ふたしき

物書き。 掌編小説などの習作を投稿しています。 (2020/11/18 12:53:…

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物書き。 掌編小説などの習作を投稿しています。 (2020/11/18 12:53:02〜)

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  • ふたしきの小説

    「ものかき筋トレ」作品たちです。 どうぞ読んでやってくださいませませ。 (ㅅ˙³˙)オネガイダカラサ

  • わて記

    わてによる、わてのためのわて語り。 あえてマガジン化するほどでもないあれやこれを、それでも敢えてマガジンにしようじゃないか。 そんな感じです。

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短編小説『ある夏の記』

 ある夏の昼下がりに、私は母の実家を訪れていた。一昨年に祖母が亡くなったことで無人となった家の、家財などの整理にやってきたのだった。  遺品の整理もひと段落ついたので、私は休憩をとることにした。縁側に座り、用意したコップ一杯のぬるい麦茶を一気に飲み干す。こめかみに浮かんだ汗が頬を伝い、顎先で止まって、音もなく私のもとを去っていく。紺のスカートが黒くにじんだ。  家は山奥にあるので、町中に比べれば暑さはいくらかマシなのだろうが、やはり暑いものは暑い。  高すぎる気温のせいか蝉は

    • 人を嫌わず、己を見捨てず。 日々の積み重ね、夢のもつ力を信じて。

      • 掌編小説『仮にそれを原初と呼ぶなら』

         それは風に乗る蒲公英の綿毛のように、ふわりふわりと舞い降りて、無色の世界に私を宿した。  目の前を覆っていた霧が形や色を成して、遥か遠い現世を模る。  気がつけば私は、草原に膝をついた状態で前方をぼんやりと見ていた。  柔らかな草が腿をなでる。くすぐったい。立ちあがりながら自分の体を見やると、なにも身に着けていないことがわかった。  深呼吸をする。青い匂い。風が最後の仕上げとばかりに、生まれたての私の体を隅々まで拭きあげていく。 「やあ、いらっしゃい」  声に驚いた私が振

        • 立てようじゃないか「一年の計」

          さてさてさてさて、元日である。みなさんどうも、ふたしきです。 そんな書き出しで去年の元旦も随筆を投稿したのですが、一年って早いものですね。ほんとに。 私をご存知の方、いつもありがとうございます。知らねえよという方は、これもなにかのご縁なので、拙作をお読み頂ければ嬉しい限りです。 そんなこんなで新年最初の投稿となります今回は、例によって昨年の振り返りと今年の抱負を綴りたいと思います。 「一年の計は元旦にあり」と言います。 今年もしっかり創作活動に打ち込むために、耳が痛かろう

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        短編小説『ある夏の記』

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        記事

          掌編小説『悔恨の靄』

           私が異変に気付いたのは、夫の死体を運んでいるときだった。  月のない良い夜だった。  あたりは暗く、首から提げたペンダント式のライトが無ければ、まともに歩くこともできなかっただろう。十二月の夜気はどこまでも鋭く砥がれていて、夫の足首を掴む両手の感覚はとうに失われていた。  死体を引きずる私の進路上に現れたのは、青白く光る靄だった。ライトの光が届かない距離にもかかわらず、靄は神秘的な光を纏っていた。ちょうど人ひとりがすっぽりと収まるくらいの大きさだった。  私はしばらく見と

          掌編小説『悔恨の靄』

          掌編小説『ただよりこわいものはなし』

           ある日のことだ。  私はいつものように、広場の片隅に屋台を設置した。人の姿はまばらで、それぞれが思い思いに休日の昼下がりを楽しんでいる。  私が商品を陳列していると、高級そうな衣服を身にまとった、恰幅の良い男がやってきた。後ろをついて歩く使用人と思わしき青年は、気づかわし気に主人の額に浮かぶ汗をぬぐっている。  その日初めてのお客とあって、私は張り切って接客に臨んだ。 「ようこそいらっしゃいました! さて、どれになさいますか? おすすめはこちらの商品になります。見てくれは決

          掌編小説『ただよりこわいものはなし』

          短編小説『アンタレスの涙』

          「ほら、飲んで」  朦朧とする意識の中、黒塊は声の主をたしかめた。砂埃に煙る視界の中には小さな影。  傍に跪く少女が、両手を黒塊に差し出す。手のひらで象る椀の中には水があった。水は先ほど、奴隷商人の男が商品どもに注いで回ったものだ。商人と奴隷の列は数刻ごとに休息をとりながら、オアシスに栄える街を目指していた。ひとり、またひとりと干涸びていく中、これ以上の〈欠品〉は儲けに関わると判断した奴隷商は、貴重な飲み水を商品どもにくれてやることにしたのだった。  黒塊は凶兆となるはずの禍

          短編小説『アンタレスの涙』

          【随筆】今までとこれからのこと

          さてさてさてさて、元日である。みなさんどうも、ふたしきです。 新年最初の投稿となります今回、それ相応のものにしようと考えた結果、昨年の振り返りと今年の抱負を綴ることにいたしました。 「一年の計は元旦にあり」ってやつですね。 今年の干支は『寅』なわけですが、創作においても【猛虎伏草】な一年として、来るべき時のために努力を重ねて参りたいと思います。 2021年の創作活動を振り返る 2021年はなにかと落ち着かない一年でありました。(主に私生活において) 創作に関しては反省点

          【随筆】今までとこれからのこと

          掌編小説(23)『死活問題』

          「ごめん。俺、好きな人いるから」 「そうなんだ……じゃあ、仕方ない……よね」 「それに、君とは合わないと思うんだ。その——世界観が」 「なにそれ……」  唖然とした表情の女子。これ以上かける言葉もないと思って、無言で立ち去った。なるべく早く、その場から離れたかったから。  世界観が合わないというのは、別に言い訳のための抽象的表現というわけではない。  幼い頃から何故か、俺には世界が歪んで見えた。  他人の存在が世界に干渉する。ここでいう世界とは、〈俺が見て感じることのできる

          掌編小説(23)『死活問題』

          掌編小説(22)『雨が止まないなら』

           傘をひらけばいつも雨。  それも土砂降り。  傘をさそうがささまいが、どのみちびしょ濡れ。  だから僕は傘を使わない。  雨が降るなら降ればいい。たとえそれが止まない雨だとしても。 「あんたまたずぶ濡れじゃないの! 傘を使いなさいって言ってるじゃない!」  お母さんが喚く。 「仕方ないよ。傘の中も雨なんだから」 「そんなわけないでしょ! いい加減うそはやめなさい!」  僕はぐしょぐしょになったシャツや制服を洗濯カゴに乱暴に投げ入れて、しばらく止みそうにない母の諫言から逃げ

          掌編小説(22)『雨が止まないなら』

          短編小説(1)『ホロウェイ(後編)』

          「それにしても、随分と遅い到着じゃないか。ウーフィ」  燭台公は腰に手をあて、宿題を忘れた生徒を咎める教師のように狼を見下す。骸骨少年は恐る恐る、目の前の燭台頭に声をかけた。 「あの、あなたが燭台公ですか? ぼく、風船みたいな女の人にあなたに会うように言われて。ぼく、道に——」  「なんだって? 君が少年を連れてきたわけじゃないのか」 「道に迷ったんです。ここに来れば……貴方に会えばどうすればいいか教えてくれるって」 「見つけ出せなかった? 道先案内狼ともあろうものが? 冗談

          短編小説(1)『ホロウェイ(後編)』

          短編小説(1)『ホロウェイ(前編)』

           幼き骸骨少年は物憂げにため息をついた。  身にまとうのは布切れひとつ。頭上に広がる曇り空のように、煤けたボロ切れただひとつ。  今はひとり、沼のほとり。切り株に腰掛けている。  沼を満たすのは錆色の泥水。聞こえるのは、ときおり水面に浮き出た空気がたてる、ぼこぼこという音だけ。沼をぐるりと取り囲む立ち枯れた木々も今は、耳を澄まし、口をつぐんでいる。  骸骨少年が沼にたどり着いてから、すでに一昼夜が過ぎていた。そのあいだに、風通しの良いはずの胸の内は、暗澹たる思いで隙間なく塗り

          短編小説(1)『ホロウェイ(前編)』

          掌編小説(21)『クロミミとウォルナット』

           風に吹かれた人形が、カタカタ音を立てました。  パカっと開いた頭の蓋が、風の力で開いたり閉じたりを繰り返します。  露天で売りに出されていた頃は、大きな飴を頭に入れられていましたが今は空っぽ。飴を失った人形は用無しとばかりに、道端に投げ捨てられてしまったのです。たまたまそこに生えていた、大きな胡桃の木の下に。  偶然とは不思議なものです。それに、不思議であるからこそ偶然といえます。  言い方を変えましょう。  不思議なことが起こるためには偶然が必要なのです。  秋のはじ

          掌編小説(21)『クロミミとウォルナット』

          掌編小説(20)『選択する時間』

          「お待ちのお客様、こちらにどうぞー」  大学生くらいだろうか。明るい髪の色をしたスタッフの女の子が、こちらに向かって手をあげる。私は促されるままにカウンターへと歩み寄った。 「こちらからお選びください」  彼女が二つ折りのメニューを広げる。最上段にはカラフルなドリンクの写真。限定商品らしい。その下には見慣れない単語がずらりと並んでいる。  じっくり確認して、それらがサイズやトッピングというくくりで記載されていることを理解した。理解はしたが、肝心のその内容が実にバラエティに富ん

          掌編小説(20)『選択する時間』

          掌編小説(19)『風前の灯』

           気持ちよく昼寝していた私を誰かが揺り起した。  夢の中でもちょうど誰かに呼び止められたところだったので、目が覚めたあと、現で私の肩をゆする呼び声の主が風の便りとわかるまで、少々の時間を有した。 「最近、妻の夢見が悪いようなんだ。見てやってくれないか」  澄み切った森の空気に似つかわしくない曇り顔をして、風の便りは私の手を引いた。  よほど気が急いているのか、風の便りは起き抜けの寝巻き姿のままだ。ズボンの裾は濡れ、枯れ葉や土で汚れている。洗濯する者の身にもなれよと嫌味を言おう

          掌編小説(19)『風前の灯』

          掌編小説(18)『根は腐らせぬよう』

           深い深い森の奥。拓けた土地の中に、まばらに点在する人々の姿があった。人々は身じろぎもせず、朝日を一身に浴びている。遠目には、服を着た枯れ木のようにも見える。  老若男女問わず、実に様々な人種が地に根を張っている。木こり、農夫、羊飼い、はては司祭にいたるまで。およそ数百ほどの人間は、薄くあけた眼で空を見つめている。  憂いにまつろう人々は、その根が乾くまでここを去ることはできない。  何日かぶりに増えた人間を見て、守り人は静かにため息をついた。   新入りを見分けることはさ

          掌編小説(18)『根は腐らせぬよう』