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大量に読んだ中でよかった本(小説編)

前回に引き続き、大量に本を読んだ中でよかった本をご紹介。今回は小説編です。


第3位 川上未映子『夏物語』

読んでみた動機や読後の気持ちについては、エッセイの第2位とだいたい同じなので割愛。

川上未映子の小説で読んだのはこれが1作目。この文体、イケる!と思ったから小説も2冊、3冊と読み進めることができたと思う。比喩表現がそこかしこに、これでもかと、散りばめられていて、どんな風に毎日物事を見たらこんなに比喩がでてくるんじゃい!とついツッコミたくなってしまう(いい意味で)。その他作家の小説もこの期間にわりかし読んだけど、ここまで独自の比喩満載のは他になかった気が。見たことない比喩なのに、なぜかその感覚がわかるのがほんますごい。比喩の凄さで第3位みたいなところあります。


第2位 窪美澄『晴天の迷いクジラ」

読んでいてしんどくなるような小説が好きなのかもしれない。この小説の解説では、窪美澄の小説は絶望を抱える人が希望を見出すのだ、というか希望を見出すために絶望を書いてるんだ、みたいなことを書いていた気がする。わたしは小説の中で、他者の計り知れない苦悩を知りたいと思うし、願わくばそれが文章の中で最後に希望に照らされてほしいと思う。


苦悩を知りたいのは、自分の思考の中だけでは想像し得ない他者の心のうちを知り、現実世界で他者に寄り添いたいから。そして同時に、自身の苦悩にさえ無自覚な自分が、他人の事例を知ることで、自分の中のぼんやりとしていたネガティブな感情を、もう少しはっきりと認識できるようになりたいからだ。この絶望、わたしの中にあるかもしれない、と。そしてそれを、そうやって解決するという手があるのか、と。


本書では3人の人間がそれぞれの理由で人生に絶望していて、その様がありありと細かく描かれている。そんな3人が、ある湾に迷い込んだクジラを見にいくこととなり、そこでそれぞれの人間はそれぞれに人生を続けることを決める。わたしも過去には、生きていたくないと思ったこともあるので、その地点から人生を続けていくことを選ぶことの困難さも、そう決意するにに至る過程が他人から見れば曖昧であること(あるいは本人にとっても曖昧かも)がわかるような気がした。



第1位 ミン・ジン・リー『パチンコ』

在日コリアンのことを、なんにもわかってなかったんだと自覚した一冊(上下巻なので二冊です)。物心ついた時には韓流ブームがあって、弾道ミサイルも飛んでいて、ある地域では在日コリアンへの差別も未だ根強いらしい、という時代にわたしは産まれた。でも、この小説を読むまで、なぜ在日コリアンは祖国を離れ日本にいるのか、なぜ戻らないのか、なぜ戻れないのかは知らなかった。読後は恥じ入るような思いがした。


祖国を失って住み着いた土地で、差別により仕事に就くことができないからパチンコ店を経営するしかなかった。差別が薄れ、社会的地位も高い仕事に就けたと思ったのに、結局は根強い差別により会社から追いやられた。在日3世に至るまで、自身のルーツに絡め取られ、広い世界で自由な仕事を得て生きることを諦めざるを得ず、結局はパチンコを経営する人生となっていく家族の物語。


ハッピーエンドな物語ではない。物語の強さによって、その民族を離散するに至らせたことによる結果をまざまざと見せつけられる。このナラティブを知っていたなら、到底差別などできない。




以上、小説編でした。読んでいて楽しいとか、読後心が温まる、みたいなのはあんまり好みじゃないんだなと思いました。読後考え込んでしまうものの方が好みかもしれない。思えば映画もそういうタイプ。

次回は新書・実用書編を紹介します!

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