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源氏物語の色 30「藤袴」 ~つながる色~

「藤袴」のあらすじ
―――尚侍に任命された玉鬘は、入内後のことや言い寄る光源氏などに思い悩む。夕霧は玉鬘が実の妹ではないことがわかり恋心が芽生え、一方で柏木は玉鬘が妹だったことを知る。蛍宮、髭黒の大将も玉鬘に思いを寄せて恋文を送るーーー

「藤袴」には、「鈍色」と「薄紫」の二つの色彩表現が出てくるが、この色にはきちんと意味がある。

「鈍色の御衣」をまとった玉鬘のもとへ、光源氏の使いとして夕霧がやってくる場面がある。玉鬘は、父方の祖母である大宮が亡くなったために薄墨色の「鈍色」を身に着けているのだが、華やかな色の衣裳を身にまとうことの多い玉鬘をかえって引き立てている色だと周りの女房たちは微笑んで見ている。亡くなった大宮は夕霧にとっては母方の祖母であったので、このとき夕霧も濃い鈍色の直衣を身に着けていた。夕霧はそれまで玉鬘を実の妹だと思っていたのだが、この鈍色で異母兄妹でないことを知る。つまりもし玉鬘の父親が夕霧と同じ光源氏であれば玉鬘は鈍色を着る必要はないのだが、鈍色を身に着けているということで夕霧の母方の従妹だということがわかってしまう。夕霧は、玉鬘が鈍色を身に着けていなければ妹でないことがわからなかったと言い、鈍色が意味のあるものとして使われている。そしてこのことから夕霧は、玉鬘を後ろめたいことのない恋愛対象として見ることとなる。

夕霧は自分の思いを伝えるために、「蘭の花」を御簾の端から差し入れて歌を詠む。「蘭の花」とは、現代の蘭ではなく、薄紫の小花を咲かせる秋の七草のひとつ藤袴。喪服である「藤衣」に藤袴をかけて夕霧は歌を詠み、二人は同じ祖母の死を悲しんでいる従妹の間柄であることを玉鬘に訴えている。それを受けて玉鬘は、縁の遠い間柄ならば藤袴の「薄紫」も気になるところだが、二人は実の兄妹の関係と何ら変わらないと夕霧を退ける。あくまで玉鬘は夕霧を恋愛対象とするつもりがないのだ。

こういった様子を読むと、本当にこの時代は色に意味があったのだと思う。藤袴の薄紫を見て、その意味をくみ取る。「紫」が血縁を表すということは、何度も出てくることなのだが、それだけ浸透していたことがわかる。そしてまた、ここでも源氏物語の根底を流れる色が紫であることを感じずにはいられない。

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