不良と恋愛_記事ヘッダー

教室の隅にいる女が、不良と恋愛しちゃった話。5┃秋吉ユイ

高校で私と一番仲が良い男子は徳川くんだ。柔らかい栗色の髪に、整った目鼻立ち。雰囲気どおりの優しい瞳(ひとみ)。常に柔和な笑みを浮かべ、社交性が飛びぬけて高く、かなり目立つ男の子だった。

 当時の私の中では男の子の派閥を(勝手に)3つに分けていた。
【1】おしゃれ・スポーツ軍団
【2】不良&ギャル男連合
【3】教室の隅 他

 佐山ケイジは、【1】【2】どっちとも仲良かったけど、【3】「教室の隅 他」側とはいっさい仲良くなかった。
 一方、徳川くんは違った。人を選ばず誰とでも仲が良く、スーパー社交的だったから、私のような女の子も仲良くなれたのだと思う。

「あたし、徳川くん好きなんだよね」
 幼馴染のミドリコは徳川くんを気に入っているようだった。
「へー」
「シノさ、徳川くんと仲いいから協力して! よろしく!」
「OK、OK」
 徳川くんはこんな感じで女子ウケもよかった。
「シノちゃん、おはよ~最近は佐山くんとどうなのー?」
「アッ! 徳川くん聞いて! 実はね!」
「? なになに? どうしたの、シノちゃん?」
「……ここじゃ話せないっていうか……、隅っこまできて!」
 私は手招きして徳川くんを誘い出した。
「デヘヘ。あのね、徳川くんには言っとこうと思って。実は佐山のことなんだけど、この間、とうとう……」
「まさか……」
「そう! とうとう名前で呼び合うことになりました~! ワーパチパチ」
「…………なまえ?」
「徳川くんにはノロけておきたくて」
「うわー、出た出た──!!」
「うるさい! のろけられろ!」
「あはは。……だけ?」
「えっ?」
「他になにもなかったの? 大人の階段のぼったとかさ」
 言われて、顔が真っ赤になる。

「き……キイィイイー! なんでわかったの!」
「わっ、ホント?」
「エ! なに! 引っ掛け?」
「うわー。とうとうシノちゃんが少女じゃなくなった」
「その言い方、きもいよ!」
「ウフフ」
「ふふふ」
「そう言えばもうすぐ文化祭だね~。シノちゃんはなにやるの?」
「わかんない。喫茶とか鍋とかやるんじゃないかな」
「そっかー。僕は部活もあるからいろいろ掛け持ちするのあるんだけどさ……」

 普段どおり、本当にたわいもない徳川くんとの会話をじっと聞いていた女子がいた。
「あの……! 朝倉さん」
 同じクラスのギャルの子だ。徳川くんとバイバイして、その子のほうに向かう。
「?? なになにー」
「うん……えっと……」
 我がクラスの女子といえば、ギャルばっかり。
 教室を飛び交うコンドーム、机の上に載るのは教科書ではなく化粧品……見渡せば見渡すほど、「おまえらほんとに私と同じ女子高生というやつですかー! 女としてのレベル違いすぎるんですけど……」と心から思う。
「あのね……」

 その子も例外ではなく、濃い化粧に不自然なほど黒染めされているロングヘアー。ちっちゃい背に、細いツリ目……、かぐや姫っぽい容姿の彼女は、友達から「カグヤ」と呼ばれていた。
「徳川くんって彼女いるのかな……?」
「え……」
(ま、まさか……)

 このカグヤちゃんは、以前に掃除の時間に私をはげましてくれたギャルだ。ケイジがどれだけ私のことを大切にしてくれているかを教えてくれて、
『佐山くんて、かっこいいよね!』
『ワァ!? 惚れちゃだめだよ!!』
『わかってるわかってる、私好きな人いるもん~』
 なんて会話をしたけど、まさかその好きな人っていうのが……。

「と、徳川くんのこと好きなの?」
「う、うん……」
「わ────」
 意外だった。ギャルの子はみんなギャル男とくっつくと思ってた!
「へーそうなんだー」
 徳川のやつ、モテるなあ! この間もミドリコが、好きって言ってたし……って、アレ?
「今度、徳川くん、私と朝倉さん、佐山くんで、4人で遊べたりしないかな? 利用してるみたいですごく申し訳ないんだけど……っ」
「え、えっと……」

 ミドリコとのやりとりを思い出した。たしか、徳川くんとのことを「協力する」って言った気がする。
(ま、まァあいつはいいか☆)
「わかった! 4人で遊ぶ件については、ケイジにきいてみるね!」
「う、うん。あと、さっき2人の話聞いちゃったんだけど……」
「あ……」
(わ、私が処女を脱した話のことだよね……!)
「いいいい……いいよ、あはは! 別に聞かれると困る話じゃないし! アハハハハ」
「と、徳川くんは朝倉さんが『少女じゃなくなった』ことにひいてたよね?」
「え? ひいてたの、あれ?」
「処女じゃなきゃイヤ、ってことなのかな、あれ」
「さ、さぁ……?」
「お願い……!」
 カグヤちゃんが私の手を握った。
「私がまだ一度も男の人と付き合ったことがないっていう設定にしてくれる?」
(ェー!!)
「いや、そこまでしなくてもいいんじゃ……」
「ううん、お願い! 私、まだ経験がないってことにしてほしいの!!」
 私は処女じゃないことを佐山に散々アピールしたのに、カグヤちゃんは処女であることにしたいらしい。
「お願い!」
「は、はい」
 あまりの気迫に頷くしかない。
「ほんと!?……ありがとう朝倉さんっ! 私、がんばるね!」
 握った手をぶんぶん振りまわして、満面の笑みを浮かべて、カグヤちゃんは去って行った。

「……処女って恥ずかしくないのかなぁ? 私は恥ずかしかったけど」
「あんた、マジ処女だったの?」
 背後から声がすると、いつの間にかミドリコの姿があった。
「うわ、びっくりした! いつからそこに!」
「さっきからよ! さっきから! ねえ、そんなことよりカグヤさんって徳川くん好きなの?」
「まぁ、そうみたいだね」
「……シノ」
「……なに?」
 嫌な予感がする……。
「もちろん私の応援しなさいよ!」
「エ~」
「エ~って当たり前でしょ──! 親友でしょ!」
「エ───、今まで私を散々見捨てておいて今さら」
「それとこれとは別」
 フン! と荒い鼻息と、ドスンドスン大きな足音をたてて、ミドリコが歩いて行く。
 こうして、カグヤちゃんとミドリコの徳川くんをめぐる恋愛バトルの火蓋(ひぶた)が切られたのだった。

*   *   *

続きは、書籍にてお楽しみください

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