マガジンのカバー画像

小説入れ

49
書いた小説を置いておくところ
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事

小説:イグニッションガール 【2000字ジャスト】

「低気圧ぶっころす」と、私は目が覚めると同時に呟いた。 パジャマにしているパーカーのフー…

93

【小説】 ラテ

庭にときどき猫がくる。 餌を与えたりはしないし、名前をつけたりもしない。 ただそこにいるだ…

富士見 ヒロ
10か月前
3

【小説】ドーナツ・ショップ

うまく説明はできないのだけれど、耳に入るだけでそれはクリスマスソングだとわかった。 英語…

2

小説:ぼくらの時代

すりガラスの向こうの景色のように、どうしてもうまく言葉にできない感覚がある。 なんかこう…

1

小説 : アフリカの山羊座【2000字ジャスト】

「今朝あなたの星座最下位だったわよ」と、事務所のドアを開けるなり先輩が言った。 殺意とま…

1

小説:絶つ鳥【2000字ジャスト】

階段を一段上るごとに、テキーラの匂いは強くなった。 できることなら胃の中のものをすべて吐…

4

【小説】なし太【2000字ジャスト】

なし太は自分の名前が嫌いだった。 漢字で書けば果物の梨なのだけれど、瑞々しく生命力のある人間に育ってほしいと名付けた両親の思いとは裏腹に、学校では玉なし太だとか根性なし太などと呼ばれ、いじめられていた。 なし太はそれでもただ微笑んでいた。 微笑んではいたのだけれど、そこではないどこかのほうが好きだった。 なし太は学校にあまり行かなくなり、とはいえ家にいるのもいやで、山でひとりで遊ぶほうがずっと楽しかった。 家にいると両親がなし太に謝るのが、なし太は嫌だった。 なんと言っていい

【小説】花【2000字ジャスト】

時すでに私は発狂していた。 私はそう思うのだけれど、それは誰が決めるのだろう。 周囲が決め…

1

【小説】私が夏になる【2000字ジャスト】

耳を塞ごうかと思ったけれど、よく考えてみればとくになにかの音がするわけではなかった。 止…

2

【小説】猫のけつの話【2000字ジャスト】

僕がいつものように縁側で天井の木目を数えていると、網戸の向こうから猫の鳴く声がした。 い…

2

小説:クロムレイン 【2000字ジャスト】

夏が始まろうとしていたけれど、私はすでに夏の終わりのことを考えていた。 なぜなのかはわか…

小説:月に歌えば【1000字ジャスト】

教室中にニルヴァーナが響き渡った。 イヤホンの音が小さいなと思い音量を上げたことでそれは…

1

小説:グリーングリーン

僕がまだ小学生だった頃、つまり四半世紀も前のことなのだけれど、実家のトイレは汲み取り式だ…

2

小説:EMBERS

取調室は、映画やドラマで見ていたものとは随分様子が違った。 顔を強く照らすためのライトもない。 西日が差し込む窓もない。 至って簡素なひとつのデスクと、プリンターだけがあった。 デスクの片隅には、おそらくインクが色移りしてしまったのであろう染みがあった。 その染みは、なぜかあまりよくない印象を与える文字に見えた。 もちろん具体的な意味を為している文字ではない。 それはまるで僕が失った平常心を嘲笑うかのように、いろいろな文字に変化した。 前と後ろには鍵のかかるドアがあり、その一