ら、佐山ケイジ親衛隊かっつーの。
「朝倉さんでしょ?」
「あ、はい……」
「話があるんだけど、いい?」
「あ、はい……」
「じゃあ、こっち来てくれる?」
「はい……」
*
「あのさあ……、知らないなら教えてあげるけど」
女子集団のリーダーが、集団の中でとびぬけてかわいい子を指して言った。
「朝倉さんじゃなくて、エリカがケイジくんの彼女なんだよね」
(はい?)
「だからね、朝倉さんはケイジくんに二股(ふたまた)かけられてんだよ」
(はい?? 二股?)
……いやいや二股ってあれでしょ、交際相手が2人いるっていう。
(佐山が? 佐山だよ? ないよ、あいつに限ってそれは。絶対ない!)
───そして、ここで私はまた見当違いなポジティブ精神を発揮する!
(ああ……そっかあ……この女子集団はひょっとして……)
佐山に彼女がいる説を打ち立てて、私にあきらめさせようとしてるんじゃないか!?
「ひ、ひっく……うわぁん……ぁぁぁ……う……」
ナルホドね、それですべてに納得がいく。
「私……、ひっく、もうどうしたらいいかわかんな……うああぁああああん……」
この集団いわく佐山の彼女、エリカちゃんが突然泣き出したのもきっと計算ずくの演技!
「ヒック……プリクラとって……ふぇ…………冬に……うぁっ」
目の前でプリクラを見せられ、佐山とチュ~してたり、『祝・三ヶ月☆』とかあるのも、いわゆるCG合成!
「なんで……なんでぇ……どうして……わ、わた……う、あ……」
……まぁ、それにしては、ちょっと泣き方がリアルに切羽詰まってるかな、とは思ったけど……。
(ひょっとして、私やっちゃった? また根拠のないポジティブ精神発揮しちゃった?)
でも、私もそこまでバカじゃないから、いい加減気づいていたよ! このポジティブ思考はただの、現実逃避だと……!
「……どゆこと?」
「だから……エリカはずっと佐山くんのこと好きで、告白してうまくいって……。あたしたちには順調に付き合ってるように見えたし、エリカもそう思ってたの……」
説明する女子の背後で泣きじゃくるエリカちゃん。
「そしたら体育祭のとき、朝倉さんにケイジくんが告白して……エリカやあたしたちエェッ!? ってなっちゃって……」
なるよねー、そりゃなりますよね!
「……けど、それよりも問題は……」
「え? それより……?」(え? 一番重要じゃね? そこが)
頭の中は真っ白、口はポカーンな私をよそに、女子集団のリーダーは続けた。
「佐山ケイジを愛してるのはどっちか! っていうこと!」
……。
(……ェェー!? 愛? ェェー……)
* * *
続きは1月18日公開予定