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富士山自然図鑑⑨(ラジオ原稿)「トリカブト」※無料

green&brownをお聴きの皆さん、こんにちは。「富士山自然図鑑」を担当します富士山ネイチャーツアーズの岩崎です。

10月も近づき、富士山五合目は秋が深まり、足元には色とりどりの秋の草花が短い開花シーズンを満喫するかのように咲き誇っています。
今日はそんな中から私の大好きな花「トリカブト」を紹介いたします。
富士山には亜種を含め4種類のトリカブトが確認されており、富士宮口五合目付近では「オオサワトリカブト」という富士山固有種が多く見られます。

花柄の毛がまっすぐ(開出毛)なオオサワトリカブト

「トリカブト」というと毒草のイメージが強く「ちょっと怖い」という思いを抱く方も多いかもしれません。ドクウツギ、ドクゼリと並ぶ日本三大毒草の一つに数えられ、アコニチンというアルカロイド系の神経毒を持っています。その毒性は大変強く、摂取すると嘔吐、痙攣、呼吸困難、心臓発作などから死に至ることもあるほどです。根っこに最も強い毒を持っていますが、葉にも、花にも、蜜にもそれなりの毒を有しています。この毒はもちろん自らを外敵から守るために作り出された進化であり、とても凄い戦略家だと考えることもできます。

トリカブトを訪れるマルハナバチ

しかしながら、もしこの毒がすべての生き物を寄せ付けないのであれば、どのように花粉を媒介し、子孫を残していくのでしょうか?実はこの毒に耐性を持った昆虫がちゃんと近くにいるのです。マルハナバチの一種です。耐性を持つこの蜂にとって、このトリカブトの蜜はまさに独占状態の愛しい存在。結果として、次から次へとトリカブトの花をはしごしてくれるので、トリカブトは効率よく花粉を媒介してもらうことができるわけです。
また、心地よくマルハナバチに蜜や花粉を採取してもらえるよう花の形をマルハナバチの体にフィットさせるというしたたかさも持ち合わせています。花という表現をしましたが、花弁のように見える紫色の部分は実は5枚の萼で、烏帽子のような形をした一番奥の部分に蜜腺を配置し、残りの4枚でマルハナバチを包み込み、手前に配置された雄しべ、雌しべの上を確実に通過させるよう巧みに誘導するのです。まさにクリティカル・フィット!

無駄のない形に進化したトリカブト(ヤマトリカブト)

昆虫と植物が互いのメリットを享受しつつ進化してくこうした関係を共進化と呼びます。自力では動くことができない植物と、その植物からエネルギーを採取する昆虫とのせめぎ合いが生み出した共利共生。自然の作り出す完璧な美しさにはいつも魅了されてばかりです。

それでは、またお会いしましょう!富士山ネイチャーツアーズ岩崎でした。

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