#4 あなたの顔に触れたい
生まれて初めて、顔が好きだと言われた。
まず一番に驚いたけれど、嬉しさも大きかった。褒められるとつい謙遜してしまうけれど、彼の言葉はお世辞なんかじゃなく、ほんとうの好意だったから、素直に受け止められた。自分の顔にそこまで自信はないけれど、好いてくれてありがとう。
でも、恋すら知らなかった私には知り得ない感情で。
どんなふうに私のことを見てくれているのだろうか?
付き合って数カ月経つけれど、彼の気持ち全部を理解できなくて、あまりにも不思議なものだから。ある時、聞いてみた。
「今でも私の顔が好き?そういうの見飽きたり、冷めたりしない?」
「今もそう思ってるし、他にもいいとこあるし、飽きることはないかなぁ」
それならいいや。
「ちゃんと見えてる?」
彼が幻を見ている可能性も無きにしもあらず。
「見えてるよ、俺、視力2.5あるし」
おぉん、、それは毛穴とか余計なものまで見えているのでは。肌のケアはちゃんとしておかなきゃ。
彼の瞳は優しくて、私もいつしか彼の顔を見るのが好きになっていった。同じ職場でも、仕事での関わりは全くないので、彼とはほとんど会うことがない。出会うのは出勤時間がたまたま同じになった時。そんな時は、駐車場で彼の姿を見ることができた。私の駐車位置と彼の場所は少し離れているので、挨拶する距離ではないが、こっそり彼の顔を見ていた。バレているよと言われた。
ここまで言っておきながら、ほんとうは彼の顔はタイプではない。ごめんね。でも、目が合う度、彼の顔を見る度、心地よい安心感が私の中に広がっていく。もしかしたら、彼もこういう気持ちかもしれないと思った。
「好き」も「愛している」も彼から言われたことがない。私も言っていない。言わないと伝わらないことは多いと思う。でも、言わなくても伝わることもあると知った。彼の優しい眼差しで伝わってくる。私も同じ気持ちだと思うよ。
これが恋なんだと、誰かを好きになった時の感情なんだと、今はっきりと理解した。こんなにも暖かくて切なくて、体から溢れてしまいそうなほど愛おしい。
あなたのその顔に触れてみたいな。
キスしてみたい。
一度、彼からしてくれたことがある。その時は驚きすぎて、思わず逃げてしまって。彼は私が怖がっていると思ったようで、とても残念そうにしていた。
ほんとうは嫌じゃなかった。でも、反射的に無理だと思ってしまった。さっきの一瞬、唇が触れただけで、私の心臓はどくんと大きく跳ねて、止まらなくなった。今にも体から飛び出そうとしていた。これ以上はダメ! 「怖がってる?」と聞かれ、「怖くないよ」と返した声は震えてしまっていて、動揺してひどく怯えた顔をしていたと思う。取り繕うように何かを言おうとしたが、何も言えなかった。コノムネノウチ、ダレカワカッテクレ…。
次に会った時、彼のほうからそっと口づけてくれた。ふわっとして優しいの。
今度はしっかり彼の熱を受け止めることができた。
*この物語には続きがあります。
*物語の始まりはここから。
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