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時間をつなぐ会話

介護施設。
 
新人と教育係。
 
「今日から現場です。
 大丈夫?」
「だい…
 緊張きんちょうしてます」
 
「そんなにかたくならないで。
 相手も人間なんだから
「でも、知らない世代の人と、
 あんまり話したことがないので、
 何を話せばいいのか…」
 
「何でもいいのよ…話題なんて」
「それが分からないんです。
 相手に何を話せばいいのか
 自分が何を話したいのかが、
 分からないんです」
 
「何だっていいのよ。
 今日の天気だって」
「それはすぐ終わりますよね?」
 
「そこから話をつなのよ」
「どこに繋ぐのかが分かりません」
 
「そうかあ。
 まず最初は、質問してみようか?」
「質問ですか?」
 
「まず名前を名乗って、
 相手のお名前聞いて、
 好きな食べ物とか?」
「1分ちませんよね?」
 
「そこはその食べ物から、
 話を繋ぐしかないかな?」
「どこに繋がりますか?!」
 
自分の好きなものとか、
 それが有名なお店とか?」
「私は食に興味がないし、
 外食しないので、
 お店全然知りません」
 
「じゃあ、
 趣味とか聞いてみたら?」
「私みたいに無趣味だったら、
 どうすればいいか分かりません」
 
「そうか~。
 それなら、やってみたいこととか?」
「あの年齢であるのでしょうか…」
 
「たまにいるわよ。
 旅行に行きたいとか…」
「県外にすら出たことない私が、
 盛り上げられるでしょうか?」
 
「まあシミュレーションは、
 これくらいにして、
 実際、私がやってみせるから、
 まずは見てて。
 大事なのは…
 自分と相手の時間を繋ぐこと
「時間を繋ぐ?…」
 
「佐藤さん、
 おはようございます!」
「おはよう、みきちゃん」
 
「こちらは今日から入った、
 あかりちゃん」
「よ、よろしくお願いします」
 
「あら可愛い~。
 私は佐藤リカコよ。
 よろしくねえ~。
 あかりちゃん、おいくつ?」
「に、22歳です」
 
「若いわ~。
 みきちゃんはいくつだっけ?」
「佐藤さん、
 レディーに年齢聞いちゃダメ♪」
 
「みきちゃん、レディーだったわね~」
「そうですよ。
 佐藤さんは、何してたの?」
「そこの高橋さんが、
 新聞を貸してくれたから、
 読んでたわよ~」
 
「何か面白いニュースありました?」
「面白いニュースなんてないわよ~。
 経済なんて嫌なニュースばっかり。
 増税増税って、うんざり」
 
「景気のいい話は聞きませんよね。
 でも、佐藤さんて…
 1ドル360円の時代の人でしょ?
 どうやって生活してたの?
 今は150円でみんな大騒おおさわぎだよ」
 
「ほんとよね!
 私も働いてたけど海外なんて、
 行けなかったんだから~!
 
 夢のまた夢よ~!
 
 私なんか外国人見たくて、
 わざわざ東京まで、
 電車で行ったんだから~!
 そしたらねえ……
 ………
 ………」
 
………。
 
「どうだった?」
「ありがとうございます。
 時間を繋ぐの意味…分かりました」
 
「世代が違っても、
 話せることってたくさんあるの。
 
 今あって昔ないのなら、
 なかった時はどうでした?
 
 今なくて昔はあったなら、
 それはどんなものでした?
 
 そうやって…
 世代を超えて対話するの
「ちょっと…不安がやわらぎました。
 みなさんに挨拶あいさつしに、
 行ってこようと思います」
 
「いってらっしゃい!」
 
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

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