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源氏物語の色 32「梅枝」~紺瑠璃・白瑠璃~

「梅枝」のあらすじ
―――光源氏は、娘である明石の姫君の裳着の準備に忙しくしていた。六条院の女性たちは光源氏に依頼され、伝来の名香でおのおの薫物の調合をし、紅梅の盛りには薫物競べが行われた。明石の姫君の裳着が行われ、続いて東宮の元服。そして明石の姫君の入内は四月となったーーー

「梅枝」の帖は香りに包まれている。
光源氏は、紫の上をはじめ花散里、明石の君、朝顔の前斎院に薫物の調合のために今昔様々な香の材料を取りそろえて配り、二種類ずつ調合するよう依頼する。
香を鉄臼で搗く音がやかましく聞こえるというから、みな競って最高の香を引き出そうとしていたのだろう。
読んでいると、王朝のかぐわしい香りが漂ってくるようである。

そのような折の二月十日、小雨の降るなか軒端の紅梅が咲き誇り、色も香もこの上なくすばらしいとある。湿気によって香りが際立ち、柔らかい明るさの中に紅梅の赤い花が浮かんでくる様子がわかる。
読み手の脳裏には先ほどの薫香の香りの上に、紅梅の香りと色が加わることとなる。そこへ朝顔の前斎院の薫物が届けられる。
その薫物は、沈の香木で作られた香壺の箱に「紺瑠璃」と「白き」瑠璃の杯が二つ据えられ、それぞれに薫香が大きな粒に丸めて入れられていた。

現代では「瑠璃」と言えば「瑠璃色」を思い浮かべるのだが、この時代の「瑠璃」は硝子の器のことのようだ。つまりここでは、濃く青い硝子の杯と白い硝子の杯である。
青い瑠璃の杯には黒方の香が入れられ、五葉の松の枝が心葉として添えられている。
白い瑠璃の杯には梅花の薫香に梅の枝の心葉。

この二つの瑠璃の杯を目にした時のときめきを想像したい。
青の瑠璃には、冬の寒さに耐える常緑の松の心葉、中の薫香は冬の薫香とされる黒方。
白い瑠璃には白い梅、中の薫香は梅花で春の訪れを告げている。
居合わせた蛍兵部卿宮も、風情ある様と目を見張っている。

読み手の嗅覚を刺激したうえで、色で視覚も刺激する。今の時代であっても、王朝時代の華やかな場面が浮かんでくる仕掛けとなっている。

さらに、戻ろうとしていた朝顔前斎院の使者を引き留めてみれば、「紅梅襲」の細長を身に着けている。
光源氏は朝顔前斎院に、同じ紅梅襲の色の紙に返事を書き、紅梅を文につけて渡す。
色のリレーのようなわれてことが行われているのだが、王朝人たちはこのようなことで美意識を感じ、風流を競っていたのだと思う。
現代人にはなかなか真似のできないセンスだと思うし、仮にできたとしても理解をする人がいないだろうな、などと感じるのでした。

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