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096.『はじめてのまちづくり学』山崎義人・清野隆・柏崎梢・野田満 著

“まちづくりの担い手は、まちに住み、働き、訪れ、集うすべての人々です。多様な主体が連携・協働することで豊かなまちはつくられます。本書を読み終えたあらゆる読者が、小さくとも自分たちなりのまちづくりを実践する「主体的な市民」となり、それぞれの立場でそれぞれのまちをより良くして行ってくれることを願ってやみません。“

☞書籍詳細

「まちづくり」にはじめて取り組む学生や市民に向けた入門的教科書。まちづくりとは何か?なぜ必要か。多様な人々との連携・協働、まちの構成要素や成り立ちや仕組み、まちづくりを進めていく流れやまちの居場所づくり等を、わかりやすく体系的に解説。15の事例やワークシートも収録。まちづくりを自分事として学べる一冊。

●はじめに

本書は、「まちづくり」にかかわる都市や社会の事象をなるべく平易に噛み砕いて解説した体系的な入門書です。

これまで学生たちに「まちづくり」を伝えてくるなかで、いくつかの違和感が芽生えていました。1つは、これまでのまちづくりの教科書は少々難しすぎるのではないかということ。もう1つは、この10年ぐらいの現場の急速な展開のなかで教科書が追いついていないのではないか、ということ。さらにもう1つは、個別のプロジェクトをうまく取り組めても、「まちづくり」の大きな流れを描ける素養を学生は身につけてはいないのではないか、ということでした。まちづくりには長年かけて丹念につくりあげていく、そうしたニュアンスが込められていますが、近年薄れつつあるのではないでしょうか。

まちづくりや地域づくりを扱う文理融合の学際的な学部学科が増え、多くの学生が「まちづくり」を学び社会に出て行きます。こうした状況を頼もしく思います。その一方で、その入り口としての教科書は、ほとんどが従来の土木・建築・造園や都市工学など、理工系の学びを出発点としてきました。特に、まちづくりは都市計画から派生してきたこともあり、高度に専門化した内容を教える傾向にありました。それでは、20歳前後でまちづくりを学ぶ学生には、なかなか接点を見出しづらいように思うのです。
学生や著者にとっても身近なまちづくりの現場として挙げられるのは、2010年代以降に展開しはじめた、空き家・空き地のリノベーションや、それにまつわるコミュニティづくり、子ども食堂やコミュニティ・カフェといった取り組みです。しかし従来の教科書ではあまり触れられてはいません。

考えをもう少し先に進めてみると、これまでのまちづくり教育で育てようとしていた人材像と、これから世の中に求められている人材像が異なってきているのではないか?という問いに至りました。要するに専門家養成以前の学びを充実する必要があるのではという問いです。人口減少、リーマンショック、東日本大震災などなど、次々に困難に晒されるまちの現場で、もう一度、改めて必要なのは「市民が主役」のまちづくりではないでしょうか。地域に暮らす人々にとって、まちづくりはますます身近な営為になってきています。いわゆるアフターコロナにおいても、そうした傾向はより強くなっていくことでしょう。まちづくりには幅広い教養が求められます。まちづくりを自分事として学び、市民としての主体性を醸成し、まちの個性を読み取り、まちの中で実践する。そんな意欲的でイノベーティブな市民を育てる、まちづくりの教科書が必要だと考えるようになりました。本書はこうした問いや想いを共有した著者らの新たな試みです。学生のみならず、まちづくりに興味・関心があり、これからまちづくりを始めようとする市民の方々にも手に取ってもらえればとも思います。

まちに暮らす人々の眼差しから、まちづくりを考えられるように、各章は構成されています。

1章「私から始めるまちづくり──個人と社会潮流」では、若い読者に地元のまちを読み直してもらうことから始まり、地域や社会課題を自分事として捉える補助線となることを狙っています。

2章「みんなと出会う──参加・協働」では、まちがそこに暮らす「人」から立ち上がるものであり、あらゆる主体の営みが複層的に絡まり合う多様さをもっていることを伝えることを目的としています。年齢も職業も異なる人々の存在を知り、共に助け合うことが、これからのまちづくりにはいっそう欠かせない視点になるだろうと考えています。

3章「まちに出会う──計画・デザイン」では、人々の営みによって形づくられてきた環境としてのまちへと展開します。構成要素としての歴史、環境、構造物や、まちの個性を発見する方法を学び、環境の特徴を捉える目を養います。同時に、まちづくり計画やまちづくり協定、都市計画、建築基準法などへの理解を促し、そのうえで個性を活かした計画・デザインにつなげていきます。

4章「まちをつくるプロセス──運動・運営」では、読者が実際にまちづくり活動を起こすことを想定し、順を追って手順を解説していきます。様々な人々やまちとの関係を取り結び、その動きを拡げ、いかに多様な主体と連携を図るのか?そのプロセスを辿ります。

5章「まちづくり事例集(1970’s~2020’s)」は、社会背景や主体、計画や構成、プロセスなど異なる特徴的な15の事例をシンプルに紹介しています。個々の事例の理解だけでなく、これまで学んできた知識をもとに、それぞれの成功要因や今後の展望について主体的に探り、学ぶ力をつけてもらうことを狙いとしています。

6章「知っておきたい基礎知識」は、まちづくりの背景を補填する章です。1960年前後から50年ほどの時間を振りかえり、15年単位で区切りながら、どのようにまちづくりが捉えられてきたか、その変遷について概観します。さらにまちづくりの歴史と併走して、大きく影響を与えたと思われる10名の海外の人物たちと彼らの提唱した概念を手短に紹介しています。自身の興味関心に近いものを見つけ、それぞれの学びを深めるきっかけとなれば幸いです。

さらに、各章の導入や振り返りとして、書き込み式の「ワークシート」を収録しています。読者がより自分事としてまちづくりを実感することを促すこれらのワークシートでは、知識の活用というよりは、読者自らの経験や感性、価値観を掘り下げ表現することを狙っています。自分自身を客観的に理解するとともに、まちとのつながりを再認識・再発見する機会でもあります。本書を用いた学びをあなたの実践へとつなげる作業でもあり、これらのワークが一歩を踏み出す足掛かりとなることを期待しています。

まちづくりの担い手は、まちに住み、働き、訪れ、集うすべての人々です。多様な主体が連携・協働することで豊かなまちはつくられます。本書を読み終えたあらゆる読者が、小さくとも自分たちなりのまちづくりを実践する「主体的な市民」となり、それぞれの立場でそれぞれのまちをより良くして行ってくれることを願ってやみません。

2021年7月

著者一同

●書籍目次

序 まちづくりとは

1 まちづくりとは何か
2 まちづくりと都市計画の違い

1章 私から始めるまちづくり ─個人と社会潮流─

1 まちづくりが必要なわけ
2 まちの課題
3 求められるこれからの担い手像
4 まちづくりへの第一歩
ワークシート① 校歌から育った地域を振り返ってみよう
ワークシート② 環境的自伝
ワークシート③ まちづくりへ向かう自分設定

2章 みんなと出会う ─参加・協働─

0 みんなと出会う前に
ワークシート① 身近にいる仲間を探してみよう
1 市民・行政・企業
2 まちづくりを担う主体
3 手助けが必要な人々
4 まちづくりを下支えする主体
5 外部の専門家やサポーター
6 参加と連携・協働のためのキーワード
7 みんなと出会うために
ワークシート② まちづくりの事例を読み込み、登場人物を読み取ろう

3章 まちに出会う─計画・デザイン─

1 まちを見出す
2 まちの構成要素
3 まちの成り立ち
4 まち独自の計画ルール
ワークシート① まちの聖なる場所
ワークシート② あなたのまちの過去の姿を調べよう

4章 まちをつくるプロセス ─運動・運営─

1 プロセス
2 リノベーション時代のまちの居場所
ワークシート① プロジェクトを立ち上げよう
ワークシート② まちの拠点をつくる

5章 まちづくり事例集(1970’s~2020’s)

1 玉川まちづくりハウス
2 羽根木プレーパーク
3 公益信託世田谷まちづくりファンド
4 グラウンドワーク三島
5 株式会社黒壁
6 真鶴まちづくり条例「美の基準」
7 あまみず社会研究会
8 神山プロジェクト(NPO法人グリーンバレー)
9 リノベーションまちづくり
10 ISHINOMAKI 2.0
11 尾道空き家再生プロジェクト
12 オガールプロジェクト
13 京都移住計画
14 ミズベリング
15 シェア金沢

6章 知っておきたい基礎知識

1 まちづくりの歴史
2 まちを語るキーワードと人物
ワークシート まちづくりビブリオバトル


☟本書の詳細はこちら
『はじめてのまちづくり学』山崎義人・清野隆・柏崎梢・野田満 著

体 裁 B5変・172頁・定価 本体2700円+税
ISBN  978-4-7615-2781-5
発行日 2021-09-01
装 丁 松井和泉

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