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長期経営計画のすすめ Ⅳ 企業戦略_一次長期計画 2. 企業ドメインを決める


Ⅳ 企業戦略_一次長期計画は、企業戦略の大枠を策定するフェーズになります。今回は企業ドメインを設定します。より実務的なイメージをもっていただくために、前半はケーススタディを、後半にポイントを記述していきます。


1.ケーススタディ

設定

明智「本日の会議のアジェンダは企業ドメインの設定です。」
前山「わが社がどの領域でビジネスを行うのか、企業ドメインですので企業全体として設定する領域になります。企業ドメインを決める理由はビジョンの実現です。前回、決定したビジョン【全ての人がより質の高い医療を受けられる社会の実現】に向かって社員一丸となって取り組むために、具体的にどの領域でビジネスを行うのかを明示することが重要になります。
社長「これまで看護師の人材紹介から始まって薬剤師、歯科衛生士と広げてきたけれど、ドメインを決めるという意識は無かった。確かに、これからの成長を考えると、長期経営計画で明示すべきだな。」
前山「また、わが社は豊富に経営資源、つまり資金や人材を保有している訳ではありません。どこに経営資源を投下して、どこには投下しないのか、企業ドメインはその判断基準になります。
社長「企業経営を続けていると、いろんな案件が舞い込んできる。時には短期的に業績が上がりそうな案件もある。しかし、ビジョン実現が最優先であり、そこに繋がらない案件には飛びつかないようにするためにも、ドメインを決めるのは有効だね。
専務「改めて、企業ドメインの設定の目的は、ビジョンの実現、経営資源投下の判断基準ということを再認識しました。それでは、事前に検討してきた私の案を発表します。わが社の企業ドメインを "医療提供施設" と設定したいです。具体的には病院、診療所、歯科診療所、調剤薬局、介護施設を指しています。ビジョン【医療を受けられる】という言葉を意識しました。"ヘルスケア"も考えたのですが、ヘルスケアには予防や健康維持という考え方もあり、ビジョンと少しズレることや、対象が広がりすぎる懸念があり見直しました。」
明智「以前の現状分析ではヘルスケアは成長市場であり、市場規模の拡大が見込まれました。」

明智「また専務から依頼を受け、医療提供施設を調査しましたが、拡大している市場や、横ばい・減少傾向でも一定の市場規模があるので、長期経営計画として設定することに賛成です。」

医療提供施設市場調査

社長「25年近く医療提供施設を顧客としてビジネスを行なってきた。新規開拓はとても大変だったが、一旦顧客になると景気の変動も受けづらく安定性はとても高い。この先10年間を見据えても、いいドメイン設定かもしれないな。」

(この後、活発な議論が行われ、専務が提案した内容にて決定する)


2. 企業ドメイン設定のポイント

ケーススタディの通り、企業ドメインはビジョンと強く繋がります。ビジョンを決定した段階で、企業ドメインの大枠が決まってくることになります。「あえて、企業ドメインを明示しなくても良いのでは?」という考え方もありますが、明示しなければ、ビジョンをそれぞれが都合よく解釈し、企業ドメインが拡散していく懸念があります。

改めて企業ドメインの設定のポイントは、ケーススタディにあるように、ビジョン実現のために企業としてビジネスを行う領域を明確にすることです。そして、その領域に関わることには経営資源を投下し、そうでない場合は投下しないという判断基準を明確にすることです。

ビジネスを行なっていると様々なビジネスチャンスが訪れます。自社の業績の状況や得意先などとの関係性の中で、ドメインが広がっていくことが多々あります。ドメインが広がっていくと、ビジョン実現や経営資源の観点以外にも、事業間シナジーの減少や組織の縦割りが加速します。また新規事業を立ち上げる際にもドメイン設定がなければ、自由に取り組んだ結果、既存の経営資源を活用することができずに失敗に終わる可能性も高くなります。

ケーススタディでは顧客となる対象を企業ドメインとしましたが、ドメインが全て顧客や市場になるとは限りません。例えば、自動車やパソコン、スーパーマーケットやフィットネスジムなどの製品やサービスをドメインとして設定することもあります。また快適な移動やあらゆる情報の収集、いつでも安い買い物や健康促進など製品やサービスが提供する価値をドメインとして設定する場合もあります。

観点は色々ありますが、企業ドメインはできる限り具体的に設定し、ビジョン同様に自社内で明示し浸透、徹底することをお勧めします。


今回は以上となります。次回は「Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画 3. 事業ポートフォリオを決める 」について書くつもりです。


【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める 
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略 _ 現状分析
1. MVVを振り返る 
2. 事業構成を分析する
3. コア能力を再認識する
4. メガトレンドを調査する
5. 成長市場を調査する
6. 企業会計を分析する
7. 人的資本を分析する
8. 現状分析のまとめ
Column 長期経営計画は企業戦略でつくる

Ⅲ 事業戦略_ 現状分析
1. 事業業績を分析する
2. 内部環境を分析する
3. 外部環境を分析する
4. 現状分析のまとめ
Column 経営計画の先行研究

Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画
1. 長期ビジョンを決める
2. 企業ドメインを決める                   ←今回

3. 事業ポートフォリオを決める       ←次回
4. 成長戦略を決める
5. 新規事業・M&A戦略を決める
6. 一次業績計画を策定する
7. 一次投資枠を設定する
8. 全社一次要員計画を策定する
9. TOPマネジメントを決定する
10. 企業戦略を事業戦略に展開する
11. 一次長期計画のまとめ
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅴ 事業戦略 _ 中期計画
1. 企業戦略を理解する
2. ミッション・バリューの見直しを検討する
3. 事業ドメインを決める
4. 目指す製品ポートフォリオを決める
5. 成長戦略を決める
6. 売上計画を精緻化する
7. 要員計画を精緻化する
8. 投資計画を精緻化する
9. 損益計画を精緻化する
10. ロードマップ・KPIを決める
11. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
12. 中期計画のまとめ

Ⅵ 企業戦略 _ 長期経営計画
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
14. 長期経営計画のまとめ
Column 社員がワクワクする長期経営計画

最後に私の著書を紹介させてください。


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