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色彩講師(日本色彩学会会員/色彩検定協会認定講師) 源氏物語千年紀の2008年から、…

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色彩講師(日本色彩学会会員/色彩検定協会認定講師) 源氏物語千年紀の2008年から、源氏物語の色彩表現を調べている。 今まで書いてきたものなどを、noteにも残しておこうかと。 日本語の色彩表現を残していきたい。

最近の記事

源氏物語の色 32「梅枝」~紺瑠璃・白瑠璃~

「梅枝」のあらすじ ―――光源氏は、娘である明石の姫君の裳着の準備に忙しくしていた。六条院の女性たちは光源氏に依頼され、伝来の名香でおのおの薫物の調合をし、紅梅の盛りには薫物競べが行われた。明石の姫君の裳着が行われ、続いて東宮の元服。そして明石の姫君の入内は四月となったーーー 「梅枝」の帖は香りに包まれている。 光源氏は、紫の上をはじめ花散里、明石の君、朝顔の前斎院に薫物の調合のために今昔様々な香の材料を取りそろえて配り、二種類ずつ調合するよう依頼する。 香を鉄臼で搗く音が

    • 源氏物語の色 31「真木柱」~手紙の色~

      「真木柱」のあらすじ ―――玉鬘は意に反して髭黒に嫁ぐことになった。髭黒は正妻にかまわず、玉鬘に夢中になり、自宅に引き取ろうと思いをめぐらす。そのような夫を見て髭黒の正妻は乱心し、火取りの灰を浴びせかける。光源氏は玉鬘に文を届けるものの、恋心は実を結ぶことはなかったーーー 現代でいえばアイドルのような存在だったであろう玉鬘が、こともあろうに髭黒の大将のものとなってしまうとは、源氏物語の中でも意表を突く。さらに、玉鬘の元へ出かけようとする髭黒に、正気ではなくなった正妻が灰を浴

      • 源氏物語の色 30「藤袴」 ~つながる色~

        「藤袴」のあらすじ ―――尚侍に任命された玉鬘は、入内後のことや言い寄る光源氏などに思い悩む。夕霧は玉鬘が実の妹ではないことがわかり恋心が芽生え、一方で柏木は玉鬘が妹だったことを知る。蛍宮、髭黒の大将も玉鬘に思いを寄せて恋文を送るーーー 「藤袴」には、「鈍色」と「薄紫」の二つの色彩表現が出てくるが、この色にはきちんと意味がある。 「鈍色の御衣」をまとった玉鬘のもとへ、光源氏の使いとして夕霧がやってくる場面がある。玉鬘は、父方の祖母である大宮が亡くなったために薄墨色の「鈍色

        • 源氏物語の色 29「行幸」~ハレの日の色~

          「行幸」のあらすじ ―――冷泉帝の大原野の行幸の折、見物していた玉鬘は冷泉帝の美しさに惹かれた。光源氏は玉鬘を尚侍としての入内を進め、その前に玉鬘の裳着の儀式を挙げようと玉鬘の実の父である内大臣に腰結の役を依頼し、親子の対面が実現したーーー 現在の京都市西京区に大原野神社があるが、紫式部はこの神社を氏神と崇め、大原野の地を愛していたという。この近隣の野で行われる冷泉帝主催の鷹狩りのために、冷泉帝始め錚々たるメンバーが着飾って行列した盛大な儀式が大原野の行幸。世をあげての大騒

        源氏物語の色 32「梅枝」~紺瑠璃・白瑠璃~

          源氏物語の色 28「野分」~時にあひたる色~

          「野分」のあらすじ ―――八月、激しい野分(台風)が猛威をふるった。光源氏の長男である夕霧は、台風見舞いのために父の名代として六条院の女君たちのもとを訪れる。その時に夕霧が見た女君たちの様子が見事に描かれているーーー 近年、日本では台風などの大雨の被害に見舞われているけれど、千年前の王朝時代にも台風は発生し、被害をもたらしていた。天気予報のなかった時代、人々の恐怖はただ事ではなかったと思う。「野分」では、空の色が変わり、風で花や植込みが吹き荒れる様子、さらにはそれを見て人々

          源氏物語の色 28「野分」~時にあひたる色~

          源氏物語の色 27「篝火」~涼しいオレンジの光~

          「篝火」のあらすじ ―――前帖で宮仕えに出た近江の君の素行は、世間の噂の種に上っていた。光源氏の慎重な計らいによって、深窓となる六条の院に養われた玉鬘とは雲泥の差となっていた。初秋の一夜、西の玉鬘の庭前に篝火を焚き、光源氏は夕霧や柏木らと笛や琴を奏でたーーー 「篝火」の帖は短く、場面設定が初秋の夜ということもあり、具体的な色彩表現は見られない。ならば、タイトルとなる「篝火」について。(篝火はこの時代の屋外照明。照明がなければ色は見えないので!) 初秋と言っても、残暑厳しい

          源氏物語の色 27「篝火」~涼しいオレンジの光~

          源氏物語の色 26「常夏」~テーマカラーは撫子~

          「常夏」のあらすじ ―――夏の夕暮れ、光源氏は内大臣家の君達を連れ玉鬘のいる西の対へ行く。西の対の庭には美しい撫子の花が咲き乱れているが、君達は玉鬘に見立てられた撫子の花を思うようにできない。一方、内大臣は妾腹の娘である近江の君を探し出し引き取るが、行儀の悪い娘に手を焼き弘徽殿の女御のもとへ女房として出仕させるーーー この帖に表れる色彩語は「つらつき赤める」「青き色紙」「いと赤らかに」の三か所。これだけならば現代語と変わらないのだけれど、実は映像にしてみたら効果的であろう色

          源氏物語の色 26「常夏」~テーマカラーは撫子~

          源氏物語の色 25「蛍」~刹那の色~

          「蛍」のあらすじ ―――光源氏は娘として引き取った玉鬘を口説きつつ、一方で弟である兵部卿の宮に玉鬘との交際を勧め、二人を夕闇で引き合わせようと蛍を放つ。蛍の光に浮かび上がる玉鬘の美しい姿に兵部卿の宮は心奪われる。玉鬘に言い寄る光源氏と、玉鬘に心を寄せる人々のやり取りがつづられるーーー 源氏物語にはたくさんの名場面があるけれど、夕闇に覆われていた室内に光源氏がたくさんの蛍を放ち、ぱっと光り明るくなる様子は名場面中の名場面。現代のさまざまな光の演出も、この蛍の光に敵う演出はない

          源氏物語の色 25「蛍」~刹那の色~

          源氏物語の色 24「胡蝶」~春の色~

          「胡蝶」のあらすじ ―――「初音」に続く弥生二十日過ぎ、六条院の春の庭で龍頭鷁首の船の宴が行われた。春を好む紫の上は、秋好中宮の御読経の供養のお志として、春らしい鳥と蝶の衣裳をつけた童子たちに舞を舞わせた。これは前年秋に秋好中宮が挑んだ「春秋あらそい」に応じたもので、紫の上の春の勝利となった。一方、光源氏は娘として迎えた玉鬘に恋心を抱いてしまう。ーーー 「春のほうが華やかだ」「いや、秋のほうが美しい」という「春秋あらそい」は、平和な時代でなければなかったであろう。勝敗を求め

          源氏物語の色 24「胡蝶」~春の色~

          源氏物語の色 23「初音」~栄華の幕開け~

          「初音」のあらすじ ―――光源氏36歳の元日。春の御殿で紫の上と迎える新年は、まるでこの世の極楽浄土かと思われる素晴らしさであった。夕方になり光源氏は、年末に衣裳を贈った女性たちのもとへと挨拶に行き、その晩は明石の上のもとで過ごす。さらに宮中行事「男踏歌」の華やかな様子も描かれ、まさに光源氏の栄華の始まりを予感させるーーー 「初音」に出てくる色彩表現は、前帖「玉鬘」で光源氏が贈った衣裳の色についてである。「玉鬘」では「王朝時代のパーソナルカラー」として、それぞれの女性にどの

          源氏物語の色 23「初音」~栄華の幕開け~

          源氏物語の色 22「玉鬘」 ~王朝時代のパーソナルカラー~

          「玉鬘」のあらすじ ―――光源氏が若い頃愛し、死に別れた夕顔には、頭中将との間にできた一人娘がいた。その娘、玉鬘は筑紫で美しく育っていた。九州各地から豪族たちに求婚されるが、それを避けるために京に上る。そして長谷寺詣りの折、夕顔に仕えていた右近と出会い、光源氏に娘として引き取られることとなったーーー 「玉鬘」での色彩表現は、何といってもこの帖の最後に出てくる有名な「衣配り」と呼ばれる場面。光源氏は年の瀬に、新春用の晴れ着を女性たちに贈ろうとたくさんの衣裳の前にいる。一緒にい

          源氏物語の色 22「玉鬘」 ~王朝時代のパーソナルカラー~

          源氏物語の色 21「少女」 ~「緑」の持つ意味~

          「少女」のあらすじ ―――光源氏が栄華を極めつつある33歳から35歳の物語で、光源氏の長男 夕霧が中心となる。夕霧は元服を迎え、光源氏の厳しい教育方針のもと大学に入学して学問に励む。一方、幼なじみで相愛の仲であった雲居雁とは引き離されてしまう。またこの帖の終盤では、光源氏の理想の住居である六条院が完成する。――― 源氏物語では、色を効果的に使っているところが非常に多い。もちろん、当時の王朝貴族の装束が季節を先取りした襲の色目を取り入れていたということもあるが、状況に応じて、

          源氏物語の色 21「少女」 ~「緑」の持つ意味~

          源氏物語の色 20「朝顔」 ~色なきものの身にしみて~

          「朝顔」のあらすじ ―――光源氏が若いころから思いを寄せていた女性、朝顔の話。賀茂の斎院であった朝顔は、父式部卿の宮逝去に伴い、旧邸に戻ってきた。光源氏は同じ旧邸に住む叔母である女五の宮のお見舞いにかこつけて朝顔に会いに行くのだが、やんわりとかわされる。一方、朝顔に心奪われている光源氏の様子を見て、紫の上は思い悩む。――― 喪に服している朝顔のもとへ足を運ぶ光源氏。この時代、男女が顔を合わせて「会う」ことはほとんどなかった。会いたくても部屋に入れてもらえなかったのだ。朝顔に

          源氏物語の色 20「朝顔」 ~色なきものの身にしみて~

          源氏物語の色 19「薄雲」 ~無彩色の中の心情~

          「薄雲」のあらすじ ―――前帖「松風」で大堰川のそばに居を移した明石の君とその姫君だが、姫君の将来を案じた光源氏は姫君を二条院に引き取り、紫の上に育てさせることにする。明石の君にとってはつらい母娘の別れであった。この年は変事の多い年であり、光源氏の舅である太政大臣が亡くなる。また、冷泉帝の母であり光源氏の最愛の藤壺の宮も崩御する。そして冷泉帝は、実の父親が光源氏であることを知る。ーーー 「薄雲」の帖は別れのシーンが多い。冒頭からの明石の君と姫君の別れはつらい。母の出自によっ

          源氏物語の色 19「薄雲」 ~無彩色の中の心情~

          源氏物語の色 18「松風」 ~暁~

          「松風」のあらすじ ―――光源氏は明石に隠棲していた時に結ばれた、明石の君とその姫君を京へ呼ぼうとする。しかし明石の君は光源氏の用意した邸では身分違いを案じ、大堰川のほとり(現在の嵐山付近)にある母方の別荘へとひそかに移り住む。一方、それを知った光源氏は造営中の嵯峨野の御堂への用事にかこつけて、明石の君とわが娘に会いに出かけるーーー この「松風」の帖には明確な色彩表現は出てこない。光源氏や明石の君については、美しいという表現でとどまるのみ。また、季節は秋なのだが紅葉などの自

          源氏物語の色 18「松風」 ~暁~

          源氏物語の色 17「絵合」 ~赤と緑~

          「絵合」のあらすじ ―――光源氏と藤壺の間に生まれた皇子、冷泉帝の御代になった。冷泉帝の後宮には弘徽殿の女御がいたが、六条御息所の娘である前斎宮も藤壺の支持を得て入内した。斎宮女御は絵に堪能で、同じく絵の好きな冷泉帝は彼女にひかれていく。後宮全体で絵画熱が高まり、左右に分かれての絵合わせが行われたーーー 平安貴族の間では、左右に分かれて優劣を争う「物合わせ」がよく行われていた。和歌を競い合う「歌合せ」が多かったが、「絵合わせ」「貝合わせ」など、さまざまなものを題材としていた

          源氏物語の色 17「絵合」 ~赤と緑~