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今後の雇用の行方(2)

前回の投稿では、雇用市場全体の状態は悪化しつつもアベノミクス前ほど悪いとは言えないことについて考えました。その上で、「希望の仕事がない」という理由で失業状態が続く人が以前より増えていることを取り上げました。
https://note.com/fujimotomasao/n/n43b8acae156e

前回に続き、もうひとつ新聞記事を取り上げてみます。5月21日の日経新聞に掲載された「未経験OK求人増加 コロナ後見据え人手確保優先へ」という記事です。以下、一部抜粋です。

~~転職市場で未経験でも応募できる求人案件が増えてきた。転職サイトでは営業系や技術系職種を中心に、未経験者の応募を受け入れる案件の比率が上昇する。新型コロナウイルス禍で即戦力となる人材に採用を絞り込んでいた企業が、再び人手確保に動き始めている。

エン・ジャパンの転職サイト「エン転職」で、未経験者でも就労できるとする求人案件の比率は4月に59.7%だった。もっとも少なかった2020年6月に比べ7.7ポイント増加した。21年を見据えた採用が始まった10月から増え始めた。全体の8割が未経験者も含めた求人だった20年2月の水準には及ばないが、増加傾向は新年度に入った4月以降も続く。

職種別でみると、技術系(電気、電子、機械)は1~3月の未経験案件が51.5%と20年7~9月に比べ19.4ポイント増加。IT・Web系は1~3月は23.2%と同6.1ポイント増えた。コロナ禍でも業務のデジタル化といった需要は根強い。経験者採用にシフトしたもののカバーできず、募集対象を広げた。転職市場の主要職種の営業系でも増え、「飲食やサービスで職を失った人の受け皿になっている」。

コロナ禍は転職市場を直撃した。総務省の労働力調査によると、20年の転職者数は319万人と02年以降の最高だった19年に比べ32万人減った。減少は10年以来、10年ぶりだ。需要の蒸発で人件費を削減するため、採用人数を絞り込み経験がある即戦力を「厳選採用」する企業が目立った。

企業はコロナ収束後を見据え、未経験者に再び視線を向け始めた。事業の拡大に必要な人手の採用を再開し始めている。~~

転職市場では、年齢、希望年収、自社への適性などが全く同じであれば、企業は当然未経験者より経験者・即戦力の人材のほうを採ろうとします。全転職案件において「未経験OK」の割合が高くなっているということは、それだけ人材を採りづらくなってきているということです。一般的には未経験者が参入しづらいイメージのある技術系やIT・Web系でも、未経験者求人が相応に存在していることがわかります。

このように見てみると、現状について大きくは次のようにまとめられそうです。
・求職者数を吸収できる規模の求人総数がありそうである。
・求人の中にも、求職者に明確な意欲があれば就職可能性の高い未経験者可とするものが相応数ある。
・職種や条件を変えれば就職可能性があるものの、自身の希望にこだわることで職を得られておらず、ミスマッチとなっているケースが相応数ある。
・これらの結果、雇用市場全体で存在しているはずの労働移動のポテンシャルを、社会全体として活かせていない。

上記に加えて、社内で発生している業務のミスマッチ(表面化していない)もあるでしょう。コロナ禍をきっかけに事業部間でも仕事量の増減差が出てきているものの、従業員の再配置が十分に行き届かず、人材リソースを十分に最適化できていない可能性です。その結果、組織全体の生産性が伸び悩んでいる可能性があります。

キャリアの問題は簡単ではありませんし、結論もひとつではありません。自分のやりたい職種や慣れた仕事にこだわり続けるのもひとつの道です。他方、未経験者でも可とする社会的ニーズの高い職種や仕事に、自分をいちから強制的に適応させるのも、価値のある道だと言えるでしょう。

また、採用の慣行が、新卒人材含めてすべてで職種別が基本となっている国なら、企業は事業戦略上から外れた職種の社員をすぐに解雇し他社に移ってもらうことをするのが一般的でしょうが、日本はその前提がありません(今後は変わるかもしれませんが、少なくとも現時点は)。よって、日本社会の場合はある意味、各労働者が向き合うべきキャリアの考え方は、より多様化しやすいとも言えると思います。

いずれにしても、雇用市場がコロナ禍発生前の状態には戻らない前提で、企業も個人もこのテーマについて考える必要があるでしょう。例えば、仕事量が激減した企業から雇用吸収力のある企業に出向をお願いする出向制度が、2020年から一部の企業で本格的に運用されています。この制度の常態化や、出向後に本人の希望でそのまま転籍できる仕組みなども検討されるべきかもしれません。

また、これを機に自身の職種・職歴を一新するという自己決定をして、未経験者OKの求人にチャレンジするのもよいでしょう。あるいは、副業や学び直しで今のうちから未経験領域のスキルを高める、経験領域で専門性を高めてどんな環境変化にも耐えられるようにしておく、現勤務先で生き残れるためのあらゆる可能性を想定して準備しておく、などもよいと思います。


個人の視点としては、自分の選ぶ職種・仕事が、今後の環境変化の中でどのような形で残っていくものなのかを踏まえておく必要があるでしょう。

<まとめ>
雇用市場の環境変化を認識し、自身のキャリア観・キャリア開発をブラッシュアップする。 


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