妄想依頼#02『眠帯夜に花火かよ』恋する乙女へ

今回の妄想依頼者：aiko大好きさん

眠帯夜(ねむたいよる)に花火かよ。
私は今宵も、上から花火を見下ろす。

夏になると、
花火を見に行く相手を探すように恋をした。
大学1回の頃、瀬川友樹に花火を誘う計画を3ヶ月間掛けて立てた。
まず彼に顔と名前を覚えてもらうところからだった。
さりげなく同じ講義を受けて、
さりげなく彼の前の席に座る。
さりげなくいい香りのするシャンプーを使って、
さりげなく消しゴムを床に落としまくった。

そんなこんなで3ヶ月が過ぎてしまった今宵、
私はシーツに埋もれ、瀬川友樹のことを考える。
好きな人と花火を見に行ったことのない私だから、
妄想だけは無限に膨らみ続けた……

＊＊＊

僕は上から花火を見下ろす。

夏になると毎年花火を見に行く相手を探すように恋をした。
第二外国語の講義でいつも前に座る彼女の髪から、
シャンプーのいい香りがした。
僕はシャンプーの香りに誘われたかのように、
彼女が気になり始めた。
でも、彼女の顔はちゃんと見たことがないし、
名前も学年も学科も何もかも知らない。
彼女は少し鈍臭い一面があり、
毎回決まって消しゴムを落としてしまう。
僕はその度拾うか迷うのだが、
そうこうしてるうちに彼女が自分で拾ってしまう。
でも、明日の講義こそは…

そう思いながら夜の町を散歩してると、
あるアパートの一室からあのシャンプーの香りが。
僕の妄想が掻き立つ。
多分、あのシャワーの音が響く窓の向こうで。
僕は大きく深呼吸して、
シャンプーの香りに明日の自分を奮い立たせた。

つづく…

＊＊＊

こんな風に、
私は彼を主人公に夜な夜な妄想日記を書くのだ。
妄想の中で彼はもう私に夢中というのに……

妄想はいとをかし。

現実逃避しているわけではない。
報われない恋がため息で消える前に、
日記に残して浄化しているのだ。

私はふと我に帰り、
恥がわしい日記を全力で消しゴムで掻き消した。
妄想隠滅だ。
こんな妄想が現実を台無しにするのだ。
私は部屋の窓を全開し、大きなため息をした。
窓の外には、彼はいない。
私の髪は夜風に吹かれ、
シャンプーの香りは夜空に溶けて消え去った。
ヘッドホンをつけて、
シーツに埋もれてaikoの花火を聴く。
あぁ、私はいつまで夏の星座にぶら下がって上から花火を見下ろすんだろうか。
妄想花火は、今宵も幕を閉じない。

翌日、私は今日もあの席に座る。
後ろで結ったヘアゴムを解き髪をなびかせ、
カバンから筆箱とノートを取り出し、
筆箱から消しゴムを、
消しゴム、
あれ？消しゴムが、
ない！！
しまった、昨晩の妄想隠滅の際、、
机に置いたまま忘れてしまった、、、

私の脳みそが思考停止する。
私の心臓のBPMが190になる。
代わりに鉛筆落とそかな、
いや、鉛筆落とす練習はしてないし、
どうしよ、
あと1週間で花火大会やのに、
どしよ、

「消しゴムないんですか？」

心臓が止まった、気がした。
後ろから神のささやき、いや、
王子のささやき。
落ち着け私、
振り返ってシャンプーの香りを解き放て。
そうこう考えているうちに、
私の席に綺麗な清潔感溢れる角のとがった消しゴムが置かれた。

「よかったら使ってください」

私は、
「こんなに綺麗な消しゴム使っていいんですか！？」
と言うのを理由に勢い良く振り返った。
でも、そこに座っていたのは瀬川友樹ではなかった。

この物語の結論から言おう。
あの日を境に、私の恋は終わったのだ。
あの日を境に、瀬川友樹は姿を消したのだ。

誰もがハッピーエンドだと思ったであろう。

しかし、妄想はいとをかし。

あの日を境に、私は妄想日記を辞めた。
夏の星座にぶら下がって上から見下ろした花火が美しいのは、妄想世界とaikoの花火だけだった。
そもそもぶら下がって花火なんか集中できへんし。

妄想は退屈な日常を豊かにしてくれるが、
時としてあなたの恋を掻き消してしまう。
だから精一杯、今を恋して欲しいのだ。

それにしても今夜の町は慌ただしい。
8月1日、町内の花火大会だ。
シーツに埋もれ、耳を塞ぐ。
現実逃避をし過ぎたせいか、今宵はやけに眠たい。

部屋の外では人々が大声で
「たーまや〜！たーまや〜！」
と楽しそうに叫んでいる。
腹の底から腹立った私は部屋の窓を全開し、
「眠たい夜に花火かよ！！」と叫んだ。

人々の過ぎ去った静かな町並みで、
あの人がひとり、私の方を振り返った。

今回の妄想依頼者さん：aiko大好きさん
妄想依頼：8月1日に大学近くの港で花火大会があります。
私はその花火大会に誘いたい男子がいるんですが、
その男子は私の顔も名前も知りません。
誘いたいけど誘えない。
付き合いたいけど近づけない状況です。
ましてや大学もオンライン授業になって会うことすらできなくなりました。。
そんな私にエールをお願いします。

aiko大好きさん
妄想依頼ありがとうございました。

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最後まで読んでくださりありがとうございました。

それではまた明日✋
妄想日記でした。