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10の短詩、 画像付き5つの短詩、そのほか
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風の電話ボックス

風の電話ボックス

あの
海を臨む
小高い丘の
風の電話ボックス
今も想い届けているだろうか

ちょっと待って
いま
感動している
動いたら
こぼれそう

本のページを
めくるように
日ざしが
カーテンに乗って
私の膝にとまる

ときどき
記憶は
嘘をつく
騙されたままのほうが
いいこともあるけれど

何もしない
私たちが
失うものは何か
手か足か
平和か

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引っ越しが決まり忙殺

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春にそわそわ

春にそわそわ

目を凝らすと
緑の点々つけた
やなぎの枝
いつの間にか
ひらいた春の扉

空に吸われたように
雪にとけたように
蝋梅の黄色は
清しく透明に
咲き匂っている

匍匐前進
前方警戒
春の蛙は
眩しさに
おそるおそる

夕空に
置き雲
みっつほど
金魚を放した
子はだあれ

大切なものを
手の中に包むように
ふくらんでいく
白木蓮の
つかの間の春

差し込む
一条の光受けて
谷間のねこやなぎは
銀の鈴

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春よ来い

春よ来い

からんと晴れた冬空
小石を投げたら
凛と鳴りそう

北風の櫛にすかれ
土手の草は
南へなびく
ひゅーという笛に
踊らされているように

小枝の先で
かすかにふくらみ始めた
木々の芽
むずがゆいのか
もじもじ

お日様に向かって
手を伸ばし
早く早くと
春の衣を
せがんでいる

陽が当たると
ふくらんで見える
枯野は
もう春を
つかんでいるのか

もうじき
小さな空のかけらが
舞い落ちたような
イヌ

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冬の色 #シロクマ文芸部

冬の色 #シロクマ文芸部

冬の色した
夕暮れの落ち葉
カラカラと
音と色を
走らせ舞いあがる

落日を
背に
木々はみな黒
同じ生を
生きたはずはないのに

通りの
電柱は
寒そう
何も着ていないし
雀もいない

街では
老舗が消えてゆく
そんな哀しみごと
寝かしつけるような
優しい闇がくる

遠くに見え始めた
星たちは
私を育ててくれた
人たちの
まなざし

かすかに残る
明るさの
しっぽを
たぐったら
会いに行けるでし

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詩と暮らす #シロクマ文芸部

詩と暮らす #シロクマ文芸部

詩と暮らす日々は、心の中にちいさな星を抱いている日々だ。普段は目立たない星が、なにかを感じてキラリと光る瞬間、詩が生まれる。

詩の会に入ってもう二十年になる。それぞれが詩を持ち寄って感想を話し合う会なのだが、詩には心模様を詠んだものも多く、心を開いて話すためたちまち親しくなる。新鮮な感覚に刺激され心が洗われるような感動をしたり、胸が痛くなるほどの共感に涙ぐむことも一度や二度ではない。

この会で

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水の歌

水の歌

止むことのない
滝の
水音を
吸いつくして
岩は閑か

小島と小島の
間の波は
寄せ合って
やわらかな
模様になる

荒波だったかも
渦巻いていたかも

やわらかく
入り江に寄せる

荒ぶる滝と
岩をなぞる
やさしい流れ
水は分かれて
迷いをみせない

意志ある
水であったら
浮かべたいもの
流したいもの
沈めたいものがある

小さな泡と砂粒を
揺らして
水が湧き出る
豊かなことは
静かに起こる

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心がへこんでも

心がへこんでも

秋が好き
風に涼しさが一筋まじってきた
ほんのり黄色に染まった葉を
銀杏はまだちらり見せるだけ

やがて金色に変身すると
秋のくす玉がはじけたように
金のかけらがはらはら散り落ちる
葉の散り敷いた道を歩けば
黄色いさざ波たつような
くすくす笑っているような

公園では
散り敷き詰められた紅葉が
赤と黄の折り鶴のよう
子供達が
遊んだ後を
優しく窪ませて

澄んだ空の下
さらさらと木の葉散り
静けさ

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ヒマワリへ

ヒマワリへ

ヒマワリへそそぐ陽の光が茜を帯びてきた
すっくと立って陽を浴びていたヒマワリたちは
何か心配事でもあるかのように頭をたれ始めた
沢山の種一つ一つの未来を案じているのだろうか
立ち枯れた身をさらすヒマワリは最後まで誇り高い

やがてセイタカアワダチソウが茂り始め
三角の山の形をした花々が咲きそろうと
土手は金色に輝くアルプス山脈になる
白いススキの穂がおいでと手招きし
ひんやりした風がスイとやって来

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夏の海 #虎吉の交流部屋初企画

夏の海 #虎吉の交流部屋初企画

海はもしかして
ぬれぬれとした巨大な魚
小さな光る波がしらは
鱗のきらめき
その息づかいで
ゆっくり体をふくらませたり
平らかにしたり

盛り上がった大きなひれは波になり
端から砕けざざん と迫る
砕け散る波がしらは開放の喜びか
散り行く哀しみか

波裾は見つからない何かを捜すように
するすると伸びて
むなしく引き返す
シャリリと小石を巻き込んで

太陽の熱を吸って熱い砂に身をかがめ
波と同じ高さ

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白熊短歌・3首

白熊短歌・3首

公園の枝に揺れいる手袋の指一本がツンと天指す

骨壺に入りきれない父の骨われを背負ひしたくましき骨

冬の土手健気に咲けるたんぽぽよ私も弱音はくのはよさう

白熊杯短歌応募します。よろしくお願いいたします。
#白熊短歌

こっそり返歌

こっそり返歌

元歌①手を繋ご 差し出したのに君ったら
また引っ込めるもう春なのに

返歌君の手は湖面を撫ぜる風のよう
私の肩で受けとめたいの

きみのてはこめんをなぜるかぜのよう
わたしのかたでうけとめたいの

(手をつなぐのは好きだけれど、今日は肩に手を置いてみて。
あなたの温もりを肩に感じたくて)

元歌②元の枝なごり雪落つ思い出が
解けずに残る春の道

返歌なごり雪とかさんとてか猫柳
銀の穂先に光集めて

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恋は猫 #シロクマ文芸部

恋は猫 #シロクマ文芸部

恋は猫のよう
足音もなくす~と忍び寄り
心という器いっぱいに満ちる
スポンと身を落とし
この器が居場所だと満足げな猫のように

あなたが渡る交差点は一瞬輝き
視線の先の唇がわたしの名を呼ぶ
私の荷物を持ってあなたが歩くのはいつも車道側
雨の日に2時間も待っていてくれた
そんな優しさ手放したくない
だからあなたの手の中で私の手は
プリンのように震えて

優しい人は誰にでも優しいから
危険だと知ってい

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若い背・短詩

若い背・短詩

緑茶をさます

ガラスの中は

草原の

陽だまりの

輝き



届かない

自分の気持ち

そんな日は

視線を上げて

空の旅



いつかわたしが

土に還って

そこから花が咲き

人々が

花を愛でる

夢を見た



さぁーと追い越してゆく

女性の後ろ姿

一切を振り向かない

という

若い背



ドクンと脈がひとつ

飛び跳ねる程度でいい

トキメキをください

心の

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九つの短詩

九つの短詩

浴室の蛇口に映る
わたしのヌード
角度次第で
伸びてモジリアニ
ゆがんでピカソ
 

赤いTシャツと洗ったら
洗濯物がみんな
ピンクに染まった
うちのベランダだけ
夕焼けだ

玉杓子の中の味噌を
クルクルと溶くように
心のわだかまりを
時という菜箸が
ゆっくりと溶かしてゆく

空気入れたてタイヤの
自転車は
そんなに嬉しいのか
砂利道を
スキップして走る

すれ違う老女と女子高生
若い日をなつかし

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