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vol. 2.2 DIN/トレードゴシック —グリッド・デザイン—

DIN/Trade Gothic

前回までのあらすじ

自社イベント用に制作したポスターで使用された書体の話で盛り上がる3人。2019年最後の回は、無事に収まるのだろうか……。

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伊藤「山田さんはDIN系、渡邊さんはTrade Gothicを使って仕上げたということですが、書体はポスターのデザインにどういった感じでかかわってきますか?」

渡邊「両者、『クセ』の少ないゴシック体、というところが共通していますね」

山田「今回のポスターでは、『縦のライン』をきれいに出すというところがポイントだったんだよね」

渡邊「かといって、横のラインががちゃがちゃしているとカッコ悪いので、文字数を揃えることで調整しています」

伊藤「なるほど! 二人が使った書体は、『ラインをきれいに出しやすいものだった』ということですか?」

山田「うん、そうなんだけど、なんでだかわかる?」

伊藤「うーん……それはわかりません(笑)。渡邊さん、教えてください」

渡邊「私の使ったTrade Gothicは、各字幅に差がほとんどないんです。だから、横組みで並べても、文字数を揃えることで縦のラインがきれいに出るんです」

伊藤「……確かに!! 目線を上から下に移動させたときに、字幅に差があるとなんだかしっくりきませんね」

山田「うん、その通りだね。僕のは自分で起こしたタイプフェイスを使ってるけど、構築するときに用いた概念(詳細は前号へ)の性質上、字幅に差が出ない」


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渡邊「あと、私のポスターは、『遊びある真剣、真剣な遊び、私の人生 —解題:美学としてのグリッドシステム』というヨゼフ・ミュラー=ブロックマンの書籍で紹介されているレイアウトを参考にしています」

山田「グリッドシステムというのは、フィールド(誌面など)に格子状のガイドラインを引くことでレイアウトに秩序をもたせる技法だよね」

渡邊「私はこの本に載っている『ムジカ・ヴィヴァ』(1970、1972年)のポスターがとても好きで。縦のラインがとても美しいんです」

山田「実線が引かれているわけではなく、存在するのはマージン(余白)なんだけど、そこに秩序があると線として見えるんだよね」

伊藤「エンジンの設計図を見ているような、とても興味深い話です。ちなみに二人とも、大文字だけで組んでいますが、小文字を使おうとは思わなかったんですか?」

渡邊「小文字は、大文字に比べてアセンダーディセンダーで各文字のハイトに差が出てしまうので今回は使っていないんです」

伊藤「アセンダー、ディセンダー……ハイト?」


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山田「小文字って、高さ(ハイト)で差が出やすいんだ。『エックス・ハイト』といって基本的には『x』の高さに揃えられるんだけど、『f』『l』のように上に飛び出しているものや、『g』や『y』のように下に飛び出しているものがあるでしょう?」

伊藤「ふむ、なるほどそうですね」

渡邊「基準となるエックス・ハイトの下限の線を『ベース・ライン』上限の線を『ミーン・ライン』と呼んでいて、『f』『l』のように上に飛び出している部分を『アセンダー』、『g』や『y』のように下に飛び出している部分を『ディセンダー』というんです」

伊藤「ああ、わかった! 小文字はハイトでばらつきが出てしまうから、今回のポスターのような場面には向かないんですね!」

渡邊「わかっていただけてよかった!」



伊藤「あのう……ちょっと思ったんですけど」

山田「ん? どうしたの?」

伊藤「二人とも、今回のポスターのデザインのこだわりは『縦のライン』だと言っていましたよね? それを聞いて、どこか日本的な美意識の香りがするなと感じたんです」

渡邊「日本の美意識?」

伊藤「美意識……というか文化というか。言葉の話になるんですが、縦組みが基本の言語って、実はあまりないんです。日本語は横組みもできますが、基本は縦組み。つまり、目線を上から下へ流すことに慣れているんです」

山田「なるほど」


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『弘法大師風信帖・灌頂記』国立国会図書館デジタルコレクション


伊藤「弘法大師・空海は字が上手なことで有名なんですが、彼の書からも、山田さん、渡邊さんが言ったような縦のラインが自然に見て取れるんです」

渡邊「おもしろい! 空海の書にもグリッドを感じられるなんて……!」


《付録》

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伊藤「今回のイベントでは、あと2つポスターを制作したんですよね」

山田「そう。僕のは、ラインごとに文字数が変わっていって、『PEACSDAY』のブロックがひとつの面に見えるようにしたんだ」

渡邊「私は、マージン(余白)を思い切って大きくとったところがポイントですかね……」

山田「渡邊さんは、上部を1ラインか2ラインかですごく悩みながら作っていたのが印象に残ってる。結果、いいものに仕上がったね!」

伊藤「面のイメージをもたせるのも、ライン感を出すのも、字間の調節が大変そうですね……」

山田「うん、字間に関して話し始めると、底なしになっちゃうね(笑)。難しい。書体によっても違うから、本当に終わりがない」

渡邊「終わらない話、おもしろそうですね! いつかしてみたいです!!」

伊藤「ははは……、それでは、今年はこのへんで締めくくりとしましょうかね! 読者のみなさま、お付き合いいただきありがとうございました!」


参考文献
普及版 欧文書体百花事典』(組版工学研究会)
遊びある真剣、真剣な遊び、私の人生 —解題:美学としてのグリッドシステム』(ビー・エヌ・エヌ新社)
弘法大師風信帖・灌頂記』国立国会図書館デジタルコレクション


【次回予告】

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