見出し画像

上京一日目。

日曜日。
目が覚めると見慣れない構図の部屋が眼前に広がる。
20余年染みついた朝食習慣に則り、パンを焼く。
ポッドで沸かした湯をインスタントの一回きりのドリップバックコーヒーに注ぎ込む。
Wi-Fi環境が整っていないため、通信料を気にしつつも、applemusicでカネコアヤノを検索、一括ダウンロード。
洗濯物をいれなくちゃ、干していた洗濯物を思い出す。
未読のマンガを読まなくちゃ、明日はジャンプの発売日だ。
一人暮らしにここまで寄り添ってくれる音楽であることは、一人暮らしを始めるまでは分からなかった。

そうこうするうちに昼ご飯を食べようとしたが、適当なカップラーメンさえ家にはない。実家の利便性をここで実感する。

牛乳、焼きそば、サラダチキン、キャベツ、ウォーター。
今この一食のためでなく、明日、それから明後日の食事を考慮しながらする買い物は新鮮であった。
ポイントカードはありますかと聞かれて、ないと答える。
お作りしましょうかと言われて、ないと言う。
扉を出る時にこれからもここで幾度も買い物することになることに気が付く。逡巡した後、もう一度引き返してサービスカウンターでカードを発行する。

キャベツにサラダチキンをのせた味気ない食事で腹を満たし、うたた寝する。起床すると友人から飲みの誘いが来ている。

渋谷に7時に訪れる。
大手出版社のマンガのアニメ化決定を知らせる大看板。
高収入を謳う広告を乗せて走るトラック。
ハチ公前で高校の同級生と会うことの違和感、些細な喜び。

地下に続くこじゃれたレストラン。
ゆずの歌詞に出てくるような中華レストランに足を運ぶ。
定食が1000円に満たない店が東京にもあるのかと、驚く。
話す内容、雰囲気。これは東京にしかないものではない。
懐かしく、暖かく、現実味が薄い。
JRの改札口の前で、立ち止まって喋る。
また会える、それでも少しだけ今までと違う別れになる。
「ばいばい」
これはきっと、友人に対して向けたふりをした、自分に対してのグッバイ。学生のボクと社会人のボクが、握手をして手をふって別れる。

明日は10時から入社式だ。
時間、スーツ、ネクタイ。
色々なモノが確定している。
そこに実感は伴わない。

MIYASHITA PARKは、喫茶店ルノワールは、東京にある。
近鉄が、551が、東京にはない。
東京の街、何があって、何がないのか。

一つ一つ確認する作業が、唯一ボクに実感を与える。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?