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伊豆の踊り子

一昨年の夏に伊豆に滞在していた際、BARで地元の女子大生と知り合った。2つ年上の煙草をよく吸う彼女は、ダンスサークルに所属していると言った。
「伊豆の踊り子やん」と思った。
ひとしきり話が盛り上がり、意を決して地元の花火大会に誘ってみると快く承諾してくれた。

花火大会当日、待ち合わせ場所に現れた彼女は薄紫色の浴衣がよく似合っていた。
射的をしたり、2人で生暖かい伸び切った焼きそばを食べて話をした。

花火が打ち上げられる時刻が近づき、川沿いを歩いていると、向かい側から彼女と話をしたBARのマスターが歩いてきた。

やはり地方だとすぐに知り合いに遭遇するものだと思い挨拶を交わそうとすると、隣にいた彼女が「ごめん…花火は彼氏と観る」と消え入りそうな声で言った。
BARのマスターに視線を移すと、苦笑いを浮かべ軽く僕に会釈した。
彼女と同じ煙草を吸っていた。なぜ最初に気づかなかったのだろう。
彼女は「ここもう少し歩いたら花火が綺麗に見れるところあるから!」と言い残し彼氏と共に祭りの喧騒の中へ消えていった。
掌で踊らされていた。

伊豆の踊り子は僕の方だった。
そのまま踵を返し、俯いたまま会場を後にした。背後から花火が打ち上がる音が、鬱陶しく鳴り響いていた。

あらすじ
孤独や憂鬱な気分から逃れるため伊豆へ一人旅に出た青年が、修善寺、湯ヶ島、天城峠を越え湯ヶ野、下田に向かう旅芸人一座と道連れとなり、踊子の少女に淡い恋心を抱く旅情と哀歓の物語。

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