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エンターテイメントの真の力/エンターテイメントという薬

エンターテイメントという薬

この本は、3週間後に眼球摘出手術を受ける事になった21歳の少年に、手術を受ける前に.hack//G.U. Vol.3というゲームを遊んでもらう為、少年のもとに直接届けた松山洋さんが執筆したノンフィクションです。

そして少年の元にゲームを渡したその後も描いており、松山さんが直接取材した内容を元に構成されている本です。

正直に申し上げると、電車の中で読みながら泣いていました。
あまりにも残酷すぎるし、考えただけでもゾッとする。盲目になる事がこんなにも大変な事だなんて思いもしなかった。決して大したことないだろうってわけじゃない。想像のしようがなかったんだ。

一時は大丈夫かと思われた病気が思いもよらない時に再発して、そして全盲にならなきゃいけない事を告げられる。正直、余命宣告された方がマシなんじゃないか?って思うぐらいの生き地獄だと思った。

目が見えなくなる前にやりたい事。僕にも色々思いつく。ライブを観に行く。尊敬する人に会いに行く。世界有数の景色を見に行く。家族に会いに行く。友達に会いに行く。

でも足りない。何をしたってその穴を埋められ素敵な出来事はない。

この世にありとあらゆるものが存在する中、残された時間の中で、ゲームを遊びたいと思えるだろうか?僕なら思わない。でも世の中にはそんな状況に立たされても、ゲームを選ぶ人がいる。.hackの世界に共感し、光を失った後もその輝きを刻み込んでおきたいと思う人がいる。

この本はその当事者でもある少年の実体験についても書かれている。目が見えない状態でも健常者並の生活を送る危うさ、難しさ、そしてそれを乗り越えて今では笑顔でいられる少年が。

読んでいて自分はなんてぬるま湯に浸かっていたんだと思わざる負えなかった。五体満足の体で、何不自由なく生活出来ている。だからこそ、物事もすぐ諦めがつくし、それとなく満足出来たりする。ちょっとやそっとですぐ逃げようとするし、それが正しいとさえ思えてくる。

しかし、世の中にはそういった壁を僕の何倍も苦労を重ねた人達が乗り越えていっているの事をこの本で知った。どんな状況になっても生きる事だけは放棄しなかった。きっとその力を支えたのもゲームや娯楽だったのだろう。

ゲームに限らず娯楽には目には見えない力がある。発売日が迫れば生きていくモチベーションにもなる。その作品の景色や言葉が生きる糧になったりする。それはその作品がそれだけ好きだからこそ感じれる事だし、その人の境遇じゃないと感じられない事。

そんなかけがえのない物を作る人達は、どんな人達なんだろう。どこにそんな大きな力を注げる力があるんだろう。作る人達も娯楽が好きなのだろう。その人達も何度も何度も自分の好きな作品に生きる力を貰ったのかもしれない。だからこそ、その力を今度は自分の手で伝える事が出来るんだと思う。

この本は悲しい本ではない。救いのない本ではない。どんな境遇に立たされようと生きる力を与えてくれたゲーム。娯楽の力を最大限に証明した本だ。

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