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さよなら、今度こそ。 ▷ 屋根裏

 

三度目の正直で、さよならを告げた、春だった。

君と別れてからの再会、一回目は引っ越した先の改札前で擦れ違う。擦れ違ったことに気付きながらも僕は、視界の端に君を入れたまま、でも真っ直ぐ前を睨んで、通り過ぎた。文字通り、君に合わせる顔がなかったからだ。君は足を止めて驚いていたようだった。
二回目は人身事故で停車中の電車。開いたままの適当なドアから乗ろうとしていた、その視線の先に、君はいた。入口付近でホーム側に向きながら、その指先は止まることなくスマホの画面を叩いていた。声は、掛けなかった。もし三回目の再会があるとしたらその時は声を掛けようと決めたのも、この時だった。

三回目は、今年の春。
桜が咲き乱れるぽかぽかな午後、かかりつけ医の眼科に向かうべく地元へ車を走らせていた。細い歩道に大きな桜。揺れる花弁が無機物の信号を彩る、歩道橋の下に、君はいた。
君がいる理由もないはずなのに、白い紙の束を掴んで、桜の木の上の方を色んなアングルから見上げていた。何かを探しているようだった。車が完全に停車する前に青になった信号に、これで本当にさよならだ、と告げられたような気持ちになった。
僕は何かのドラマのように車を路側帯に停めるでもなく、迂回してその場に戻ることもなく、目的地へ進む方を選んだ。全ての罪悪感や未練を、振り払った。掛かった時間は10年余りと4秒だった。

春告鳥が鳴く。
その声を、このタイミングである意味を、どう捉えようか、走り慣れた地元の景色を過ぎながら考えていた。

バックミラーに映る桜は歩道橋に遮られた。僕が用事を済ませてまたこの道を通る頃、君はとっくにいないんだろう。

僕らの始まりと終わりはいつも桜の季節で、光に満ち溢れていたあの日々は、宝物そのもので。


#由眞からの挑戦状  #春告鳥 #歩道橋
BGM:ハナウタ feat.最果タヒ [Alexandros]

※いつも最後まで読んでくださりありがとうございます。隔週お題提供は一旦停止として、今後はまた文章を書く方に専念させて頂きます。

それではまた、屋根裏部屋で。

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