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ジャガーのゲノムに刻まれた、雑種形成と機能獲得の歴史

私が非公式の卒業論文にて取り上げた、幼生転移仮説の提唱者であるウィリアムソン博士は、生前、哺乳類の幼生転移に関して、純粋な思いつきとして、このようなことを述べていた。


もし子猫が犬や猫で同じように発現したら?もしアラブ馬が子豚から成長して出来たらどうか?モーガン馬がポニーのような小型で生まれたら?未成熟な発生段階が成体と区別できる、と私達は仮説を立てられないだろうか?


私がこの後で、以下の説明文を加えている。


最初の例では、犬と猫は別々に子猫の発生段階を獲得しており、第二の例ではアラビア馬の中で子豚の発生段階を獲得したものが出現し、一方で仔牛の発生段階を獲得した馬も出現したが、モーガン馬はどの未成熟な発生段階も獲得しなかった、ということだ。



上記のような目覚ましい雑種形成の報告については現在も見つけられていないが、哺乳類のネコ科ヒョウ属のヒョウPanthera pardusのゲノム解析およびライオン・トラ・ヒョウ・ユキヒョウとの比較を行ったところ、別種の集団への移入および雑種形成が祖先間で行われていることが示唆された。2017年に国際的な研究チームがSCIENCE ADVANCES誌に発表された。以下に、本論文で雑種形成について得られた知見を、列挙したい。


・ライオンの祖先が北極圏で別種と混ざって生息しており、いくつかの同属の種と交雑があったのではないか。具体的にはユキヒョウとライオン・ヒョウの祖先間で雑種形成が起こったのではないか。

・このような移入や雑種形成によって、形態・身長・脳機能・発生・色素・感覚に関連する遺伝子で正の選択が働いたのかもしれない。

・ジャガーの頭部・四肢、ヒョウの低酸素適応、トラの生殖・色素形成、5種のネコ科の中の1種以上で視覚・嗅覚・代謝の適応が、この正の選択であったのかもしれない。

・ジャガーのESRP1およびSSTR4で正の選択が特に強かった。これは、更新世で大型哺乳類が絶滅し、これらを餌にできなくなった代わりに、カイマンや亀など装甲のある爬虫類を食べる方向に適応したことと関係があるのではないか。

・また、ジャガーの3種類の遺伝子の正の選択は特筆すべきである。PPFIA2(Lipin-alpha-2)はシナプス形成に重要で、ヒトの重度の近視に関わる遺伝子である。DOCK3は軸索の生長と視神経の再生に関与し、COL4A5はアルポート症候群(腎臓・耳・眼の基底膜の異常により機能に支障を来す)に関与している。DOCK3およびCOL4A5のいずれも、網膜の神経節の軸索が中脳の視蓋に誘導されるのに必須である。


今回の報告から、ジャガーの視覚の発達は、ネコ科の異種間での雑種形成によってもたらされたのかもしれない。今回の報告は、参考文献にあげる、オンライン記事より初めて知った。この記事もホッキョクグマとグリズリーの雑種に始まり、蝶やサンショウウオなど多岐にわたるが、雑種形成に関して、生物進化との関わりのみならず、環境問題にも触れている。同じ哺乳類といえば、私達ヒトも例外ではなく、クロマニヨン人とネアンデルタール人との雑種形成があったことが、今世紀では示唆されている。ウィリアムソン博士の思いつきは、決して単なる思いつきではないのだと確信している。


使用文献

Genome-wide signatures of complex introgression and adaptive evolution in the big cats Henrique V. Figueiró他著 SCIENTIFIC ADVANCES 19 July 2017


参考文献

Interspecies Hybrids Play a Vital Role in Evolution Jordana Cepelewicz著 QUANTAMAGAZINE August 24, 2017

https://www.quantamagazine.org/interspecies-hybrids-play-a-vital-role-in-evolution-20170824/


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