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石川金子
2021年2月9日 04:04
その日の新大久保はストラトキャスターの似合うご機嫌な春でした。女の子たちはみんなミニスカート軽やかに街を行きます。どこもかしこも甘くおいしそうなピンクで埋め尽くされていて、そんな世界の片隅で私は道端の花壇に腰かけてつつじの蜜を吸っていました。 私は先ほど友人に撒かれました。友人はきらきらの憧れを持って常に生きていました。私は友人のきらきらの憧れを否定することも肯定することもなく、ただただそのきら
2020年7月25日 01:47
彼はまだ生きているはずの彼女を探しに中野へ帰ってきた。 きっとお前は俺の部屋にでも勝手に上がり込んで、敷きっぱなしの布団からのっそりと起き上がって出迎えるはずだ。彼は電車の中でそれを経のように繰り返し、彼女のマシュマロのような寝息と重たい瞼の青黒い血管と猫のように伸ばす腕と関節の軋む音を脳内で転がして微笑んだ。あまりにも精密だったために彼は彼女の生を確信する。しかし、乗客たちの表情が彼を苛立
2020年4月26日 02:30
その日の新宿はテレキャスターよりもSGが似合うような鋭い豪雨で、悪魔的に人を孤独にさせました。 人間の堕落を無理矢理誂えたようなピカピカとした電飾が、濡れた路面に反射して素晴らしく綺麗でしたが、私はそれをわざと踏んづけるようにして歩きました。様々な男や女が笑っていましたが、どれもわざとらしく素敵な笑顔で、とても気持ちが悪く、彼らの甲高い声が聞こえる度に、より一層路面を踏みしめるのでした。私はぺ
2020年1月10日 14:04
太陽がだらだらと爛れて赤い体液をアスファルトに滴らせている夏の終わりに彼女は死んだ。 国道近くの緩やかで長い坂道を、黒ずくめの一行が陽炎に煽られるようにじりじりと登っていた。まるで蟻の行列が戦利品を抱えて帰るように、先頭からの何人かは骨壺や遺影や献花を抱えて、悲しみよりもうだるような暑さのために皆頭を落として歩いていた。彼はその葬列の一番後ろを、似合わない喪服を着て不貞腐れたようについていく。