過去の恋愛の話。その②。



家に帰る前に、実はある場所に寄っていた。
それは美容院。
当時自分の人生の中で珍しくロングヘアだったわたしは、昭和の伝統である"失恋したら髪の毛を切る儀式"を執り行った。
さっぱりしたかったという気持ちもあったけれど、「ショートヘアにイメチェンしたら気持ちが戻るかもしれない」なんていう馬鹿みたいなささやかな期待を込めて足を踏み入れた。
初めて会う美容師さんは優しく、涙で目が腫れたわたしの事情を聞くと「バッサリ切っていいよ、特別に⭐︎」と鋏を貸してくれた。つくづく周りの人に恵まれている。



その①で触れたように、Nちゃんとわたしは実家が近かった上通勤ルートも同じだった為、交際当時行き帰りを共にしていた。
別れてからも朝の通勤は共にし、それがしばらく続いた。
髪をバッサリ切り落としたわたしを見てNちゃんは「やっぱり似合うね。」と力無く笑った。
力無く、とは言えその言葉を聞いてお馬鹿まっしぐらなわたしは、まだ希望がありそう…などと思った。


それからしばらく時が経って、3月。
わたしは振られて以降、ろくに食事を摂らず、カッサカサにガリッガリに痩せた。
家族、友人、職場の上司、先輩、同期、みんなに心配をかけてしまった。Nちゃんにも。
だけど、メン雑魚なわたしはどうしても食事を摂れなかった。食べると吐き気がしてしまって。



ある時、Nちゃんと2人で仕事終わりに飲みに行くことになった。
"なった"というか、付き合ってた時に約束した日にちをそのままに決行した、という表現が正しい。
横並びの座席で食事を摂った。上記したように全然食べられなかったので少しずつ、少しだけ。

「婚活進んでるの?」
「合コンはした。」
「へえ。どんな男の人がいいの?」
「玉木宏みたいな人。」
「いないだろ。笑」


そんな会話を交わしたのを覚えている。


帰りの電車の中、最近聴いている曲の話になった。

「この曲いいよ。」
「初めて聴く。」
「A子に教えてもらったんだよね。その影響で結構聴く。」
「そうなんだ。」


そういえば、しばらくA子から返信こないな〜、そんなことを思いながら最寄駅に着き、まるで付き合っていた頃のような流れでカラオケに行った。
当時流行ってた(今もか)米津玄師のLemonを歌って泣いたもんだから、わたしは厄介な人間であったことに違いはない。完全にメンヘラである。
この点は大いに反省しているし、次にもし誰かと付き合うことがあったのなら面倒な人間にならないように気をつけようと心に深く刻んでいる。

その翌日、Nちゃんから「昨日みたいに会うのはやっぱり良くない。だから昨日で最後。」という旨の連絡がきた。そりゃそうだ、今考えるとそう思える。
メン雑魚な当時のわたしは勿論泣いた。



依然吹っ切ることができないまま、ただ時が過ぎ、4月。

よそ子の提案でワンピースタワーに行ったり、他にも周りの友人にたくさんたくさん励まされながらなんとか日々を送っていた中でそのときが訪れた。



突然よそ子から「話したいことがある。文章じゃ難しいから近々電話できる?」というLINEが届いた。その文面から、只事ではない様が伝わってきて、わたしは身構えた。
電話の日にちを翌日に取り付けたのだけど、その日の夜は手が震えてうまく眠りにつけなかった。




翌日、予め合わせた時間によそ子からの着信。
怖かった。
よそ子はNちゃんともやり取りをしていたし、一度よそ子に対してNちゃんが「好きな人ができた。男の人。」と連絡をしていたのを聞いていたから、その人と付き合うことになったのかな、などと予想を巡らせて、少しでも自分が傷付かないよう身構えていた。

『突然ごめんね。』


そう言うよそ子の声は震えていた。

『あのね…』と、よそ子は一部始終を話し始めた。
こんなにも震えているよそ子の声は初めてで、結論に至る前にわたしは少し何かを察した。


『A子と会った時に、キスマがあって。』
「…うん。」
『どうしても気になったから、それは何って聞いたんだけど…。』
「……うん。」
『……Nちゃんの、って。』


察したとは言え、事実としてそれを聞いた時、自分の中でふたつの感情が湧き上がった。
ひとつは、裏切られたんだという気持ち。
そしてもうひとつは、ほっとした気持ち。


レズビアンであるNちゃんが、無理矢理男性と結婚するという未来に対して純粋に心配をしていた当時の自分の中では後者の気持ちも駆け巡った。

「……そうなんだ。」

わたしはそう言う他なかったし、よそ子もそう伝える他なかった。

だって、A子のことを信頼していたから。
それによそ子はわたしがNちゃんと別れた後にも、Nちゃんと2人で会っていて、その時は一切そんな素振り見せず、むしろわたしに未練があるような発言をしていたと聞いていたから。


もはや何が何だかわからなかった。
どこからが嘘でどこまでが本当なのか。





その③へ続く。→
https://note.com/fujichan____s/n/n78809f7b7f0b



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