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長期経営計画のすすめ Ⅲ.事業戦略_現状分析 1. 事業業績を分析する




1.事業戦略の計画策定ステップ

ここから事業戦略の現状分析フェーズに入ります。ここで改めて長期経営計画策定フレームワークを確認します。

長期経営計画策定フレームワーク

まず初めに計画の方針を策定し、次に企業戦略の現状分析を行なってきました。ここから事業戦略の現状分析を実施していきます。事業戦略は企業戦略の現状分析にも関わってきた事業部長(管掌役員)がリードしながら、経営企画がサポートする進め方が、企業戦略からの流れを踏まえて進められますのでお勧めです。計画策定の進捗次第で、スケジュールが押している場合は、並行して一次長期計画の策定(MVVや企業ドメイン等)を進めても大きな影響はありません。

現状分析はまず事業業績の分析を行います。企業戦略の企業会計の分析において、ある程度、分析が行われていますので、それを引き継ぎながら進めていきます。


2.収益性を分析する

企業会計の分析において、【①撤退検討】【②改善検討】【③注力検討】という今後の方向性の目安が立てられています。

【①撤退検討】の主な基準は限界利益での赤字(マイナス)です。事業戦略における現状分析ではその原因を明らかにする必要があります。限界利益マイナスになる要因は「売上が増加しない、減少している」・「売上に対して変動費が増加している」ことが挙げられます。過去3年間を目安に、できれば月次ごとに損益を確認し、経年変化をとらえます。最近立ち上げた新規事業の場合は計画との乖離を確認することや、一時的な外部要因による場合はその要因が本当に一時的なのか、継続しないか、など確認する必要があります。

【②改善検討】の主な基準は貢献利益で黒字(プラス)であるものの、その利益額や利益率が低い場合や貢献利益での赤字(マイナス)の場合です。ここでは【①撤退検討】での売上、変動費の分析とあわせて、事業固定費を分析する必要があります。ここでも過去3年間を目安に、できれば月次ごとに確認し、経年変化をとらえます。業種によって違いはありますが、割合が大きい事業固定費として、広告宣伝費、減価償却費および人件費が挙げられますので、そこから注目していきます。

まず広告宣伝費については、売上を上げるため、新規顧客を獲得するため、という大前提の目的があることにより意外と管理できていない企業が多い印象です。まずはシンプルに売上を広告宣伝費で割って、広告宣伝費1円あたり何円の売上を上げているのか、過去3年間の月次で経年変化を確認します。また広告宣伝費を新規顧客獲得件数で割って1件獲得するための金額を確認します。他にも問い合わせ件数やWEBサイト流入数など業種特性にあわせて重要な指標を組み合わせて分析していくことをお勧めします。

減価償却費については、売上に占める減価償却費の割合や、事業貢献利益に占める減価償却費の割合を過去3ヵ年(できれば5ヵ年)で確認します。減価償却費につながる設備投資金額も過去3ヵ年(できれば5ヵ年)で経年変化も含め確認していきます。設備投資には攻めと守りがあります。攻めの設備投資は新たな工場の新設や研究開発設備や新たなビジネスモデル構築のためのIT投資などがあります。守りの設備投資には老朽化した既存設備から新たな設備への更新などがあります。改善検討という観点では守りの設備投資において使用方法の適切化やメンテナンスの強化、交換部品の確保などで更新タイミングを伸ばす方法があります。また購入ではなくリースに変更することで減価償却費からリース料に科目が変わるケースもあるので注意が必要です。

人件費の分析については、この後の労働生産性の分析で紹介します。

【③注力検討】の主な基準は貢献利益で黒字であり、利益額も大きく、利益率も高いことです。売上は増加していることが予測されますので過去3ヵ年の成長率を中心に分析していきます。変動費は変動費率を経年で確認していきます。近年、物価が高騰していますので変動比率が上昇していないか注意しましょう。事業固定費については投資の観点が重要です。広告宣伝費は前述したような分析を行い、更なる増額の可能性を見極める必要があります。設備投資についても前述したような分析を行い、攻めの設備投資の可能性を探っていきます。


3.労働生産性を分析する

日本国内における人口動態の変化は大きく、生産年齢人口の減少への対策は重要テーマの一つです。事業固定費となる人件費については生産性の観点で分析していきます。労働生産性の分析方法については、『Ⅱ.企業戦略_6. 企業会計を分析する』にて記述しました。『一人当たり限界利益額』と『一人当たり人件費』を過去3ヵ年間を目安に算出、合わせて労働分配率を事業部門として算出していきます。

【ケース①】『「一人当たり限界利益額」と「一人当たり人件費」は増加しながら「労働分配率」は横ばい』という結果であれば、事業は順調に成長しているでしょう。賃金制度は全社統一の会社がほとんどだと思われます。よって全社が成長しているか、もしくは賞与支給等で事業部業績での格差によってこのケースになる場合もあるでしょう。この状況を長く維持していくことが重要になります。

【ケース②】『「一人当たり限界利益額」が減少、「一人当たり人件費」は増加しながら「労働分配率」が増加』であれば、事業貢献利益は悪化しているでしょう。近年の賃金上昇の流れの中で全社的に人件費は上昇しているが、限界利益の上昇が追いついてない状況だと思われます。事業部門の観点では限界利益額をいかに上昇させるかと同時に、業務を効率化し人員を減少させることを検討しないといけません。

【ケース③】『「一人当たり限界利益額」が減少、「一人当たり人件費」も減少しながら「労働分配率」が維持』であれば、離職率が上昇しているかもしれません。事業部門の観点では限界利益額を上昇させる方法を検討することは勿論ですが、事業部門だけで出来ることは限られており、配置転換を含めた全社的な取り組みが必要でしょう。


今回の『Ⅲ.事業戦略_現状分析 1. 事業業績を分析する』では、会計数字を中心とした定量的な観点での分析について記述してきました。次回、次々回では会計数字以外での内部・外部環境分析の方法について記述していきます。

今回は以上となります。次回は「2. 内部環境を分析する」について書くつもりです。


【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める 
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略 _ 現状分析
1. MVVを振り返る 
2. 事業構成を分析する
3. コア能力を再認識する
4. メガトレンドを調査する
5. 成長市場を調査する
6. 企業会計を分析する
7. 現状分析のまとめ
Column 長期経営計画は企業戦略でつくる

Ⅲ 事業戦略_ 現状分析
1. 事業業績を分析する  ←今回
2. 内部環境を分析する  ←次回

3. 外部環境を分析する
4. 現状分析のまとめ

Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画
1. 長期ビジョンを決める
2. 企業ドメインを決める
3. 目指す事業ポートフォリオを決める
4. 成長戦略を決める
5. 新規事業・M&A戦略を決める
6. 一次業績計画を策定する
7. 一次投資枠を設定する
8. 全社一次要員計画を策定する
9. TOPマネジメントを決定する
10. 企業戦略を事業戦略に展開する
11. 一次長期計画のまとめ
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅴ 事業戦略 _ 中期計画
1. 企業戦略を理解する
2. ミッション・バリューの見直しを検討する
3. 事業ドメインを決める
4. 目指す製品ポートフォリオを決める
5. 成長戦略を決める
6. 売上計画を精緻化する
7. 要員計画を精緻化する
8. 投資計画を精緻化する
9. 損益計画を精緻化する
10. ロードマップ・KPIを決める
11. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
12. 中期計画のまとめ
Column 経営計画の先行研究

Ⅵ 企業戦略 _ 長期経営計画
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
14. 長期経営計画のまとめ
Column 社員がワクワクする長期経営計画

最後に私の著書と副業で経営している会社の紹介をさせてください。


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