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長期経営計画のすすめ Ⅳ 企業戦略_一次長期計画 5. 新規事業戦略を決める

Ⅳ 企業戦略_一次長期計画は、企業戦略の大枠を策定するフェーズになります。今回は新規事業戦略を決めます。より実務的なイメージをもっていただくために、前半はケーススタディを、後半にポイントを記述していきます。


1. ケーススタディ

設定

明智「本日の会議のアジェンダは新規事業戦略です。今回の長期経営計画の中で新規事業を立ち上げていくことを決定しました。新規事業戦略の具体的な内容について前山さんより説明をお願いできますか?」
前山「はい、初めに企業戦略の一次長期計画として決定してきた内容を簡単に振り返ります。まず長期ビジョンは【全ての人がより質の高い医療を受けられる社会の実現】、ミッションは 【輝ける働く場の提供】、企業ドメインは【医療提供施設】、事業ポートフォリオは既存事業である【マッチング事業】と新規事業である【オートメーション事業】と【モニタリング事業】の3事業とし、医療提供施設における各市場と各事業を2軸とする成長マトリクスで成長戦略を推進することを決定しました。よって新規事業となる【オートメーション事業】と【モニタリング事業】の戦略を企業戦略として決定し、新規事業の立ち上げを任せる責任者に指示することになります。」
専務「私自身、これまでの社会人経験の中で新規事業を立ち上げた経験がありません。具体的にどのような内容が戦略の中身になるのですか?」
社長「確かに、私は起業し人材紹介事業を立ち上げてきたが、試行錯誤しながら立ち上げてきたから、立ち上げる前に何かを決めておくという発想は無かったな」
前山「はい、まさに社長、専務の言葉通りで、多くの企業の経営者もそう考えると思います。企業にとって新規事業を立ち上げる機会、特に事業立ち上げに成功した機会自体が少なく、それに実際に取り組んだ人も少ないため、多くの企業で新規事業立ち上げの知見が蓄積されないという結果になっています。
前山「私自身、これまで複数の事業立ち上げを経験してきました。当然、失敗経験も多くあります。その経験を活かして新規事業創造のフレームワークを作成しました。」

新規事業創造フレームワーク

前山「フレームワークの中身は追って新規事業の計画策定のタイミングで説明します。長期経営計画の企業戦略として決めるべき新規事業戦略は、フレームワークのフェーズ1にあたる新規事業の目的と方針となり、ビジョン・ミッションの確認や事業規模、投資金額など決めるべき要素は9つです。」
明智「私も新規事業を立ち上げた経験がありませんが、このように全体像が可視化され、戦略が決められていれば、推進力は高まりそうですね。」
社長「私自身がそうだったように試行錯誤しながら進めるにしても、戦略があった方が取り組むメンバーにとっては安心材料になるだろうね。」
前山「まさにその通りです。そして、この新規事業戦略はこれから取り組む新規事業の結果を元にアップデートしていくことで、わが社のナレッジとし蓄積されていき、新規事業立ち上げの成功確率を高めることに繋がります。」
専務「よく理解できました。次回までに2つの事業の新規事業戦略を考えてきます。」

(この後も、活発な議論が行われ、専務主導の元、新規事業戦略が決定する)


2.新規事業戦略のポイント

新規事業に取り組むキッカケとしては、取引先からの投げかけや既存事業の停滞・業績不振からの脱却など様々ありますが、私は、長期経営計画として長期的に実現したい未来を描き、その時の事業ポートフォリオを明らかにし、そのために必要となる事業を新規事業として立ち上げることをお勧めします。

その時に新規事業戦略として決めるべき内容についてケーススタディでは9つの要素と紹介しましたが、その要素とポイントを詳しく説明します。

1.ビジョンの確認
新規事業に取り組むことになる責任者やメンバーには、新規事業に取り組む目的はビジョンの実現のため、であることを明示し伝えてください。試行錯誤の長期プロジェクトにおいて「何のためにやっているのか?」と思うことは何度も訪れます。その時、目的が明らかであることで、もう少し頑張ろうという力が湧いてきます。

2.ミッションの確認
ミッションは新規事業における提供価値を示すことになります。顧客の問題は多々あり、問題を解決することが価値となるのですが、そこに方針がなければビジョンの実現に繋がりません。ミッションを通じてビジョンを実現することを明示し伝えていきましょう。

3.内部資源の再認識
内部資源とは「価値があり、希少性があり、模倣可能性が低く、代替可能性も低い資源」バーニー(Jay B. Barney)は定義しています。「その内部資源が企業の他者との差別化(異質性)を可能として、それを持続させること(固着性)につながるので、それが持続的な競争優位の源泉となる」とも語っています。ケーススタディに出てくる企業は売上56億円で豊富な経営資源をもっている訳ではありません。しかしながら、これまで24年間も企業として存続してきたということは必ず内部資源があります。経営陣は改めて自社の内部資源が何かを明らかにし、それを新規事業に取り組むメンバーに再認識させることが重要になります。

4.事業規模設定
方針として事業規模、特に売上金額を定めるかどうかについては、新規事業に関わる皆さんの間で議論が分かれますが、私は大企業であれ、中小企業であれ「決める派」です。その理由は「取り組む結果指標の1つとして定量的で分かりやい」ことです。私の経験では新規事業にて初めて売上が立つまでに、企画段階から早くて1年、遅くて3年程度です。この長いプロジェクト期間の中で、「目指すべき売上金額は問わない。」という方針は、ストレスは少ない反面、「早く売上を立てたい!」という意欲が維持されず、うまくいかない状況での踏ん張りが効かないためです。自社の現在の売上規模や立ち上げようとする事業特性を踏まえて事業規模を設定していきます。

5.投資金額設定
設定する投資金額は最大投資金額と試作開発投資金額の2種類です。どんなに素晴らしい新規事業プランが出来たとしても、その新規事業の立ち上げに必要な資金が確保出来なければ、実行することができません。まずは長期経営計画の期間の中で、毎年どこまで投資できるか、全体としての最大投資金額を設定してください。次に新規事業で新たな製品やサービス開発を行う際には試作開発投資金額を設定してください。試作開発投資とは「うまくいくかどうかわからないものに投資するお金」になります。社長や経営陣はそのような特性のあるものにいくらまで投資できるか検討し、金額を設定してください。

6.フェーズとマイルストーン設定
ケーススタディのにて新規事業創造フレームワークを紹介しました。そこでは6段階でフェーズ設定しています。業種ごとに違いはありますので、それぞれフレームワークを改良した上で、各フェーズ終了時にどのような状態を目指すのか、次のフェーズに進む基準としてマイルストーンを設定してください。またマイルストーンは撤退判断にも使います。事前に決めておくことは非常に重要です。

7.推進体制構築
推進体制を作り、役割や責任を明確にすることをお勧めします。プロジェクトオーナー(PO)、プロジェクトマネージャー(PM)、プロジェクトメンバー(メンバー)の3者を決定します。POの役割は、経営資源(投資/人材)の決定や重要度の高い意思決定となり、プロジェクト成功・失敗の責任を負います。PMの役割は、現場レベルでの意思決定であり、プロジェクトの実行責任者を担います。メンバーの役割は、プロジェクトの実務実行者であり、情報や課題を適宜、PMに報告・提案することです。

8.メンバー選任
POは中堅・中小企業であれば社長をPOにすべきです。貴重な経営資源を投下し、前例がなく成功確率が低いプロジェクトであるためです。社長以外に任せる場合は、①ビジョン実現へのコミットの高い人、②PMを信頼し任せることができる人、③社内で影響力のある人が適性です。PMはPOがこれまで接点があり、人となりを知っている人をお勧めします。①新規事業方針の中で自らやりたいことを見出せる人、②自発的に考え行動し判断できる人、③他人を巻き込むことが上手い人、が適性です。メンバーは①新しいことに取り組むことが好きな人、②自発的に考え行動できる人、③コミュニケーション力が高い人が適性です。

9.人事評価設定
これまでの要素とは種類が異なりますが、新規事業に取り組む社員の人事評価をどのようにするか、特別に制度設計するか、既存の制度の中で運用するのかなど、明示することをお勧めします。その理由は評価のサイクルが合わないためです。多くの企業の人事評価は6ヶ月間サイクルで運用されていますが、新規事業は長期間にわたるプロジェクトで「最初の売上を上げた」「単月/単年黒字を達成した」などの明確な定量評価は1年や2年以上先になります。よって、その間に高い評価をもらったり昇進・昇格することが難しく、新規事業に取り組む社員のやる気が低下することになるからです。


以上、9つの要素を紹介しました。それぞれの会社の状況に合わせて不足している、追加した方が良い要素を加え、経営陣はそれらの内容を新規事業戦略として取りまとめ、これから新規事業に取り組む社員へ説明することをお勧めします。この取り組みを行うか、行わないかで、新規事業立ち上げの成功確率が大きく変わります。


今回は以上となります。次回は「Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画 6. M&A戦略を決める 」について書くつもりです。


【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める 
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略 _ 現状分析
1. MVVを振り返る 
2. 事業構成を分析する
3. コア能力を再認識する
4. メガトレンドを調査する
5. 成長市場を調査する
6. 企業会計を分析する
7. 人的資本を分析する
8. 現状分析のまとめ
Column 長期経営計画は企業戦略でつくる

Ⅲ 事業戦略_ 現状分析
1. 事業業績を分析する
2. 内部環境を分析する
3. 外部環境を分析する
4. 現状分析のまとめ
Column 経営計画の先行研究

Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画
1. 長期ビジョンを決める
2. 企業ドメインを決める
3. 事業ポートフォリオを決める
4. 成長戦略を構想する
5. 新規事業戦略を決める  ←今回
6. M&A戦略を決める       ←次回
7. 一次業績計画を策定する
8. 一次投資枠を設定する
9. 一次組織・TOPマネジメントを決定する
10. 全社一次要員計画を策定する
11. 企業戦略を事業戦略に展開する
12. 一次長期計画のまとめ
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅴ 事業戦略 _ 中期計画
1. 企業戦略を理解する
2. ミッション・バリューの見直しを検討する
3. 事業ドメインを決める
4. 目指す製品ポートフォリオを決める
5. 成長戦略を決める
6. 売上計画を精緻化する
7. 要員計画を精緻化する
8. 投資計画を精緻化する
9. 損益計画を精緻化する
10. ロードマップ・KPIを決める
11. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
12. 中期計画のまとめ

Ⅵ 企業戦略 _ 長期経営計画
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
14. 長期経営計画のまとめ
Column 社員がワクワクする長期経営計画
最後に私の著書を紹介させてください。(Kindle Unlimited の対象です。)



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