マガジンのカバー画像

扉の向こう

56
運営しているクリエイター

#冬

空

都会とも田舎とも
どこか違った風景の
この街は
ふと眺めるといつも
朗らかな時を演出していた

街路樹を歩く僕は
悲しいほど美しい冬空に
涙を誘われた

幸せの羽根を乗せた気球が
そこかしこに浮遊していて
ふと手を伸ばせば掴めそうな距離で
僕の周りを
くるくる回っていた

本能と欲望の瞳は
幸せを望み
それが
快楽なのか幸せなのか
ぼんやりとした意識の中では
認識を取り違えたまま
残りの砂時計が物

もっとみる
「冬の木漏れ日」

「冬の木漏れ日」

あとどれくらい
この道は続いているのだろう

私はいま生きている
そうして
それが永遠ではないことも
生まれた瞬間から約束されている

向こうの見届け人が
遥か遠くに霞んでいた頃はとうに過ぎて
いつの間にか
周囲のあちらこちらで
その足音が聞こえてきた

この先
あとどれくらい
季節をめぐるのだろう

冬の木漏れ日に
天使と堕天使がはしゃいでいた

人生の最終地点を歩く
その背中は何を想う

冬の訪れ

冬の訪れ

また冬がやってきた

あっという間に日が暮れていく
その様は
人生の短さを
そっと忍ばせているようで
時の贈り物は深淵だ

未来への眼差しも
季節ごと
年を追うごとに
暗転を変えて行く

何ともなしに眺めた街の光景に
心が揺さぶられ
たまらなく愛おしく
それでいて
相変わらず
つまらないことで
右往左往して
気が付けば
去年の暮れと
それほど変わらない
重たい荷物を抱えていた

もうすぐ
雪が降る

もっとみる
「大切なもの」

「大切なもの」

その先の向こうは
明るいのだろうか

移り行く季節とともに
心と身体も変化を告げる

予期せぬとも
予め知っていたとも
受け止められる
北風の訪問は
人々の忙しない
足音をよそに
容赦ない

「短調だ」「変化がない」
などと砂漠を歩くロバに嘆いていた
若かりし頃の自分を
あざ笑うかのように
時は一刻も休まず
1日の色合いは
様々だ

思うようにいかない1日と
トントントンと駆け上がる
1日と

もっとみる
孤独な空

孤独な空

海を想う青空は
様変わりした街の風景に
無頓着だった
そうして
海を見つめて胸を焦がし
小鳥のさえずりに
想いを重ねた

冬の訪れを知らせに来たムクドリ
いつもより活気のない街の様子に驚いて
羽をパタパタさせた

いったいどうなっているんだ?
ムクドリは
防波堤にひとり佇む老人に声をかけた

「長いこと人びとは、目に見えぬ敵と格闘しているのじゃ。」

古くからこの街に住む長老は
過ぎ去った時の残像

もっとみる
「足音」

「足音」

もうすぐ冬がやってくる
君と出逢った季節だ
澄んだ空気と太陽が
僕らを結び
ツグミが静かに祝福の舞いを
踊っていた

僕らの記憶は曖昧で
細かく刻んだ365日と
いつも
距離を置いていた
そうして
風の足音を聞いていた

ぼんやりとした
風景の中で
ふたりは互いに
笑い合えば
それはいつでも
記念日になった

刹那の巡りで
回転木馬はまわり続け
永遠の一瞬を
僕らは見つけた
地層の奥深く
深海の中

もっとみる