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源氏物語の色 31「真木柱」~手紙の色~

「真木柱」のあらすじ
―――玉鬘は意に反して髭黒に嫁ぐことになった。髭黒は正妻にかまわず、玉鬘に夢中になり、自宅に引き取ろうと思いをめぐらす。そのような夫を見て髭黒の正妻は乱心し、火取りの灰を浴びせかける。光源氏は玉鬘に文を届けるものの、恋心は実を結ぶことはなかったーーー

現代でいえばアイドルのような存在だったであろう玉鬘が、こともあろうに髭黒の大将のものとなってしまうとは、源氏物語の中でも意表を突く。さらに、玉鬘の元へ出かけようとする髭黒に、正気ではなくなった正妻が灰を浴びせかける。とても千年前の物語とは思えないような展開となっている。

さて、出かけようとしていた矢先に灰を浴びせかけられてしまった髭黒は、茫然としている。灰は目鼻にも入り、着替えてはみるものの灰だらけで、とても出かけられるものではなくなった。
玉鬘の元へ行けなくなったことを手紙で知らせるのだが、その時用いたのが「白き薄様」。
これは艶書に用いるので、選択としては決して誤ってはいないのだが、手紙の内容は格物風情のあるものではなく、もらった玉鬘も何とも思わず返信もしない。
髭黒本人が一人舞い上がっている様子が「白き薄様」の存在をちょっとむなしいものにしているように感じてしまう。せっかくいいものを身に着けているのに、空回りしているような気分になる感覚とでもいいましょうか。

この事件の後、正妻は子どもたちと共に実家の式部卿の宮に引き取られることになるのだが、姫君は別れの歌を「檜皮色」の紙に書き、真木の柱の隙間に挟み込む。
「檜皮色」は黒みがかった赤茶色。この当時、檜の皮で染めていたかどうかでは定かではないが、色だけでなく檜皮の風合いも感じられたのではないか。
そのような檜皮色の紙に「真木の柱はわれを忘るな」と書き、同系色であろう柱に挟み込むのは、決して誰にも見つけられずにずっとこの家に秘めていたいと思ったからであろう。

父と娘の、紙の色の選び方。
父は気合ばかり入って空回り。娘は自分の気持ちを込めて。
勝手な解釈かもしれないけれど、そのように思ってしまうのでした。

「真木柱」の帖にはこれらのほかにも色の記述として、髭黒が「柳の下襲、青鈍の綺の指貫」を堂々と着こなしている様子がある。
また、帝の歌中には「はひあひ(灰合い)がたき紫」とあり、媒染剤として灰が使われていたことが周知のことであったことなどがわかる。それを前提として紫の縁語がちりばめられている歌となっている。

現代の私たちは、読み過ごしてしまいそうな色だが、ひとつひとつにある意味を王朝時代の人々は敏感に感じ取っていたに違いない。

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