不良と恋愛_記事ヘッダー

教室の隅にいる女が、不良と恋愛しちゃった話。4┃秋吉ユイ

 高校3年生、クラスでは結構ハブ率が高かったけど、他クラスに高1、高2で培ってきた友達はいた。

 その中に特に仲の良い男の子もいた。彼の名前は歴史的に有名な苗字で、「徳川(とくがわ)」といった。
 廊下ですれ違うと、
「オッス! 徳川ー。オラ、シノ!」
「あ、悟空なシノちゃん、今日も元気にハブられてる?」
 的な挨拶を交わすような関係だった。
「シノちゃんは佐山くんとはイチャイチャベタベタやってるの?」
「え!? 佐山と付き合ってること言ったっけ?」
「バカだなあ。もうみんな知ってるよ……ほら、あの告白」
 そうだった。
「僕の胸には、あの告白がいつまでも残ってるよ」
「忘れてよ! あれは忘れてよ!」
「なんて眩(まぶ)しいんだ、シノちゃん……」
「ヤダヤダ、忘れて忘れて!! そうだ、遊ぼうよ! 今から」
 あまりに恥ずかしいので、強引な話題の切り替えを試みた。
「……遊ぶの? 今から?」
「うん!」
「よし、もてあそんでやろう」
「意味が違う!!」

 徳川くんと相変わらずなやりとりをしている最中、たまたま近くを佐山が通りかかった。
「……あ、佐山~!」
 佐山に向かって、笑顔で手を振ったのに、彼は私の存在を気にせず、スタスタと無表情で歩いて行った。
「……アレ……?」
 ひょっとして無視された? 今?
「……うわ──。シノちゃんがハブられてる現場目撃しちゃった」
「あははは……」
 って、洒落(しゃれ)にならない。
「ごめん、徳川くん、また後で!!」
「うん、じゃーね」
「待って佐山ー! どうしたのー!」
 私は慌てて佐山を追いかけた。

「佐山ー? 佐山ー、佐山さんんん!!」
 何度か呼びかけると、佐山はようやく立ち止まり、くるりと振り返った。
「……今気づいた。割と女々しいですね、俺。やばい」
「え?」
 なに……?
「もしかして妬(や)いた?」
「……。……妬いてねーです」
「……妬いたよねー?」
「妬いてねー!」
 きゅん……なに……? この胸に高鳴る……優・越・感・は!!
 あの佐山が、学内所狭しとモテて、人気者の、あの1軍の佐山が、教室でハブられているような3軍女の私に妬いた!!
 オーホホホ、なんて気分がいいんでしょー。
「いつも私がヤキモキしてたから気分爽快ー!」
「おまえも大概、いやな女だな……!」
「えぇ~~? そんなことないよぉ」
「朝倉ってアレか。たいてい男子には、あんな感じ?」
「エー……まぁ、そうかもー」
「フーン……。俺だけじゃねーのな、ああゆう風に接すんの」
「ニヤニヤ」
「ニヤニヤするんじゃねぇ!」
 怒られても気にしない。

「うふふー、私と徳川くんが仲が良いのが気に食わないんでしょー、佐山」
「違うわ! いや違わないけど、なんつーか!」
 私をジッと見つめ、
「? なんつーか……?」
「俺たちって、まだ不安要素たくさんあるだろ」
 突然おそろしいことを言われ、顔が青ざめる。
「ふ、不安要素!? なにそれ、あるの!?」
「ああ……いや、俺の勝手な不安要素かもしれない」
「ちょ……! なに? 言って!」
「まだ朝倉を、どこかで彼女として認識してない俺もいる」
 口をぱくぱくする。
「ひどい!」
「違う! 待て! 誤解するな!」
「してないけど、ひどい!」
「違う!! あ───、つまり! 彼女なんだけど、まだ友達の延長線上みたいなところも俺たちはあるだろ。多分」
「ウン……?」
「だから…! 朝倉が俺に対するみたいな態度で接する男がいると、不安になる……。他の男と変わらない存在だな、俺は、っていう……要は俺の片思いだ! あ──、これ以上は女々しいからやめとく!」
 一気に吐き出すと、佐山は背を向けた。

「佐山……」
 佐山の背中を見つめながら、私は、
「やっぱ妬いてたんだね」
 優越感たっぷりにフフフと笑う。
「違う!!」
 フフフ。
(だけど……)

 私は……、佐山だけにしか見せない私の顔はある、と勝手に思っていた。でも、佐山からすれば、佐山は私に〝だけ〟やってくれることがあるのに、私は佐山に〝だけ〟なにかするってことがないのかもしれない……。
「じゃあさー。エッチとかしちゃったら不安要素取り除かれるのかな☆」
 冗談で言ってみた。
「アホか!」
「エーだって。佐山にだけ、じゃん」
「そうゆう意味で言ったんじゃねぇ……つーか、女がそうゆうこと言うなよ!」
 フフ、硬派なやつめ。
「……まぁ、でも」
「ん?」
「朝倉をどうかしたいときも男にはある」
「…………」
「うん。察しろ」
「…………」
 そう言って佐山はそっぽを向いた。私はこのとき、冗談でもなんでもなく自然と、
「………別にいいよ……」
 って言っていた。

 佐山は「は?」って顔して、ポカンとしていた。
「え? あ……」
(アレ……、私……。とんでもないこと言っている!?)
「いや、だから……つまり、そう……」
(やべ──、ごまかさなきゃ、ごまかさなきゃ……)
「佐山の家に行ってあげてもいいよ!」
「は?」
「だからさー、佐山の家に行くなら特別じゃん……??」
(ごまかせた!? 私ごまかせた、コレー!?)
「…………」
 ドキドキ。

「……というかな!! 別に家にくるのは全然構わねーんだが、この状況で、俺の家に行くとか言うのは少しは遠慮しろ!」
「エ──、そこは佐山くんは普通の男とは違うよね、みたいな信頼の証(あかし)です、喜べ!」
(ヨッシャー! ごまかせたぞー!)

「そうか。俺は信頼されてるのか」
「……うん……」
「そこまで言うなら、番犬のつもりで迎えよう……」
「う、うん……」
「……後でヘタレとか言うんじゃねえぞ! 言ったら全力でデコピンしてやる。半殺しにする勢いで」
「アハハ」
(よかったよかったー)

「でも、さすがにそうゆう雰囲気になったのに手を出さないのはちょっと……」
(って……、アレ?)
「………あー、わかった。なんとなくおまえが読めてきたぞ」
「え?」
「朝倉の了解得たんで、そーいう雰囲気になったら遠慮なく手を出すことにしよう」
「エ!?……違う! 違うよ! 私は一般論言っただけで……!!」
「俺は野獣でエロいからなー! あーもうなんか開き直ったわ!!」
「違う! 違う! 違う!」
(なんかまるでこれじゃあ……)
「覚悟しとけよ」
「覚悟って……!!!」

 まるで、私がやりたがってるみたいじゃん!

*   *   *

続きは1月20日公開予定

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