見出し画像

長期経営計画のすすめ Ⅱ.企業戦略_4. メガトレンドを調査する



1. 企業戦略における市場調査とは?

自社に複数の事業が存在する場合、企業戦略における市場調査は自社にある全ての事業に関わるような大きな社会の変化を対象として調査します。

市場調査の中にマクロ市場分析とミクロ市場分析という分析手法があります。マクロ市場分析は社会や経済など市場全体を広く俯瞰する分析です。分析するフレームワークの一つにPEST分析があります。政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの要素から分析していきます。

ミクロ市場分析は企業の中の事業単位での顧客動向や製品の需要と供給、価格、競争状況などの分析であり、事業計画を策定する際の分析手法です。

よって長期経営計画における企業戦略を策定する上ではマクロ市場分析が必要になります。

私自身、前々職のコンサル時代から長い間、経営計画の策定に携わってきましたが、自社にある全ての事業に重要な影響を与える社会の変化を捉えることは、とても難しかったです。しかし、2020年代に入り、長期的に世界中の企業や人々に影響を与えるようなテーマである「メガトレンド」が、複数、顕著になってきたと、実感しています。メガトレンドは、それ自体が大きな市場を生むということではなく、メガトレンドが大きな社会の変化を起こすことによって、市場が増加したり、減少したり、また新たな市場を生むなどの現象を引き起こします。今、私が注目する3つのメガトレンドを紹介します。


2. 3つのメガトレンド

1つ目はSDGsです。SDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットで採択された、持続可能でよりよい世界を目指すための2030年までの国際目標です。異常気象などの気候変動が顕著な例ですが、これまで世界の企業が経済的便益を追求してきた結果、社会的便益が損なわれ、世界の持続可能性が困難になることが予測されています。今後は、経済的便益と社会的便益を両立させることが重要であり、その取り組みに挑戦することでステークホルダーから支持され、企業成長することが可能になってきています。

2つ目はAIです。AI(人工知能 : Artificial Intelligence)とは、人間の言葉の理解や認識、推論などの知的行動をコンピュータに行わせる技術を指します。自動車産業では安全運転の高度化や自動運転で活用され、ヘルスケア産業では診断の高度化や病気の予知に活用されています。AIはこれからも長期的に進化を続け多くの課題解決に役立つでしょう。雇用の減少やリスク管理など多くの問題も抱えるAIですが、その問題を解決していきながら活用していくことが企業経営に求められます。

3つ目は人口動態です。人口動態は継続的なメガトレンドではありますが、特にこれからの30年間は世界と日本で大きな変化が現れます。世界人口は増加傾向にあり2060年には約100億人になることが見込まれています。特にアフリカや東南アジアの人口は増加傾向にあります。反面、欧州や中国は緩やかに人口減少に向かうことが予想され、なかでも日本は世界に先んじて少子高齢化社会に突入しており、人口は2048年に1億人を下回ることが見込まれています。人口構成では世界の生産年齢人口(15歳~64歳)の増加率は、1967年に2.1%であったものの2013年に1.2%に減少、これからは1%を下回ることが見込まれています。日本の生産年齢人口は1995年を8716万人をピークに減少しており、2050年には5275万人に減少すると見込まれています。総人口に対する生産年齢人口の割合では1995年の69.8%から減少し、2050年には51.8%と見込まれています。人口動態は「すでに起こった未来」として予測しやすく、特にこれからの30年間において、これまでとは異なる変化をもたらすでしょう。


3. メガトレンドへの向き合い方は?

メガトレンドは長期的に世界中の企業や人々に影響を与えるような大きな社会の変化です。これまでとは異なる変化が起きれば、企業はその変化に対して新たに取り組むことが必ず発生します。

世界の多くの人々がSDGsへの関心が高まれば、企業はこれまでの経済的便益だけでなく社会的便益に対応する必要性が生まれ、製造方法や販売方法など新たに取り組むことが出てくるでしょう。コストや労力が増えるなどの投資が必要になりますが、その投資が顧客に支持され他社との競争優位性を持ち、投資回収ができ企業成長につながるでしょう。

AIの技術が進歩すれば、自社のサービスへの付加価値を高めたり、効率化を促進できる可能性が出てきます。新たな取り組みになるので、PoCにおけるコストや労力が増えるなどの投資が必要になりますが、着実に実装していくことで、投資回収ができ企業成長につながるでしょう。

「すでに起こった未来」としての人口動態からは、ある地域では人口の増加が続き、需要の増加や供給不足に陥り、ある地域では生産年齢人口が減少することで、人手不足や需要の減少が発生します。その問題に対する新たな取り組みを行い、投資回収を実現することが企業成長につながります。

SDGsやAI、人口動態は、自社に複数の事業があったとしても、どの事業にも影響を与えるでしょう。メガトレンドは長い時間をかけながらも、確実に社会を変えていきます。「私たちの事業には関係ない」「私たちの会社には関係ない」と線引きしてしまい、何も取り組まずにこれまで通りの経営を続ければ、長い期間の中で少しずつ競合他社に遅れをとり、気がついた時には顧客は離れ、企業に深刻な事態を招くかもしれません。

長期的な目線で他社に先駆けてメガトレンドに乗り、競争優位を築き、継続的な企業成長を実現するためにも、メガトレンドを取り込んだ長期経営計画の策定をお勧めします。

今回は以上となります。次回は「5. 成長市場を調査する」について書くつもりです。


【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める 
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略
1. MVVを振り返る         
2. 事業構成を分析する
3.コア能力を再認識する
4. メガトレンドを調査する   ←今回
5. 成長市場を調査する    ←次回
6.全社業績を分析する      
7. 今後のMVVを決める
8. 企業ドメインを決める
9. 目指す事業ポートフォリオを決める
10. 成長戦略を決める
11. 新規事業・M&A戦略を決める
12. 一次業績計画を策定する
13. 一次投資枠を設定する
14. 全社一次要員計画を策定する
15. TOPマネジメントを決定する
16. 企業戦略を事業戦略に展開する
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅲ 事業戦略
1. 過去の事業業績を分析する
2. 現在の製品ポートフォリオを可視化する
3. 外部環境を分析する
4. 企業戦略を理解する
5. ミッション・バリューの見直しを検討する
6. 事業ドメインを決める
7. 目指す製品ポートフォリオを決める
8. 成長戦略を決める
9. 売上計画を精緻化する
10. 要員計画を精緻化する
11. 投資計画を精緻化する
12. 損益計画を精緻化する
13. ロードマップ・KPIを決める
14. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
Column 経営計画の先行研究

Ⅳ 計画完成
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
Column 社員がワクワクする長期経営計画

最後に私の著書と副業で経営している会社の紹介をさせてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?