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ちゃんと恋で、愛だった。

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それは一目惚れから始まった、初めての恋だった。彼と出会い、別れ、また出会う日まで。
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#好き

#10 ここにあるもの

#10 ここにあるもの

今日はあの人の誕生日。
彼のことはまだ忘れられない。

今年もおめでとうのメッセージだけ送ろうと、彼とのライン画面を開く。去年の今日から1年ぶりに見たそこは、背景画面が連絡がくるおまじない画像になっていて、そういえばこんな画像に設定していたなとふふっと笑ってしまった。

「よるくん、お誕生日おめでとう。元気でいてね。」

久しぶりに彼に連絡をするから、少しだけ緊張しつつ、去年と同じメッセージを打つ

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#9 ちゃんと恋で、愛だった

#9 ちゃんと恋で、愛だった

忘れられないものはどうしようもなくて、いつか忘れてしまうまで放っておこうと決めたけれど、別れて1年を過ぎても、あの頃の彼を抱き締めたまま、何も変わっていない。

彼にまた会えたら…と何度想像したことだろう。手を繋いで歩きたい。海を見に行きたい。やりたいことはいくつかある。でも、どうありたいかなんて、

「一緒にいたい」

それ以上の答えは出てこない。

もともと私には恋愛も結婚願望もなかったものだ

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#8 今日もこの先も

#8 今日もこの先も

彼を忘れられないまま、季節は流れて、一年近く過ぎた。その間に私は一つ年を重ね、彼の誕生日が近づいてきた。

思い出して泣きたくなるほどの悲しさはだいぶ薄れてきたけれど、まだ心の中には彼がいる。自分でも驚くほど、何一つ変わっていない。彼が今、どこで何しているかなんて知らない。それでも、胸の奥には彼への気持ちが残っていて、触れるたびに温かくなる。

彼の誕生日の朝、久しぶりにラインのトーク画面を開く。

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#7 それなら、いつか

#7 それなら、いつか

3ヶ月経てば、元彼のことは忘れるよ。
ネットの記事でそう見かけて、私もそうなるのかな、寂しいなと思って。
でも、1日だって忘れたことはない。気持ちだけはあの頃のまま、何も変わらないまま、どんどん時間は過ぎていく。

朝、出勤すると、染み付いた習慣のように、彼がいたはずの駐車場を見てしまう。彼が気に入っていた黒い車はもうないとわかっているのに、またどこかで会えないかなと探している。

別れてしまった

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#6 どこにも言えない

#6 どこにも言えない

あの別れのラインが来て2週間後、彼は退職した。

どうにか悲しい顔を見せないように、でも会えなくなるまで彼を見ていたくて、朝、会社の駐車場で遠くから彼の後ろ姿を見つめていた。

ラインのトーク画面は、私が送ったメッセージに既読がついて終わっていた。それから、メッセージはやり取りしていなかったが、彼が退職した日にもう一度「今までお疲れさま!引っ越しても元気でね」とだけ送った。ずっと未読のままだ。

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#5 最後のわがまま

#5 最後のわがまま

好きだったけれど、恋というものがよくわからないまま付き合っていた。彼はとても慎重に優しく、私のペースに寄り添ってくれた。出会ってから半年近く経って、この気持ちが恋だと知った。

やっと、わかったと思ったのに。
運命というものがあるなら、ひどく残酷だ。

ちょうどその頃、彼の仕事がいつも以上に忙しくなっていた。彼の部署がトラブル対応に追われていて、彼も夜遅くまで残業したり、休日も出勤したりしていて、

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#4 あなたの顔に触れたい

#4 あなたの顔に触れたい

生まれて初めて、顔が好きだと言われた。
まず一番に驚いたけれど、嬉しさも大きかった。褒められるとつい謙遜してしまうけれど、彼の言葉はお世辞なんかじゃなく、ほんとうの好意だったから、素直に受け止められた。自分の顔にそこまで自信はないけれど、好いてくれてありがとう。

でも、恋すら知らなかった私には知り得ない感情で。
どんなふうに私のことを見てくれているのだろうか?
付き合って数カ月経つけれど、彼の気

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#3 なんでもない恋

「気づいていないかもしれないけど、俺、男やで」
「え?そうだと思ってたよ?」
「いや、男の人苦手なんかなと思って、、俺、女やと思われてたらどうしようかなって」

どこからどう見てもあなたは男性だよ。
どうやら、私が恋愛経験ないことを気にかけての発言だったようだ。それと、私が男性が苦手らしいという噂が社内で回っているそうだ。その噂はたぶんあれだ。あの先輩がしつこく合コンに誘ってきて、いろいろ理由をつ

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#2 恋を知らない私

#2 恋を知らない私

彼と出会って、初めて恋を知った。

自分から誰かを好きになったこともなく、誰かから好意を寄せられたこともなく。アセクシュアル(無性愛者)かどうかまで深く考えたことはないが、ただ、25年生きてきて恋愛とは無縁だと思っていた。

だから、彼との出会いはとにかく不思議で、何も知らないまま恋に落ちていた。

2度目のデートの時、彼に好きなタイプを聞かれて答えが出てこなかった。だって、今まで誰かと付き合いた

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#1 顔が好きと言われた

#1 顔が好きと言われた

恋のきっかけは、彼の一目惚れだった。

もともと同じ職場で、違う部署の彼。仕事上の関わりはなく、私のほうは彼のことを認識していなかったが、廊下ですれ違ったことがあるらしい。

ある時、ラインのIDと「ラインを交換してください」と書かれたメモが職場の私の机に置いておった。

誰だ??
名前を見たところで、さっぱり誰だかわからない。そりゃそうだ、会ったことすらない。
こんな人いるのかな?と、社員名簿を

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