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世界中の漁業の『未来』を担う、次世代 ”スマートブリッジ”とは何だ?!

現在、世界各地の漁業は大きな問題を抱えています。
漁獲数の減少。IUU漁業(違法・無報告・無規制な漁業)の問題。また日本国内では人手不足や高齢化といった人的問題もあります。
これらの問題はスーパーに並ぶお魚のお値段が高くなったり、将来食べられなくなるお寿司のネタが出てくるかも・・・などと、私たちの生活にも大きく影響します。

そんな中、漁業の形が大きく変わるのではないか?と国内外で注目を集めているシステムがあります。それは次世代統合漁労システム、Integrated Fishing Systemの頭文字をとってIFSと言われています。

その中で現在、欧州のフルノグループを中心として積極的に取り組んでいるシステムが様々なシーンに合わせて自在にカスタマイズできる、見やすさ、操作性を兼ね備えたブリッジシステムです。
そのシステムは”スマートブリッジ”と呼ばれ、次世代漁業の要となることが期待されています。

まるでSF映画の宇宙船?と錯覚するような漁船のブリッジが誕生しています

従来の漁船とは何が違うのか?

従来の大型漁船では航海用から漁労用に至る様々な電子機器やシステムが数十台ブリッジに装備され、運航や魚群探索、操業など様々なシーンに合わせて、漁労長や航海士がそれぞれの機器を見て判断しています。
例えば航海中はレーダーやプロッタ(ナビゲーション機器)を見て安全航海に務め、魚群探索時は漁労用レーダーやソナーを駆使。
実際に漁をするときは魚群探知機を用いてターゲットの動きを見たり、潮流計などで網がどのように広がるかを確認しながら操業します。

従来は魚探には魚探専用の画面、潮流計には潮流計専用の画面と機器ごとに固有のモニターが配置されている

これらに対してスマートブリッジは様々な機器をネットワークで繋ぎ、漁船操業における様々なシーンに合わせて、その時必要な情報にすぐにアクセスできることを目的に開発がスタートしました。

スマートブリッジでは状況に合わせて必要な機器の映像が画面に表示される

大画面のモニタにすることでシーンに必要な情報を一斉に表示したり、マルチ画面で映像を比較したりと自在にカスタマイズできるように設計されています。しかし、当初は市場の反応も冷ややかなものだったそうで、現状の操業方法を変えようという動きは起こりませんでした。

一歩先のニーズを的確に捉えた12年越しのビック・プロジェクト

最初にこのシステムに取り組んだのはフルノノルウェー。漁業大国として世界的に有名なノルウェーですが、それでも提案から市場投入まで約12年もの歳月を要したのだとか。
しかしフルノノルウェーの社長トロンさんは「必要なシーンで必要な情報にすぐアクセスできる環境が求められるようになる。これを実現できるブリッジシステムが求められるはずだ」とスマートブリッジに大きな可能性を感じ、開発を推進。
ユーザーへの聞き取りや試験評価を繰り返し、昨今のIT化推進の流れも後押しとなり、当初見向きもされなかった市場にも徐々に理解を得始めたのだそう。
そして12年が経過した今では"ブルーブリッジ"の名称で大型漁船で高い評価をいただくとともに、消防艇や旅客フェリーなど漁船以外からの引き合いも多く、幅広い市場でのニュースタンダードとなりつつあるようです。

スマートブリッジが導入された大型漁船、ブリッジが大きく周囲を見渡せるようになっている
左 フルノ・ノルウェー社長のトロン氏

国ごとに合わせて広がっていく"スマートブリッジ"
成功の鍵はユーザーとの密接なコミュニケーション

IFSの強みのひとつが自在に表示方法をカスタマイズできること。
そのため、国が変わって魚種や漁法、ユーザーの特性などが変わったとしても対応することができます。ノルウェーでの取り組みをベースに新たな展開をしているのがイギリスとスウェーデンでの取り組みです。

イギリスでもブルーブリッジの仕組みを活用して、独自顧客の求めるシステムを新たに展開。操作性を最大限考慮したいというニーズに合わせて大型画面が壁のように並んだ"ビデオウォールシステム"を導入しています。
さらにトラックボールとタッチスクリーンモニタを活用することで、シンプルな操作性とフレキシブルなモニタリングを併せ持つシステムを推進したのだそう。

大型画面が整然と並べられたビデオウォールシステム、迫力があります

「遠洋のトロール船で圧倒的なシェアを獲得しました。今後のトレンドになることが大いに期待できるシステムで非常にワクワクしている」とフルノUK・社長のブルースさんは楽しげに語ってくれました。

イギリスの遠洋トロール船

またフルノスウェーデンでは造船所が新造船プロジェクトを推進したことをきっかけにスマートブリッジの開発に本格的に着手。
船長・オーナーの要望を一つ一つ確認し、顧客密着型の取り組みで得たアイデアや改善ポイントをシステムに反映させました。
船内ではタブレットやスマホを使ってシステムをモニタリングすることもできるようになりました。
さらにオンライン通信を活用して、フルノ・スウェーデンのエンジニアがシステムへリモートアクセスし修理することも可能。操業中の問題はその場で解決!という理想が実現しました。

二人三脚で作り上げたシステムにキャプテンも満足いただいたのだそう
タブレットを用いることで場所を選ばないより自由なシステムとなっている

こうして組み上がったシステムは他の漁船のニーズにも通じるところも多く、現在では40システムがスウェーデンでの実操業で活躍しているのだそう。
社長のスティーンさんは「統合漁労システムは今後大型漁船のスタンダードな装備になっていくことは間違いない。その中で"スマートブリッジ"がグローバルスタンダードになることが私の夢です。」と教えてくれました。

漁業の未来のため、より見やすく使いやすいシステムへ

欧州で進んでいるスマートブリッジは単に表示方法を自在にカスタマイズできるということだけでなく、これからの漁業を支える重要なコンセプトが盛り込まれています。
それは「効率操業」というコンセプト。この効率操業には資源管理を考えたサステイナブルな漁業につながる仕組みが想定されています。

スマートブリッジはこれから世界中のスタンダートとなるかもしれません

これまでフルノは魚探やソナー、レーダーといった"見えないものを見る"ための機器を作り続けてきました。今後の漁業の変化を考えても、これら所謂センサー類のさらなる改良・高度化は必要です。

さらにそれらのセンサーから集めたデータを集約し、なにかしらの形として通知する。つまり、ソナーやレーダーなどの機器の画面が複合して表示されるだけでなく、これらのデータを分析して、ユーザーにとって有益な情報を提供できるシステムを目指しています。

この"有益"という言葉には漁獲高のアップや業務効率化、そして環境への配慮が両立したものであってほしいという願いもあります。
例えばソナーに出てきた魚群反応に対して、様々な情報を組み合わせて分析し、魚種や大きさなどを判定し、時期や漁獲制限と照らし合わせた上で"この魚群は獲るべき魚群かどうか"を教えてくれる。
IFSの進化によってそんな日が来るかもしれません。

スマートブリッジを元に水産資源や人材不足などの課題を解決の方向に導き、次世代統合漁労システムを推進、ひいてはより一層のサステイナブルな漁業を世界中に広げていく。
それが海に育ててもらったフルノという企業ができる恩返しだと考えています。

フルノ本社展示ブースにもサンプルを展示

取材・執筆 王 微
執筆・編集 高津こうづ みなと

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