マガジンのカバー画像

エッセイ

15
エッセイはこちら
運営しているクリエイター

2022年10月の記事一覧

シャワーオンザヘッド

シャワーオンザヘッド

このまえ会った友達の友達の名前はなんだっただろうかとか、明日必ず出してと言われていたデータの定義が足りないだとか、しんしんと降り落ちる水の中で思い返すことはどの箱に入れるかも決める以前のテーマばかりである。頭上で雑多に浮いているそれらが水滴と共に脳みそに落ちてきて、そしてそれを流れに任せるように受け止め消化していく。自分でも思いがけないようなテーマを与えられて、足元が冷たくなっているのにいつまでも

もっとみる
ネットニットネット

ネットニットネット

日々の変わり映えしない景色の中で、ある一部分が急に目に飛び込んでくることがある。パンとズームでギュンと視界が持っていかれるような感覚に、もしかするとほんの少しだけ変化しているなにかを、カクテルパーティー効果みたいなもので脳みそが的確に選び取ってくれているのかもしれないとも思う。会社があるのは東京の中でも吸殻がたくさん浮いている方の街で、下を向いて歩くには余りにもカラスの好物が多過ぎる。仕事帰り、駅

もっとみる
空飛ぶクリームソーダ

空飛ぶクリームソーダ

驚くことはない。往路では22分だったにも関わらず復路の今は1時間と44分が経過しても尚、目的地に着かず電車の中にいるというだけのこと。無論、電車はなんの問題もなく通常運行している。こうなっているのはあくまでも私の方に問題があるからだ。
最初の頃は毎度毎度ギョッとしていたのだけれど、もうあまりにも毎度毎度こうだからそういう自分にも慣れてきた。要はこうである。行きは地図も見るし電車の乗り換え案内も守る

もっとみる
トイレ貯金

トイレ貯金

それは焼肉を鱈腹食べた日曜日。いかに、「明日は会社」へと通電したがる思考を「まだ日曜日」に誘うか、脳内熱戦を繰り広げている最中だった。トイレ掃除に興じていた同居人が、頗る不機嫌な足音でリビングに帰ってきた。なんや話しかけられたくないなあという表情が完成した辺りで目が合う。「ミズガナミナミアガッテル!」「え?なになんて?」「トイレの水が溢れそうなくらいあがってるの。もうダメかもしれない!」越してきて

もっとみる
捨てた庭訓

捨てた庭訓

新の服は洗ってから着るのが当然だったし、たくさん服を買った日はたくさん洗濯を回す日だったし、干す日だった。子供の頃からそうしなさいと言われてきた。ピンピンだった服がびちゃびちゃの皺皺で整列している姿を眺めながら、今すぐにでも着て出たい気持ちにケリをつけて、早く乾けよの想いを募らせた。だから初めて袖を通す日は断食明けのお粥くらい沁みる。唯一の例外はお店で試着をして、それから「このまま着て帰ります」と

もっとみる