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#8 今日もこの先も

彼を忘れられないまま、季節は流れて、一年近く過ぎた。その間に私は一つ年を重ね、彼の誕生日が近づいてきた。

思い出して泣きたくなるほどの悲しさはだいぶ薄れてきたけれど、まだ心の中には彼がいる。自分でも驚くほど、何一つ変わっていない。彼が今、どこで何しているかなんて知らない。それでも、胸の奥には彼への気持ちが残っていて、触れるたびに温かくなる。

彼の誕生日の朝、久しぶりにラインのトーク画面を開く。あの頃から未読のままだ。前々から考えていた文章を打ち込んで送信する。誕生日ぐらいお祝いしてもいいよね。

「よるくん、お誕生日おめでとう。今年も素敵な1年になりますように」

きっと、誰にも届かない。
それでもいいから、私の気持ちのほんの一部でも彼に伝わってほしいと願いを込めて送った。ほんのちょっぴり期待して待っていたけれど、予想通り、彼から返信は来なかった。


きっと、彼を忘れることはない。
今日も明日も、この先も。彼に伝えられなくても、私の気持ちはちゃんとここにある。

どれだけ離れてしまっても、彼を嫌いにはなれない。嫌いになれたら、忘れてしまえたら、きっと楽だろうな。そんな一抹の期待はあるようでない。 

運命の人だったと、今なら思う。初めて会った時から恋に落ちていて、それからずっと、心の奥深いところで繋がっている気がする。

彼だから、好きになれた。ここにこうやって書き記すほど、綺麗事ばかりではないけれど、恋を知らなかった私に、知らない世界を見せてくれた。

アセクシュアル(と呼んで正しいのかどうか定かではないが)は元に戻ってしまったようで、やはり異性にはこれっぽっちも興味がなくなった。

最初で最後の恋だった。
大げさだと笑っていいから、そう思わせてほしい。私にはそうだったから。

運命を信じていいのなら、もう一度彼に会いたい。また会うことができたら、彼に好きだと言ってしまう気がする。あのデートの時のように、何も考えずに。彼は私に気が合ってもなくても、前回のように断ってくるだろう。わかっていても、私は言ってしまう。

会ってしまえば、また好きになってしまって、復縁したいとか触れてみたいとか欲は出てくると思う。今は彼の気持ちがわからないから、それはその時に考えるけれど、どちらに転んでもいい。

好きだから、ずっと好きでいたい。
そんな理由で、この恋は続いていく。

この先も。


*この物語には続きがあります。


*物語の始まりはここから。


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