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葬列#2【小説】

 その日の新宿はテレキャスターよりもSGが似合うような鋭い豪雨で、悪魔的に人を孤独にさせました。
 人間の堕落を無理矢理誂えたようなピカピカとした電飾が、濡れた路面に反射して素晴らしく綺麗でしたが、私はそれをわざと踏んづけるようにして歩きました。様々な男や女が笑っていましたが、どれもわざとらしく素敵な笑顔で、とても気持ちが悪く、彼らの甲高い声が聞こえる度に、より一層路面を踏みしめるのでした。私はぺったんこのスニーカーを履いているので、すぐに水が染み込んできて、それは彼らの血液のようでとても不快でした。
 私は、早くお家に帰りたいなぁ、とそればかり考えて、彼の手を握ったのですが、彼は逆に歩みを止めて、どうしたの、と不思議そうな目でこちらを見つめるのです。

なんでもないよ

 私が孤独に襲われるのは日常茶飯事でした。例え、私が母親や友人や大切な人と一緒に愉しく笑っていても、いつも独りでした。厄介なことに、孤独は私と一緒に愉しく笑っている誰かと同じように、私に寄り添って、愉しく笑いかけてくるのです。どんなに賑やかな場所でも、どんなに穏やかな日和でも、孤独は愛らしい妹のように私のスカートの裾をちょこんと摘まみながらついてくるのでした。
 彼女は今夜も私のビニール傘の端に身を寄せながら一生懸命に顔を上げ、きらびやかな看板群を観察していました。

どこにする

 鍵を受け取ってエレベーターに乗ると少し暖かい気持ちになります。彼は前髪を睨みながら整え、私はそんな彼の腰に手を添えました。孤独といえば「今月のカレーフェア」の文字を熱心に見つめています。
 エレベーターを降り、彼が203号室の鍵を差し込んだところで、私は後ろを振り返りました。孤独は悲しそうな目をしてこちらを見ています。そう、彼女はラブホテルの部屋には入ってくることが出来ないのです。私が彼に手を引かれると同時に彼女は裾を手放して、私達が203号室に入るのを見届けました。

 部屋の中はきちんとベッドが整えられていましたが、不潔で暖かく、すぐに身体に馴染んで図々しくなることが出来ました。ここでやっと二人きりになることが出来て、私は嬉しくって、いつもよりはしゃいで、泡の出る入浴剤とバラの香りの入浴剤のどちらが良いかを吟味したり、枕もとの電飾パネルをいじって部屋の灯りを点滅させたりして、そんな様子を彼は不思議そうに眺めていました。