#3 なんでもない恋
「気づいていないかもしれないけど、俺、男やで」
「え?そうだと思ってたよ?」
「いや、男の人苦手なんかなと思って、、俺、女やと思われてたらどうしようかなって」
どこからどう見てもあなたは男性だよ。
どうやら、私が恋愛経験ないことを気にかけての発言だったようだ。それと、私が男性が苦手らしいという噂が社内で回っているそうだ。その噂はたぶんあれだ。あの先輩がしつこく合コンに誘ってきて、いろいろ理由をつけて断ってもしつこいから、ついに思いついたのが「私、男の人と付き合いませんから」だった。それを言うと諦めてくれたが、おしゃべりな人だから、そんな噂話もするだろう。実際、彼と付き合うまではそんなふうに信じていた節もある。
「別に、男性だからどうこう決めつけているわけじゃないけど。そりゃあ同性のほうが仲良くなりやすいけど。」
隣にいる彼の顔を見て続ける。目が合う。彼は少し目を細めて、優しく見返してくる。
「私、人見知り激しいし、他人とは壁作っちゃうけど、よるくんとは全然そんなことない。話していて気が楽だし、一瞬にいて楽しいし」
「ならよかった。」
少し会話が途切れる。
「俺らが出会ったのも運命みたいやな」
本や漫画でしか聞いたことないセリフ。聞き慣れない言葉に「そんな大げさな」と笑って返した。
でも、今ならわかるよ。
彼の仕事が忙しく、休日出勤も度々入るから、デートするのは月に1、2度。連絡はお互いマメじゃないから、数週間空いていても気にしない。次いつ会おうか?と連絡して、会えた時にたくさん話した。これぐらいの距離感がちょうどよかった。
朝10時に集合して、夜遅くなるまでに帰る。デートプランは彼の車でドライブか、映画が多かった。
一度、カップルらしいことをしよう!と2人で考えたが、特に思い浮かばず、結局、映画館で鬼滅の刃を見た。
「高校生のデートみたいやな」と彼は笑っていた。これがちょうどいいんだよ。2人で過ごす時間が何よりも格別だった。
そして、しばらく過ごすうちに気づいたことがある。彼の嫌なところが1つもない。いや、あるはずなのに気にならないと言ったほうが正しいのかも。タバコを吸う人は嫌だと思っていたけれど、彼は気にならなかった。
学歴も趣味もまったく違う。私はそこそこお勉強ができるほうで、彼は苦手なほう。私はインドア派で、彼はじっとしていられないタイプ。1人の時間も大切にしたいとか、自分の意見を簡単に曲げない頑固なところとか、根幹は似ていたのかな。
私だっていいところばかりじゃないのに、何も言わず受け入れてくれて嬉しかった。
似ていないようで似ている2人。
出会った頃から、どこか深い部分で繋がっている気がした。
告白されて、正式に付き合うことになって、手は繋いだ。季節はちょうど冬に入る頃で、夜にイルミネーションを見に行った時、寒いねってどちらからともなく手を差し出した。
*この物語には続きがあります。
*物語の始まりはここから。
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