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今後の雇用の行方

5月15日の日経新聞に、「雇用のミスマッチ拡大」という記事が掲載されました。言うまでもなく、コロナ禍の発生以降雇用環境で大きな変化が起こっています。
同記事の一部を抜粋してみます。

~~日本の労働市場で雇用のミスマッチが拡大している。総務省によると仕事に就きたくても「希望の仕事がない」との理由で失業状態が続く人が3割で高止まりする。失業が1年以上に及ぶ人も増える。新型コロナウイルスの感染拡大が長引くなか、短期的な失業抑止のための助成制度から、労働移動を促す仕組みへの転換が求められる。

総務省が14日に発表した労働力調査(詳細集計)によると2021年1~3月の失業者214万人のうち、「希望する種類・内容の仕事がない」と答えた人は64万人と30%だった。19年は20%台後半だったが、新型コロナの感染拡大が雇用市場に影響を与えた20~21年は3割台が続いている。

就職を希望するが求職活動はしていないという人も、全体の37%にあたる95万人が「適当な仕事がありそうにない」と理由を答えている。新型コロナウイルスの感染拡大が長期化するなかで、雇用吸収力が大きかった飲食や宿泊など一部のサービス業は雇用が蒸発。他方で医療・福祉などは直近の21年3月も有効求人倍率が2~3倍とコロナ下でも引きは強い。デジタル・トランスフォーメーション(DX)に関連した職種も求人は堅調だが、働き手の希望やスキルが一致せず、労働移動が進まない状況だ。

日本総合研究所の山田久副理事長は、コロナ収束後も飲食など求人が旺盛だった産業の雇用は「完全には元に戻りづらい」とみる。デジタル分野などへの人材移動が進んでおらず、「雇用のミスマッチが顕在化してきた」と指摘する。~~

同記事からは、「職を得るためのすべての可能性を探したが失業中」という人は全体の一部であって、「自分のとりたい選択肢の中では職が見つからず失業中」という人が相応の割合を占めていることが伺えます。

改めて、雇用全体の動きについて概観してみます。
厚生労働省発表による有効求人倍率を見てみましょう。「有効求人倍率」は、1人あたりの求職者に対して、どれだけの求人数があるのかを示す指標です。

平成以降で最も高い値は、2018年9月と2019年1月に記録した1.64です。つまり、1人の求職者に対して平均で1.64の求人が得られる状況だったわけです。採用する企業側からすると、1.64人採ろうとしてやっと1人採れる状態ですので、大変な争奪戦です。「人手不足」が最も強調されていたのがどういう環境だったのか、改めてイメージできます。

これが、2020年1月には1.51まで下がっていました。コロナ禍発生はこの後でしたので、コロナ云々に関係なく景気のピークは2019年だったと言われることの、ひとつの手がかりとなります。

そして、直近の結果の2021年3月が1.10となっています。2020年の最低値は、1回目の緊急事態宣言を受けての雇用悪化で、2020年9月に記録した1.04です。その後緩やかに上昇しています。ただ、これをもってして、「雇用情勢は底を打った」と言えるかは難しいところです。

緊急避難措置としての、自治体が利子補給する制度(実質無利子・無担保融資)などが赤字企業の現金確保を促して、雇用を支えてきた面があるでしょう。しかし、同制度も3月をもって民間による取り扱いは終了しています。このままワクチン等の効果による景気回復が順調に進み「あの時の1.04が底だった」となる可能性もあれば、公的支援等が弱まるのと同時に雇用維持の限界を超える企業が出ていて1.04を下回ることもあるかもしれません。

いずれにしても、1.64に比べて1.04や1.10は低い数値です。しかし、依然として1を上回っています。ということは、理論上は「場所・職種・賃金にこだわらなければ、日本国内なら何らかの仕事に就ける」状態が続いているということです。

アベノミクスの恩恵が本格化する前の2013年度は通年で0.97でした。ここから1.64までもっていったわけです。そして、平成以降で最低だったのは、リーマンショック後の0.5でした。0.5ということは、1人の求職者に対して0.5件しか求人がない状態です。リーマンショックがいかに経済ショックであったのか、またアベノミクスが少なくとも雇用の面では相応の恩恵をもたらしたことが、見て取れます。

この数値の差異からも、全体的な雇用市場の動きは、今のところリーマンショック後ほどではないと想定することもできます。先日、ある中小企業経営者様が「今なら新卒が取れるのではないかと思って久しぶりに採用活動したけど、反応が全くない」というお話でした。もちろん、活動内容にも問題はあるかもしれませんので一概には言えませんが、依然として採用市場の厳しさも感じられます。

総務省が発表する完全失業率も見てみます。
完全失業率とは、労働力人口(15歳以上の働く意欲のある人)のうち、職がなく求職活動をしている人が占める割合です。有効求人倍率と共に、雇用情勢を示す重要指標のひとつとされます。

2021年3月は2.6%です。有効求人倍率同様、2019年に最も低い2.2%を記録し、2020年10月には3.1%まで上がりました。そして、2013年度は通年で3.9%でした。やはりリーマンショック後の2009年7月に5.5%という平成以降で最も弱い数値をつけていました。今がよい状態とは限りませんが、歴史的に見ても失業率が高いとは言えないでしょう。

このような雇用情勢の中で、冒頭のミスマッチをどのように捉えるべきなのでしょうか。
続きは、次回以降のコラムで考えてみます。

<まとめ>
雇用情勢は下向きだが、アベノミクス前より指標としてはよい状態である。


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