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300_昔話30

昔話30
普段自分語りする機会ってあまりないと思う。語ったとしても話がバラバラになっちゃったり、聞いてもらえなかったりしますよね。なので興味がある人だけ読んでくれればいいし、長いから飽きちゃうかもしれないけど興味を持ってくれる方のために一生懸命伝えていきます。

あなたに懐かしい匂いはありますか?
一歩外に出た瞬間に、冬の寒さの中でも少し温かみを帯びたような風がふわりと吹いた。微かにした、あの時の懐かしい匂い。温度、香り、感触、全てが重なる。
あの頃の私は、ただがむしゃらに人間だったな。子どもというにはもう大人で、大人というよりはまだ子どもだった。中途半端な私は何者でもなかった。

21歳、フリーター、独身、六畳一間のアパート、1人暮らし。ありきたりなプロフィール。これ以外に紹介することはない。それくらいの厚み。いや、薄さ。休日は寝て過ごし、たまに友人と飲みに行くくらい。やることはないし、やりたいこともない。

そんな人間でもまだマシだったのは顔だった。二重で切長な目、濃いまつ毛、高い鼻、綺麗に揃った歯並び。その要素がギリギリ繋ぎ止めてくれていた。
私が安心する居場所を繋ぎ止めてくれていたが、それが落とし穴だったのかもしれない。
常に連絡を取っている女性、たまに連絡を取る女性、気がある女性、狙っている女性。味方になってくれる女性のところへ都合よく飛んでいった。

「かっこいい」とうっとりした蕩けそうな目で見つめてくる。3年前の高校生の頃から知り合っているその女性は出会った時から変わらない。ぱっちり二重で低い鼻、垂れた眉毛に白い肌はまるで赤ちゃんのように幼い顔つきだ。ことあるごとに褒めてくるその女性といる時間はとても居心地が良かった。
「東京行くから陸の家に泊めて」なんて言ってくる。動物園に行って、公園に行って、近況報告、お話をして、居酒屋に行って、何も考えずに私は居心地のいい居場所を離れなかった。「それ以上したら、私、わからないよ」わからないのはお互い様だった。

「今友達と友達の彼氏と一緒にいるんだけどさ、ちょっと気まずくて、、、ちょっとだけ付き合ってよ」その彼女は高校時代の先輩。カフェに3人でいた時、気まずくなってしまったらしく近くにいた私に連絡が来た。カフェから抜け出して来た先輩は、焦って不安がっていたが、気付いたらカフェでの出来事を忘れて2人で笑っていた。高校の時より少し大人になって綺麗になって、しかしどこか子どもっぽさもある不思議な先輩だ。先輩らしい態度は全くなく同じ目線で共感してくれるとても優しい先輩だ。私たちは2人でカフェに入って、高校時代の話で盛り上がり時間を忘れて、私も先輩も友達のことは忘れて夢中で2人の世界を楽しんだ。

「あんなことがあってこんなことがあって大変だったんですよ〜」取り止めもない会話から若さが漏れている。バイトのヘルプで行った先で出会った女の子はエネルギッシュでどこか寂しくその二面性を楽しんでいるような気がした。初めて行ったファミレスでも終わらない話が始まる。気持ちのいいところで相槌を打つのが私の仕事だ。その女の子は無理をしてその話をしているような、そんな気がした。「その無理にどうか気付いて、私の寂しいところを見つけて」そんなふうに言っている気がした。
女の子の寂しい部分に触れる頃にはもう後戻り出来ないくらい。その頃には私の相槌が上手くなっていた。

「初めまして、多分、そうですよね、、、、」今どきな出会い方をした。小柄でお淑やかで小動物顔な彼女は年齢よりも幼く、しかし話してみると大人にも見えた。優しく真っ当な彼女の「本当」は今までに感じたことのない居心地の良さだった。彼女になら私のこともなんでも言えた。彼女も私に全てを打ち明けてくれた。彼氏の悪口も浮気していることも家庭環境や職場のことなど、全てを打ち明けてくれていた。
いい意味でも悪い意味でも隠し事がない私たちは、どうしようもなく心地よく、どうしようもなく寂しかった。何度も求め合った、彼女のために何が出来ただろう、彼女の居心地の良さに何度も頼った私だった。


安心できる居場所にすっかり依存していた。落とし穴。そこを私は救いだと思っていた。何度も頼って依存して、私は成長しなかった。2人の一瞬の過ちの責任を取ることはどちらも出来なかった。
関係はいつまでも続かない。いつか終わりがくる。終わりがくることなんて信じたくなかっただけだろう。終わらせたくなかったのは私だけかもしれない。
なんとも心地よい、温度、香り、感触がぬるい風とともに私の頬をぺちっと吹いた。


あの時気付いていればな。求め合っても、何も残らないって誰も教えてくれなかった。もっと強く、ビンタくらい強く、私の頬をバシッと吹いて欲しかった。

懐かしい匂いとともに、青春なんて都合のいい言葉で収まる思い出が頭と心に回想される。何も生み出さなかった、確かに今あるものは切なさだ。微かに残っている切なさが小さな心をキュッと締め付ける。
あなたに懐かしい匂いはありますか?


noteは、普段考えていることを文字で吐き出す
Instagramは、普段考えていることを形にして表現する

写真撮っているので見てください
https://www.instagram.com/ganometherapics/?hl=ja

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