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聖地巡読

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小説の舞台となった地でその小説を読むのが好きです。
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伊豆の踊り子

伊豆の踊り子

一昨年の夏に伊豆に滞在していた際、BARで地元の女子大生と知り合った。2つ年上の煙草をよく吸う彼女は、ダンスサークルに所属していると言った。
「伊豆の踊り子やん」と思った。
ひとしきり話が盛り上がり、意を決して地元の花火大会に誘ってみると快く承諾してくれた。

花火大会当日、待ち合わせ場所に現れた彼女は薄紫色の浴衣がよく似合っていた。
射的をしたり、2人で生暖かい伸び切った焼きそばを食べて話をした

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1人夜のピクニック

1人夜のピクニック

誕生日を目前に控えた20歳の12月、夜のピクニックを読んだ。高校3年生の最後に、夜通し約80キロの道のりを歩く歩行祭というイベント。

歩行祭を通して今まで話したことのなかった人たちと話し、新しい出会いを得て成長していく青春真っ直中の高校生たちの人間関係が描かれていて、読了後居てもたってもいられなくなった僕は、20歳の最後に物語の舞台である水戸を1人で80キロ歩こうと思った。

この歩行祭というイ

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僕は放送作家

僕は放送作家

高校を卒業して故郷の宮古島を離れ、吉本の養成所に入るため上阪した頃、眠れない夜が続いていた。
中学高校と作り続けていたネタも書けなくなり、何をしていても罪悪感が付き纏う憂鬱な毎日だった。
唯一本だけは、あらゆる雑念を一時的に忘れさせてくれる精神安定剤だった。

そんな時、装丁とタイトルに惹かれて図書館で借りた「お父さんはユーチューバー」を読んだ。

宮古島でゲストハウスを営む主人公の父・勇吾は様々

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阪急電車

阪急電車

電車の中で本を読んでいる人を見かけると、運命共同体めいたものを感じる。

それがたとえ「俺はこんな難解で分厚い本を目的の駅に到着する片手間に読んでいるんだぞ」とブックカバーもつけずに大袈裟にページをめくる音を響かせている人であろうと。

この感情はおそらく「エモい」という言葉に分類されるのだろう。

エモいという人間の本来持つ何とも言えない情緒的な心の揺れ動きを、簡潔で端的に表現してしまうそれこそ

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夜行バスの朝

夜行バスの朝

東京から岩手に向かう暗く静まり返った夜行バスの中で、窓の外からわずかに漏れる街灯の灯りを頼りに「銀河鉄道の夜」を読んだ。

貧しく孤独な少年ジョバンニが、友人カムパネルラと銀河鉄道に乗って旅をする物語で、生涯を通して岩手に留まり創作を続けた宮沢賢治は、今もなお多くの岩手県人に愛されている。
物語もクライマックスに近づき、ページをめくる手が止まらない怒涛の展開に興奮していた時、隣で眠っていた50代く

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苦しい時は、旅に出よう。

苦しい時は、旅に出よう。

「ね、なぜ旅に出るの?」「苦しいからさ」
この一文から始まる「津軽」を読んだ時、救われたと思った。高校生の頃から漠然と20歳の終わりまでに47都道府県全て行ってみたいと思っていた。僕は沖縄の小さな島で育ったし、引きこもって学校に行かない時期が長かったので、外の世界に対して人一倍強い憧れがあった。
高校を卒業して吉本の養成所に入った時は丁度コロナの真っ盛りでどこにも行けなかった。

それから20歳が

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太宰の命日にインスタグラムを始めた。

太宰の命日にインスタグラムを始めた。

太宰治の命日にインスタグラムを始めた。
僕のような自意識とプライドにがんじがらめにされた人間は、インスタグラムから1番遠い存在だと思っていた。

スマートフォンを持つのが大人になった証明の様で恥ずかしくて、二十歳になるまでガラケーを使っていたし(現21歳)LINEを始めたはいいものの、アイコンを設定すると「こいつ、この写真をアイコンにするためにわざわざ設定から写真を選択するボタン押してちょっと加工

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